第67話 異質な女の子
◆◆◆
「八ツ橋ー、スタンプくれー」
「あいよ」
場所は変わり、銭洗弁天にて。
俺はぽつぽつとやって来る白峰の生徒たちに、無心になってスタンプを押していた。
やっぱり金運のいい場所なだけあって、かなり人気らしい。
うちの高校以外にも、普通に一般客が多い場所だ。
最後の女の子にスタンプを押すと、にこりと微笑んで頭を下げてきた。
「お疲れ様です、八ツ橋さん。お疲れではないですか?」
「え? あー……まあそれなりに?」
「ふふ。ではこちら、お土産です。どうぞお食べになってください」
「こりゃまた、ご丁寧にどうも」
女の子は俺に袋を手渡すと、グループのみんなと銭洗弁天に入っていった。
こうして他クラスの女子と関わることがないから、かなり新鮮だ。お土産も嬉しいし。
……新鮮で、嬉しいんだが……。
「多すぎんだろ……」
俺の後ろにある壁には、すでに他のグループから貰ったお菓子や飲み物の山が。
いや、嬉しい。嬉しいは嬉しい。
けど、来る度にいろいろと貰うから、申し訳なくなってくる。
「──人気ですね、八ツ橋様は」
「人気……って言うんですかね、こういうの」
俺はすぐ隣にいる女子に目を向けた。
白峰女子高校の生徒会メンバーの一人。
会計の
春風さんは名前の通り、おっとりぽわぽわ系の女子だ。
常に微笑みを絶やさず、生徒会でもマスコットキャラ化している。
いつものぽわぽわ笑顔を見せながら、けど困ったようにお土産の山を見た。
「すごい量ですね。来る方々、皆さん持ってこられて……どうするのですか、これ?」
「一緒に食いましょうか。どうせ次のグループが来るまで時間ありますし」
「遠慮致します」
……え?
春風さんの方を振り向くと、いつもと変わらない笑顔を見せていた。
「私、八ツ橋様のことあまり好ましく思っていませんから」
「急に辛辣じゃん」
いや、別に好かれようとは思ってないけど、こんなド直球に言われるとは。
「冗談で〜す♪」
「腹立つ」
やべ、ピキピキきたわ。ビビり散らかした。
春風さんはイタズラが成功した子供のように、口元に手を当てて笑った。
「八ツ橋様とお話するのは初めてですから、少し緊張してしまいまして。どうですか、私のジョークは」
「心臓に悪い……それ、雪宮の入れ知恵ですか?」
「ま、よくわかりましたね」
あいつのぷちドヤ顔が目に浮かぶわ。
春風さんは少し恥ずかしそうに頬をかくと、手をモジモジさせた。
「せっかくなので、お近付きになりたいじゃないですか。今までお話できなかったですし……こうやって同じ場所に配置された縁なのですから」
「だからって心臓に悪い冗談はやめてください」
「雪宮会長から、こうすると喜ぶと聞いていたのですが」
「後で教育しておきます」
とりあえず納豆を死ぬほど食わせてやる。確かあいつ、納豆嫌いだったし。
スタンプスポットは、全部で十箇所。生徒会メンバーは、両校合わせて十五人ほど。
人数的に、どうしても二人で一つの場所を担当する必要なあった。
ならばと、男女一組で担当することになったのだ。
因みにまた雪宮が不正を働かないよう、今度は俺が公正に組み分けした。
あんなに恨めしい目を向けられたのは初めてだったな……まさかその仕返しか? 子供かあいつは。
「さて、仲良くなったところで、お土産をいただきましょうか」
「え、仲良くなったの?」
「私は今ので、唯一無二の親友並に仲良くなったと確信しております」
「あなたの自信はどこから」
「私は(心の)熱から」
「喧しい」
春風さんはにこにことお土産の中から団子を取り出し、美味そうに頬張った。
「んーっ。おいしーですねぇ」
「……そっすか」
掴みどころがないというか、真意が見えないというか。
今まで会ってきた誰とも似てない。
きっちりしてるとも違うし、適当とも違う。
よく言えば自由奔放。
悪く言えば異質。
春風さんの第一印象は、そんな感じだった。
横に並び、俺もまんじゅうを食べる。
む、美味い。
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