2 俺と剣ヶ峰春歌の関係


「やほー、なんか悩んでたっぽい顔してたから声かけたよっ」


 彼女が朗らかな笑顔で言った。


 艶やかな黒髪を高い位置で結ってポニーテールにしている。

 背中に背負っているのは袋に入った竹刀。


 活動的な雰囲気もあいまって、侍みたいな印象の女の子だ。


 名前は剣ヶ峰けんがみね春歌はるか


 俺のクラスメイトで幼馴染でもある。

 ……ちなみに、魅花とも仲がいい。


「べ、別に悩んでないよ」


 俺はなんとなく視線を逸らしてしまった。


 いや、もちろん本当は悩んでるんだけど。

 でも、その悩みの内容の中心は真白さんなんだよな。


 それを話すってことは昨夜の初体験や、魅花と別れたことまで話すってことだから……ちょっと言いづらいなぁ。


「ん? んん?」


 春歌が俺の顔を覗きこんだ。


「な、なんだよ。距離近いぞ……?」

「んんん?」


 さらに顔を近づける春歌。


「やっぱりなんか悩んでるね。ボクにはお見通しさっ」

「そんな顔を近づけなくても、見りゃ分かるだろ」

「えへへ、どきっとした?」


 限界まで顔を近づける春歌。


「あ、別に唇を奪おうというわけじゃないのでご心配なく」

「そんな心配はしてないが……」

「あ、もしかしてボクにちゅーしてほしかった? でも君とはお友だちだから」

「ああ、俺も友だちのままでいるつもりだ」

「だよね。コータくん、大事な彼女いるし。大丈夫。ボクだって彼女持ちにアプローチなんてしないよっ。魅花ちゃんを悲しませたりしないからねっ」

「うっ……」


 その言い方は若干、心にくるな……。

 春歌は俺が魅花と別れたことを知らないんだし、仕方がないんだけど――。


「ん、どうかした?」

「いや、実はその……」


 春歌に言うべきだろうか。


 うーん……まあ、どうせそのうち知られるし、いいか。


「俺、魅花と別れたんだ」

「またまた~。あんなにお似合いのカップルだったじゃない」

「本当だって」

「いやいやいや」

「だから本当だって」

「……そ、そうなんだ」


 俺が再三言って、春歌もようやく理解したようだった。

 冗談ではないのだ、と。


「ご、ごめんっ。無神経だったね!」


 春歌がいきなり深々と頭を下げた。

 今にも土下座せんばかりだ。


「い、いや、いいって。気にするなよ」


 変なところで律儀なんだよな、こいつ。

 でも、そういう彼女のことを俺は嫌いじゃなかった。


「ん、あれって――」


 ふと、春歌が目を細めた。

 人ごみの一角を見据えている。


「どうした、春歌?」

「あの人、新発売の激烈ウルトラ爆裂バーガーを食べてる」

「よく見えるな……」


 確かにハンバーガーらしきものを食べているような感じだけど、種類まではとても判別できない。


「えへへ、ボク目がいいからねっ」

「たいしたもんだ」

「ボクも食べたいって思ってたんだ。あ、よかったらこれから『爆裂バーガー』まで行かない?」


『爆裂バーガー』というのは全国チェーン展開しているファーストフード店で、駅前にも一店舗ある。


「その、ちょっとでも気分転換に……」


 あ、こいつなりに気を遣ってるのか。


「そうだな、昼飯代わりに――」


 言いかけたそのとき、俺はハッと気づいた。

 さっきのハンバーガーを食ってる人のすぐ後ろに、見知った人間が歩いている。


「魅花……!?」


 しかも、あのチャラ男も一緒である。


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