第91話 論破
【作者より】
年末ということもあり、『年越しSS』をショートストーリー版で公開しました。
時間のある方は、是非お読みください!
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バチギスで空気が悪い中でも、授業は淡々と進んで行く。こういうところは、進学校っぽい。
まあ、どことなく空気が浮ついていて、何度か先生に怒られたんだけど。
昼休みになると、女装チームはみんなで集まり、空き教室で最後の練習を。男装チームはあれだけの啖呵を切ったからか、特に練習はせず優雅にお紅茶を嗜んでいた。
かく言う俺は、教室にやって来た雪宮と黒月に、今朝あったことを説明中だった。
「やれやれ……なんでこんなことになるのかしらね」
「ぬへへ。はづきち、大変だねぇ」
「笑いごとじゃないんだが」
なんでこんなことにとか、俺が一番知りたい。どうしてこうなった。
雪宮は髪を払い、腕を組んで教室を見渡した。
「まあなんにせよ、これが発覚したのが前日じゃなくて良かったわね。当日は目も当てられない事態になっていたわ」
「うんうん。事故とか怪我とか、大変なことになってたと思うよ。ポジティブ、ポジティブ♪」
そう言ってくれて助かるわ。
前向きに捉えれば、本番までにあと10日ある。それまでに、まず女子たちのプライドをへし折って……。
頭の中で様々な状況、パターン、タイミングを考えていると、1人の女の子がこっちに近付いてきた。確か、男装チームの1人……だったよな。
「失礼、雪宮会長。今の発言は、私たちに対して言ったのですか?」
「ええ。その通りよ、小谷さん」
お、おお……雪宮、他クラスの人間の名前まで覚えてんのか、すげぇな。
周りはいつも通りに過ごしつつ、こっちに意識を向けているご様子。2人の会話が気になるみたいだ。
「まさか会長は、私たち淑女が負けるとでも思っているのですか?」
「え? ええ、思っているけれど……」
何を言っているの? という顔で小谷さんを見つめる雪宮。
さすがに突っかかって行った小谷さんも、雪宮のリアクションにタジタジだ。
「し、しかし我々は幼い頃から、英才教育として様々なことを叩き込まれて……! 執事の動きだって、いつも見ているからわかっていますわっ」
「……ふむ……」
おお、おお。さすがプライド激高小谷さん。まだそれを言うか。
雪宮は手で口を覆い少し思案する。小谷さんの顔から察するに、論破したって思ってるだろうけど……雪宮を舐めちゃいけない。
こいつの怖さは、俺が一番よくわかってる。
そして多分、辿り着く答えは……俺と一緒だ。
そのことを察したのか、雪宮が俺の方を見てきた。
「八ツ橋会長。私の考え、言い当てられる?」
「ああ、もちろん」
「なら、私の代わりに伝えてあげて。部外者の私より、同じクラスのあなたの方がいいでしょう?」
「へいへい」
女神様の仰せのままに。
俺が小谷さんに目を向けると、鋭い眼光で睨まれた。こわっ。
「小谷さん。あんた、100メートルを走り切れるか?」
「……はい? え、ええ、まあ。それくらいならできますわ」
「50メートルのクロールは? ボールを投げたり打ったりは?」
「……馬鹿にしてます? 私たちは英才教育を受けた淑女。それくらいできて当然です」
うんうん。そうだよな、当然だよな。
「なら経験者ばかりの大会で優勝できるよな。オリンピックで金メダルを取るのも当然か?」
「で、できるわけないじゃないですかっ! ──ぁ……」
俺の問いに、小谷さんは食い気味に答える。
が、その質問の意図を理解したのか、一瞬で顔色が変わった。
「なんでだ? 100メートルを走り切れるんだよな? 泳げて、投げられて、打てるんだろ? なら勝てるはずだが?」
「そ……れは、その……」
おー……小谷さん、何も言い返せず口をもごもごさせてるぞ。
小谷さんは助けを求めようと振り返るが、男装チームのみんなも下を向いたり、こっちを見ようとしていない。誰か助太刀に入ってやれよ、可哀想に。
「……型やフォーム、動きを知っていようと、それで上手く動けるかは別問題。練習している相手には敵わない。簡単な理屈だと思うが……俺、何か間違ったこと言ってる?」
雪宮と黒月を振り返ると、2人とも首を横に振った。
「ま、そういうこった。向こうは体を動かすことしか脳がないし、馬鹿だし、うるさいし、何かあるとすぐ調子に乗るし、数週間しか練習してない付け焼き刃だろうけど……やる時は死ぬ気でもがく。勝負となったら全身全霊だ。それが、
小宮さんに1歩近づき、目の中を覗き込む。
「あんまりあいつらを舐めんなよ、お嬢様?」
「ッ……!」
あ……逃げた。てかちょっと泣いてなかった? 俺、やりすぎた?
「はづきち、さいてー」
「そこまで言えなんて誰も言ってないわよ、
お前らどっちの味方!?
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