第90話 内部分裂
怒涛という言葉が似合うくらい、怒涛の日々が過ぎていく。
遂に文化祭まで、残り10日となった今日……我がクラスでは、重苦しい空気に包まれていた。
いや、俺来たばかりだから状況を理解してないんだけど……何事?
明らかに苛立っている様子のメンバーは、女装チーム。
それとは対象的に気まずそうにしているのは、男装チーム。
被服担当とメニュー・キッチン担当のみんなは、ハラハラとした様子で見守っていた。
特に天盾さんなんて、今にも気絶しそうだ。可哀想に。
「よっす、淳也。どうしたんだこの空気。気まずいんだけど」
「おー、葉月。こういう時堂々と気まずいって言えるのは、めっちゃ助かるわ。正直俺も気まずい。このやり場のない感情をどうすればいいのかと」
ガシガシ頭を掻く淳也に釣られて、女装チームもため息をつきながら空気を弛緩させた。
「んで、何があった?」
「端的に言うと、男装チームが執事の練習をサボってたんだよ」
淳也の言葉に、女の子たちがまた気まずそうに顔を伏せた。
「だ、だって、執事の動きはいつも見ていますし……」
「や、やり方はわかっていますもの」
「それに私たちが、執事の作法を習うというのは……」
あー、なるほど。要はお嬢様ならではの、要らぬプライドってやつか。
懐かしいなぁ、雪宮も最初は似たような感じだった。
まあ、あいつに限って言えば、汚部屋掃除というマイナスからのスタートだったから、そこまでプライドを刺激するようなことはなかったけど。
初めて雪宮と出会った時のことを思い出していると、また男どもが苛立ったのを感じた。
うーん……確かにこれは問題だけど、こんな空気じゃ仲を取り持つこともできない。
「はいはい、落ち着けお前ら。お前らが怒ると怖いんだよ。みんな怯えてんじゃん」
苛立ってる野郎どもの頭を1人ずつ叩いていく。と、小島が頭を擦りながら顔を上げた。
「でもよぉ、葉月。俺ら放課後、毎日3時間も残って練習してたんだぜ? こんなことやられたら、こっちのやる気も起きねーっての」
「言いたいことはわからんでもない。でもそこで苛立っても仕方ないだろう」
むすーっとして睨んで来る野郎どもを無視して、男装チームを見渡す。
まあ俺としても、こいつらばかりを引っぱたく訳にもいかないから、女子であろうと引っぱたきたい気持ちは山々なんだが……昨今やたらと面倒な風潮のせいで、それもできないからなぁ。
「お前ら、本当に自分たちは練習もせず、本番はちゃんとできると思ってんのか?」
「も、勿論です」
「華麗に、優雅に、スマートにこなしてみせます」
こっちもこっちで、引くに引けないご様子。
やれやれ、どうしたら……。
「あ、あのぉ……」
頭を抱えていたその時。天盾さんが、おずおずと手を挙げた。
「そ、それなら、実際にお給仕をしてもらってはどうかと……」
「実際に?」
「は、はい。女装メイド、男装執事の皆さんに、直にお給仕をしてもらうんです。審判は、私たち中立の人間が担当しますので」
ほうほう。なるほど、それはいいかもしれない。ゲーム感覚で面白そうだ。上手く行けば、クラスの結束が深まるだろうし。
「お前ら、それでいいか?」
不服そうな女装チームを振り返ると、俄然やる気満々といった感じで立ち上がった。
「おう、もちろんだ!」
「この3週間、扱きに扱かれたメイド術!」
「とくと見せつけてやろう!」
ムキッ、ムキッ、と謎のポーズを取る野郎ども。お前らそれメイド関係ないじゃん。
すると、男子のムードに当てられてか、男装チームたちも立ち上がって自信満々に胸を張った。
「わかりました。こちらも受けましょう」
「私たちはそもそもの教育が違うのです」
「格の違いを見せつけあげますわ」
バチバチに睨み合う両チーム。
うんうん、面白くなってきた。……でもこれ、無事終わんのか? なんか悪化してない?
ギスギスムードのクラスを眺めてため息を着くと、天盾さんがちょこちょこと俺に近づいてきた。
「す、すみません、八ツ橋さん。まさかこうなるとは思わず……」
「こればかりは仕方ないさ、気にすんな。で、いつ勝負する? もう文化祭まで時間がないぞ」
「今日の放課後で良いと思います。まだ衣装は届いていませんので、制服のままですが」
「ん、わかった。それでいいぞ」
その方が男装チームも、一夜漬けの小細工とかできなさそうだからな。
さて、このギスギスムード、どうなることやら……ちょっとワクワク。
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