第88話 生活習慣
【作者より】
『ツンな女神さまと、誰にも言えない秘密の関係。』のショートストーリー集を作成しております。
ご興味のある方は、是非ともご覧下さい!!
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結局、いつもの勉強に加えて接客の特訓というタスクまで追加されてしまった。
正直、かなり難しい。接客自体はいいけど、メイドの動きとか作法が大変すぎる。
文化祭のメイド執事喫茶って、萌え萌えきゅんなメイド喫茶とか、なんちゃって執事とか、そんなイメージだったんだけど……余りにもガチすぎる。
あれから3日。ほぼ毎日紬さんの指導を受けた結果、立っているだけならなんとか様になってきた。全身筋肉痛だけども。
「ほら、八ツ橋くん。こっちよ」
「ぐっ……ぬっ……!」
が、しかし。それでも手を抜かないのが雪宮流だ。
今日はせっかくの土曜日なのに、朝から雪宮の特訓を受けていた。正直、紬さん並に厳しい──
「零したら貴方のゲームや本が濡れるわよ」
──訂正。紬さん以上に厳しい。鬼か、こいつは。
下を見ると、俺の歩く道の左右には、俺が大切にしているゲームや本が並べられている。
人の心とかないんか? ……これをリアルで言うとは思わなかった。
「あの、雪宮さんっ? もう少し穏便にっ。じ、慈悲をくれ……!」
「安心しなさい。壊れたり濡れたりしたら弁償するわ」
あ、それなら……よくねーよ!? 金にものを言わせんな!?
慎重に1歩、また1歩と歩みを進める。
「あんよが上手よ」
「喧しいッ」
ぐ、ぐぬっ……ぐぬぬぬぬっ……!
ご……ゴー……ル! 着いたぞ、雪宮の所に!
雪宮に水の入ったグラスを取ってもらい、ようやく座ることができた。
タイムは15分弱。たった数メートルなのに、えらい時間がかかったな。
「やればできるじゃない、八ツ橋くん」
「お、おう。俺にかかればこんなもんよ……!」
「でも体幹はグラグラよ。ほら」
真横から撮っていたのか、動画を見せてくる。
確かにグラグラ……いや、最早変な踊りに見える。メイドとかの前にギャグ漫画の人間みたいな動きだった。
「さすがにこれじゃあ、お客様の前には立てないわね」
うん、これは酷い。こんなメイドに接客して欲しくない。
「まあ、これは練習するしかないわね。でもそれ以上に、もう1つ大切なことがあるわ」
「ああ……スキンケアだっけ」
昨日の放課後、紬さんに言われたことを思い出す。
『女装メイドになるからには、メイクもすることになります。なのでメイクの乗りを良くするために、スキンケアはより入念に行ってください』
だったか。方法は各自に任せるとも言ってたっけ。今はネットがある便利な時代だからな。
「そう、スキンケアよ。これも私が教えてあげるわ」
「いいのか? そうしてくれるとありがたいが……」
「ネットで適当に調べて、適当にスキンケアするよりいいでしょう?」
「まったくもってその通りです」
何故か申し訳なくなるほど、反論のしようがない。
だって俺、普通の石鹸で顔洗ってるだけだもん。一応化粧水だけは付けてるけど。
「まあ、それは今日の夜からするわ。それより八ツ橋くんは、今日から肌にいいメニューを考えないと」
「あー、そうか。こういうのって内側が大切っていうもんな」
確かに油物を食べた次の日とか、結構肌がベタつく。
そうか、1か月間油物やジャンクフードは禁止か……食べ盛りの高校生にはかなり酷な仕打ちだ。
ダメと言われると、途端に食べたくなる。ハンバーガーとかラーメンとかトンカツとか食べたい。
「……でもそうなると、雪宮も俺と同じ飯になるか」
「………………………………ええ、大丈夫よ」
「間」
今の間、全然大丈夫じゃないじゃん。
元々コンビニやスーパーの惣菜、お菓子ばっか食ってたもんな。好きな物は子供の好きな物ばかりだったし……俺よりキツそうだ。
……そんな食生活を送ってたのに、初めて会った時から肌がツルツルだったのは納得いかない。これが美人の遺伝か。
「……いいわ、私もあなたの食事に付き合うわよ」
「いいのか?」
「文句言っても仕方ないもの。スーパーのお惣菜に頼るのも、あなたに悪いし」
意外だ。こいつが俺に気を使うなんて。
「……ありがとう、助かる」
「気にしないで。それに私も最近……い、いえ、なんでもないわ」
なんだ、顔を背けて? 何を言いかけたんだ?
「そ、それより。まだ今日は時間はあるのだし、続き行くわよ」
「えっ、まだやんの?」
「時間は有限。できる限りやるわよ」
何故かやる気満々の雪宮が、また俺の頭にお盆とグラスを乗せてきた。
あの……座ったまま乗せられると、立てないんですが……?
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