第66話 校外学習・当日

 てなわけで、翌日。待ちに待った校外学習の日だ。

 生徒は、制服で一度学校に集まる。

 で、事前に決めた目的地に向かって、各々の経路で向かうことになっていた。

 今は校長先生の、長くもありがたいお話を聞いている。

 女子生徒はきりりと。

 だが、男子生徒は基本眠そうだ。

 仕方ないな、あいつら。



「続いて、各生徒会長のお言葉。八ツ橋生徒会長」

「はい」



 司会の先生に呼ばれ、俺が前に立つ。

 別に前に立つのはいい。もう慣れた。

 けどニヤニヤ顔の男子生徒にはムカつく。



「えー、元黒羽高校の生徒会長、八ツ橋葉月です。今日は黒羽高校と白峰女子高校の統合後、初めてのイベントとなります」



 無難な切り口で話し始める。

 特にリアクションはなし。まあ求めてもいないけど。



「両校、慣れないことが多いと思いますが、これもひとつのきっかけとして、親睦を深めてください。しかし、くれぐれも街中で悪ふざけはしないように。特に男子諸君」

「いや俺らだけかよ!」

「ふこーへーだー!」

「当たり前だ。お前ら一度でもふざけてない時があったか?」

「「「……ねーな」」」



 自己認識が高くて助かるよバカヤロウ共。

 俺の言葉に、女子たちの間に張り詰めていた空気も僅かに弛緩した。

 代わりに先生たちからの視線は痛いけど。

 ごめんて、そんな睨まないで。



「ふざけてる等のタレコミがあった場合、俺が脳天に生徒会長パンチをぶち込むので、そのつもりで。以上です」



 拍手と奇異な視線を受けながら、壇上を後にする。

 と、次に呼ばれた雪宮とすれ違った。



「あなたらしいわね」

「イケてるだろ?」



 壇上へ上がる直前、雪宮はにこりと微笑んだ。

 折り目正しく頭を下げたのち紡がれる、歌のような声と、綺麗な言葉の数々。

 雪宮に苦手意識を持っている男子たちも、呆然と雪宮を見上げる。

 女子たちは言わずもがな、羨望と尊敬の眼差しを向けていた。

 やっぱり雪宮ってすごい。

 俺じゃあ、トークだけでこんなに人を惹き付けられない。

 雪宮の義母は、あいつを一流の女として育てたいみたいだけど……もう十分、一流だと思うけどな。



「それでは、白峰高校の生徒として、節度ある行動を心掛けてください」



 雪宮が頭を下げると、割れんばかりの拍手が起こった。

 おいコラお前ら。俺の時はそんな拍手してなかっただろーが。

 くそ、これが人望の差か。

 雪宮が壇上から降りると、先生の指示で生徒たちがそれぞれ出発した。



「お待たせ、黒月副会長。行きましょうか」

「ういっ。はづきち、一緒に行こー」

「おー」



 なんとなく二人を連れ立って、学校を後にする。

 もちろんみんな同じ目的地だから、あちこちに制服姿のグループが目に入る。

 楽しそうにしている奴ら。

 ダルそうにしている奴ら。

 女子と距離を縮めようとしている奴ら。

 男子を鬱陶しそうにしている奴ら。

 既に意気投合している奴ら。

 良くも悪くも、グループとしてまとまって動いている。



「みんな楽しそうだねー」

「そうね。少しずつ距離を詰めてもらえると、準備をした私たちも嬉しいもの」



 前を歩く二人のあとをついて行く。

 この二人も、いつの間にかこんなに距離が近くなったんだな。

 そりゃあ毎日一緒に勉強してたら、仲良くもなるか。

 にしても、ザ・ギャルな黒月とザ・清楚な雪宮が一緒にいると、なんとなく違和感がすごい。

 だけど共通してるのは、ものすごーく美少女ってところだ。

 そんな中にいるパンピーな俺。

 違和感どころではない。もはや謎だ。



「そーいえば、氷花ちゃんってどこ担当なの?」

「鶴岡八幡宮よ。黒月副会長は確か、長谷寺だったわね」

「そーそー。アジサイがめちゃんこキレーなんだって! まだ満開じゃないらしーけど、ちょー楽しみ!」



 うきうきるんるん。まるで子供のようにはしゃぐ黒月。

 そんな黒月に引っ張られてか、雪宮も少しだけ足取りが軽やかだ。



「はづきち、早く行くよ!」

「八ツ橋生徒会長、早くしなさい」

「はいはい」



 先を行く二人を追い、俺も少し歩みを速くした。

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