4 春歌が勇気づけてくれる

「魅花……」

「えっ、嘘、魅花ちゃんだよね、あれ……?」


 ため息交じりにつぶやく俺と、驚きをあらわにする春歌。


「もしかして『他に好きな人ができたから』みたいな理由で別れを切り出されたの?」

「……まあ、そうだな」

「うーん……」


 春歌は魅花とも友人だ。

 それだけに複雑な感情があるのだろう。


「そういえば、前に合コンに行くって言ってたような……うーん、うーん……」


 などとつぶやいている。


 合コン……なるほど。

 そこであいつと知り合ったのかもしれないな。


 確か魅花から『須山』って呼ばれていた、あのチャラ男と――。


「なんだか騙されてるような雰囲気があるんだよね……」


 春歌がうなった。


「春歌?」

「あ、ううん。なんでもない……ボクとしては君たちのカップルが好きだったから、やっぱり残念で……何かの誤解で、また上手くいったらいいな、なんて思ったりもしたけど」

「それは無理だよ。さっきのを見れば、分かるだろ」

「……だね。ごめん、変なこと言って」

「いや、いいんだ」


 俺は力なく首を左右に振る。


「じゃあ、さっきも少し言ったけど、今から『爆裂バーガー』に行かない?」


 と、春歌が提案する。


 いつまでも悩んでいても仕方がない。

 魅花とは『終わった関係』なんだ。

 次の恋に向かって切り替えよう。


 ――なんて、簡単に割り切れたら苦労はしない。


 くそ、気持ちの奥が澱んでる感じで、どうにも嫌な気分だ。

 ……こういうのを未練がましい、って言うのかな。


「別に無理に切り替えなくてもいいと思うよ」


 春歌が俺を見つめた。


 いつも『にゃはは』とか言って笑ってるこいつが、滅多に見せない真剣な顔で。


「一人になりたければ、ボクはこの場を去るし。誰かに話すことで、ちょっとでもコータくんの気持ちが軽くなるなら、いくらでも付き合う」

「春歌……」

「幼なじみのよしみってやつだね、にゃはは」

「……ありがとう、春歌」


 持つべきものは幼なじみだ。


「そうだな。さっきより腹減ってきたし……ちょっと付き合ってもらおうかな。お言葉に甘えて」


 言ったとたん、『ぐう』と腹が鳴った。


「ふふ」


 笑う春歌のおなかも『ぐう』と鳴った。


「あ……」


 彼女が恥ずかしそうに頬を赤くする。


「えへへ」

「行くか」

「ん」


 俺たちはうなずき合い、駅前にある『爆裂バーガー』の店舗に向かって歩き出した。


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