7 真白の好感度はすでにマックス?(真白視点)

 ……初体験、してしまった。


 清白きよしろ真白ましろは熱に浮かされたような思考の中で、ふうっと息を吐きだした。


 彼……影沙希かげさきコータのことは子どものころから知っている。


 12歳年下の、親戚の男の子だ。


 いつか『大きくなったら結婚する』なんて約束をしたことがあった。

 もちろん、他愛のない冗談である。


 だけど、たぶん彼の方は自分を意識していたんじゃないだろうか。

 真白は当時すでに大学生だったし、彼を男として意識するということはなかったが――。


 その後も、彼女には恋愛体験は訪れなかった。

 学生時代や職場の同僚など、何度か告白される機会はあったが、真白の方は気乗りしなくて断ることばかりだった。


 今思えば、恋愛というものに対して夢を抱きすぎていたのだろう。

 そして同時に恋愛というものに憶病になりすぎていたのだろう。


 そうこうしているうちに、気が付けば二十九歳。

 いわゆるアラサーになっていた。


 就職を機に故郷を離れた真白は、異動によって久しぶりにこの町に戻ってきた。

 地元の友人と久しぶりに飲み、嬉しさで羽目を外してしまい、少し飲みすぎて――。


 繁華街で、コータと再会した。


 第一印象は、


(えっ、コータくんってこんなに大人っぽくなったの? やだ、かっこいい……!)


 そんな感動だった。


 そこに、ずっと彼氏がいなかったという焦りが、彼女の心を大きく揺らした。


 再会したコータが、思ったよりもかなり格好よく見えたこともあったかもしれない。

 さらに酔った勢いもあったのだろう。


 酔いが回って動けなくなった彼女は、コータの家に運び込まれていた。


 そこでコータと一線を越えてしまった。


 今までずっと処女喪失の機会がなかったことが嘘のように、あっけないほど簡単に、彼と一線を越えてしまった。


 しかも、それだけではない。

 朝になり、彼が起きてきて――二回戦に突入してしまった。


 そして今は、その二回戦も終えて、二人で並んでベッドに横になっている。


「やっぱり、かっこいいな……」


 隣のコータを見つめ、真白はふうっと熱い吐息をもらした。


「えっ」


 真白のつぶやきにコータが振り返る。


 昨晩は、この人の腕に抱かれたんだ――。

 思い出すと、恥ずかしさがぶり返す。


 生まれて初めて感じた、異性の肌の熱と量感。

 そして自分の中に入ってきた、たくましい男性の――。


「ああああああああああああ、恥ずかしすぎるぅぅぅ……」


 頭が茹るような感覚とともに、真白は両手で顔を覆った。


「あの、真白さん……?」


 コータが驚いたように声をかけてくる。


「もしかして、思い出して恥ずかしがってる?」

「そ、そりゃあ……」

「俺も同じ。めちゃくちゃ照れくさい。でも、それ以上に――すごく嬉しい」


 コータの笑顔を目にして、真白の胸はキュンと疼いた。


 これから彼とどうなっていくのかは分からない。

 年の差があるし、一夜限りの関係になるかもしれない。


 勢い任せに初体験してしまったが、不思議なほど後悔の念が湧かなかった。


 今はただ、彼の側で過ごせる喜びを感じていたい。

 彼のぬくもりを、感じていたい――。




***

次回から第2章になります。ここまで読んでいただき、ありがとうございました!


***

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