第2章

1 十二歳の年の差について考える

 真白さんは昼前に帰っていった。


 彼女は仕事の異動でこっちに来たそうだ。

 で、数日前に引っ越しを終えたばかり。


 まだまだ家の中が片付いていないため、その片付けに戻るんだとか。


 もうちょっと一緒にいたかったな――。

 恋人同士みたいにイチャイチャしてみたかった。


 ……とそこまで考えて、俺は重大なことに気づいた。


「ん、待てよ? 俺と真白さんって恋人同士なのか?」


 エッチしたんだし、昨日の雰囲気からして俺に好意を持ってくれてそうだし……だよな?


 いや、どうなんだろ?

 あらためて考えると、真白さん酔ってたから、酒の勢いでこうなっただけってことも……?


「ああああああああああああ、考えると分からなくなってきたぁぁぁぁっ!」


 俺は頭を抱えてしまった。


「でも初めてを捧げてくれたわけだし」


 ……もういい年だし、いい加減に経験したかったってだけかもしれない。


「遊びでこういうことをするような人には思えないし」


 ……俺が知らない間にそういうタイプに変わったのかもしれない。


 ……そもそも俺がそう思っていただけかもしれない。


「うおおおおお、真白さんの本心が分からんんんんんっ……!」


 俺は激しく心を揺さぶられていた。


 それに、一番肝心な問題が存在する。


 俺はそもそも真白さんのことをどう思っているんだろう?


 これから真白さんとどうなりたいんだろう――?




 家の中で考えていると、どうにも頭の中がまとまらない――ということで、俺は外に出た。


 まだ日中で、柔らかな春の日差しが心地いい。

 体中にエネルギーがみなぎっているような感じがした。


 もう童貞じゃないんだなぁ、と軽く感慨に浸った。


 本当なら魅花を相手に初体験していたはずなのに――。


 ……いや、そんなことを考えるのはよそう。


 終わったことはどうしようもない。


 脳裏を一瞬、魅花のキスシーンがよぎった。

 もう完全にトラウマになりそうだ。


「違う違う違う違う違う……」


 そうだ、真白さんの笑顔を思い出して癒されよう。


 そう、真白さんのことだけを考えるんだ。


「真白さん……真白さん……」

春歌はるかちゃん……春歌ちゃん……」


 どこかから声が聞こえた気がした。

 が、俺は自分の思考に没頭していて、他のことを気にする余裕がなかった。


「真白さん……」

「春歌ちゃん……」

「真白さん……!」

「春歌ちゃん……!」

「まし……春歌ちゃん……ん?」

「あはは、入れ替わったね!」


 笑い声がして顔を上げると、そこには一人の少女が立っていた。

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