第68話 興味津々

「ところで八ツ橋様。お聞きしてもよろしいですか?」

「はい?」



 聞きたいこと……なんだろう。特に聞かれるようなことはないと思うけど。

 春風さんはお茶を一口飲み、少しだけこっちに流し目を向けてきた。

 顔面がいいから、流し目がすごく様になってる。

 ちょっとドキッとしたのは内緒な。



「最近、雪宮会長と一緒にいますよね」

「え? ……あぁ〜……えっと、テストも近いから、勉強を見てもらってて……」



 我ながら歯切れの悪い言い訳だ。

 そんな俺を見て、春風さんは朗らかに笑った。

 馬鹿にしているわけではなく、ただ楽しそうな笑顔だ。



「テスト勉強ですか。それにしては、前からよく一緒にいるようですけど?」



 確信したような言葉。

 なんだ? 何が言いたいんだ……?

 少し警戒していると、それに気付いた春風さんは慌てたように頭を横に振った。



「あ、安心してください。特に深い意味なないですから」

「そ、そうですか?」



 まあ、俺と雪宮が一緒にいて、春風さんが困ることとかないし……。

 隣に住んでることは伏せて、生徒会長として意気投合したってことにしておこう。

 ……意気投合、してないけど。無理あるかな?

 でも、それくらいしか話すことないし……よし、それで行こう。



「えー、俺と雪宮はですね……」






「ただ、お二人が一緒のアパートに入るのを見てしまいまして」

「…………」






 はい、詰んだ。

 一緒のアパート? 入っていった? いつ、どこで見られてた?

 極めて表情に出さないように無言を貫いてると、春風さんはこっちにスマホを見せてきた。



「私、剣道部でして。帰りが少し遅くなる時があるんですよ」

「へ……へぇ。そうなんですね」

「はい。いつも通り部活が終わって帰る頃……夕暮れ時に、お二人がスーパーから出てくるのを見ちゃいました」



 これがその写真です。と、俺と雪宮が並んでいる写真を見せてきた。

 緩い三つ編みに伊達メガネの雪宮。

 これは……あ、猫グッズを大量に買い漁った日か……!

 やばい、まさか見られてるだなんて思ってもみなかった。

 それどころか、この変装を見破られるだなんて。



「で、こっちがアパートに入っていった時の写真です」



 はい、アウト。

 あの時は確か別々の部屋に帰って行ったから、俺の部屋に入るなんてことはなかった。

 けど、雪宮が自分の部屋に入っていったあと、俺が隣の部屋に入っている様子の写真がバッチリ写っていた。

 わー、高画質。薄暗いのに、今のスマホってこんなに綺麗に撮れるんだね(現実逃避)。

 ……いや、現実逃避している場合じゃない。

 なんとか、この場を乗り切らないと。



「えっと、あー、それはだな……」

「あ、本当に安心してください。この写真でゆすろうとか、たかろうとか、そんなのは考えていませんので」

「……本当か?」

「ええ。春風に誓って」



 春風さんは目の前で写真を消し、にこりと微笑む。

 バックアップとかもろもろ、気になるところはあるが……一旦、信じてみてもいいか……?



「……まあ、お察しの通り。俺と雪宮は隣人の仲だ」

「ま、そうだったのですね。幼なじみとか?」

「いや、俺が春に引っ越してきて、偶然な」

「なるほど、それで。どうりで、学校での距離も最初と比べて近いと思っていました」



 マジか。学校ではそうならないうに注意してたつもりだったんだけど。

 あ……そういや黒月からも、結構疑われてたな。

 学校での雪宮との接し方に気をつけなきゃ。



「そっ、それで、八ツ橋様」

「ん? うぉっ……!?」



 きょ、距離近っ。目キラキラ……!

 未知のことに興味津々って感じのキラキラ具合。しかも距離めっちゃ近い。



「ゆゆゆゆ雪宮会長とは、いったいどのようなご関係でっ? じ、実はすでにお付き合いされているとか? あ、それともご婚約されているとかっ」

「ち、違います違いますっ。俺と雪宮はそんな関係じゃありませんから…!」

「……違うのですか?」



 あからさまにしょんぼりしてしまった。

 あの、すみません……?



「残念です。やっとリアルの恋愛を聞けると思ったのに……」

「リアルの恋愛って……」

「ほら、私たち白峰の生徒は、ずっと女子だけの世界で育ってきました。なので、男女の恋愛にすごく興味がありまして……」

「そ……そうだったんですね」



 確かに、黒羽にいた時も女子と付き合ったって男子のところには、恋バナに興味のある男子が集まってた気がする。

 そこは、男子も女子も変わらないんだな。

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