第93話 衣装合わせ
一悶着はあったが、一丸となってからはスムーズに事が進んだ。
男装チームは、小谷さんの家で一から執事の作法を学んでいるらしい。キッチン担当も、下手なものは出せないと天盾さんの家で料理のスキルを磨いているらしい。
そして、文化祭まで残り3日の放課後。
今日、俺たちの制服が出来上がった。
「おおっ……これが本職の着るメイド服かぁ。すっげー!」
興奮気味に叫ぶ淳也と、ワクワク顔の女装チームのみんな。
当たり前だが、女装用のウィッグまで用意されている。しかもご丁寧に、地毛の色と合わせて。
今日は男装チームもいて、和気あいあいとあれこれ話している。
例のいざこざがあってから、クラスの雰囲気はいい感じだ。みんな楽しんでるのがよくわかる。
「淳也って、こういうのノリノリだよな」
「まーな。なんちゃって女装はノリでやった事あるけど、ガチ女装は初めてで楽しみだぜ」
「それで目覚めたらウケるな」
「やめろやめろ。俺に限ってそんなこと、ぜってーないから」
そういう奴が意外とハマるんだよなぁ。
自信満々な淳也を見ていると、天盾さんが前に立ち注目を集めた。
「えっと……み、皆さんに制服が行き渡ったと思います。採寸はしっかりしていますが、念の為に試着をしてください。高校生は1ヶ月もすれば色々と変わる部分があると思うので……」
うん、確かにその通りだ。男でも女でも
けど……これを、着るのかぁ……。
「なんだよ、葉月。浮かない顔してよ。お前だけだぞ、渋い顔してんの」
「いや、だって……」
「だってじゃねーって。トップのお前がそんなんだと、クラスの士気が下がるだろ」
じゃあ言ってやるよこのクソボケども!!
「なんで! 俺だけ!!
◆◆◆
『え、みんな一緒じゃつまんねーから。それにジャンケンで負けたのお前じゃん』
「あーそうだよわかってるよちくしょう!」
道端に転がっていた空き缶を蹴飛ばし──ついでにゴミ箱に捨て──深く息を吐く。
結局、あの場で服は着れず、持ち帰ることに。天盾さんにも、「お家で着て、フィット感を確かめてください」とか気を使われてしまった。
これを家で着る……くそっ、なんでこんなことに。
とにかく、雪宮だけは家に入れないようにしないと。あいつに見られたら死ねる。
『葉月:雪宮、今日は俺がいいって言うまで、部屋に来るな』
『氷花:なんで命令口調なのよ。やり直し』
くっ……!
『葉月:申し訳ありません。諸処の事情により、わたくしが連絡するまで部屋に来ないでもらえないでしょうか?』
『氷花:いいの? 制服のお着替えを手伝おうと思ったのに』
なんで知ってんの!?
『葉月:誰から聞いた』
『氷花:春風会計よ。彼女は紬さんから聞いたみたいだけど。というか、春風会計は私たちの関係を知っているから、家で手伝ってあげてと言われているのよ』
なんでこうペラペラと喋っちゃうかな!?
あーっ……く……そっ……!
『葉月:……わかった。よろしく頼む』
「ええ、任せなさい」
「え?」
思わぬ声に顔を上げると……雪宮が俺の部屋の前で待っていた。
いつも思うけど、こいつどんなスピードで帰ってるんだ。本当に俺とタイミングで学校出てる? ずるしてない?
「早いな」
「私も準備があったから」
準備? 俺の衣装合わせに、なんの準備が?
……まあいいか。いつまでもここにいたら、また春風さんの時みたいに誰かに見られるかもしれないし。
鍵を開け、雪宮を連れて中に入る。
いつもと同じはずなんだけどな……何故かめちゃくちゃ緊張する。これから、女物の服を着るからか?
「さあ、準備しなさい。上は肌着と……下は短パンでいいわ」
「いやいや。お前とのひとつ屋根の下で、パンイチになる勇気はない」
「ぱっ……!? い、いいからっ、早く着替えてきなさい……!」
おー、あの雪宮が照れてる。お嬢様はこういう言葉にも耐性がないのか。
とりあえず寝室で制服を脱ぎ、言われた通り肌着と短パン姿でリビングに戻った。が……。
「何、それ?」
「メイク道具よ。私のだけど」
見ればわかる。俺が聞きたいのは、なんでそれがテーブルに設置されてるのかってことだ。
「どうせ家で着替えるなら、本番を想定しましょう。……と、春風会計が言っていたわ」
「……本当に?」
「…………ええ、本当よ」
じゃあなんだよ、その間は。
はぁ〜……まあ、その為に準備してきてくれて、今更やだとは言えんよな。どうせ当日もメイクするんだし……遅いか早いかの違いか。
「私は隣の部屋にいるわ。着替え終わったら調整するから、呼びなさい」
「……あの、全部?」
「当たり前でしょう」
そうかぁ……全部かぁ。
……コレ見て、何も言われないかな……?
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