第54話 寝落ち

   ◆◆◆



「あぁ~、つっかれたぁ……!」

「そ、そうね。私も……さすがに疲れたわ」



 鎌倉探索が終わり、家に帰って来たのは二十一時。

 一日中歩き回ったせいで、もう疲労困憊だ。雪宮も顔に疲れが見える。

 それに黒月の件もあったからなぁ。精神的にもめちゃめちゃ疲れた気がする。

 もう飯は食ってきたし、あとは風呂に入れば寝れるけど……今は風呂に入る気力も湧かない。

 荷物をしまい、ソファーに座り込む。

 雪宮も俺の隣に座って、ほっと息を吐いた。



「無事、スタンプラリーのポイントが決まってよかったな」

「ええ。ここなら、湘南と合わせても全部回りきれるでしょう」



 手に持っていたマップをカバンにしまい、ぐっと伸びをする雪宮。

 こんなに気の抜けた姿を見るのは初めてだ。

 ……俺のベッドで寝てたときは、ノーカンで。



「ココア飲むか?」

「……いらないわ。今日はいろいろと飲み食いしちゃったし、しばらくダイエットしないと」

「まあ、トータル摂取カロリーで言うと5000キロカロリーは下らないもんな」

「言わないで……具体的な数字を言わないで……」



 ずーん。おお、落ち込んでる。珍しい。

 今からコーヒー飲むと眠れなくなりそうだし、俺も今日はいいかな。

 無言で虚空を見つめる。疲れすぎてなんにも考えられない。

 雪宮も同じみたいだ。ソファーに体を預けて、ぼーっとしている。

 ぼーーーーーーーー……。

 ぼーっとしすぎて魂抜けそう……ん?

 不意に、俺の肩に重さが加わる。

 隣を見ると、なんと雪宮が俺の肩に頭を乗せてた。



「え、ちょ、雪宮……? 雪宮さーん……?」

「……すぅ……くぅ……」



 が、ガチ寝しとる……。

 ものすごく気持ちよさそうに寝てるから、変に起こすのは気が引ける。

 でもこのまま寝かせるのも、なんだか悪いような。

 ……まあ、しばらく寝かせてやるか。

 ソファーの横に掛けていたブランケットを、雪宮の膝に掛けてやる。

 さて、俺は全く動けなくなったわけだが……マジでやることがなくなった。



「ん……ふあぁ~……やべ、俺も眠くなってきた……」



 ダメだ、ここで寝るのはダメ。風邪引く。

 それに座ったまま寝たら腰痛めるし。

 ここは我慢……がまん……が、ま……ん……。

 …………。



   ◆氷花side◆



「…………」

「すぅ……ぐぅ……」



 …………。

 ……………………。



「!?!?!?!?!?」



 え、な、え……!? なななななっ、なっ。え……!?

 な、なんで私、八ツ橋くんと寝て……!?

 慌てて八ツ橋くんから離れると、私の膝に掛かっていたブランケットが落ちた。



「あ、これ……まさか、八ツ橋くんが……?」



 それによく見ると、ベッドじゃなくてソファーで寝ていたみたい。

 ということは……私が寝落ちしてしまって、八ツ橋くんがブランケットを掛けてくれたということよね。

 念のため体のあちこちを確認する。

 触られた形跡はない。変なことはされてないみたいね。

 ……ちょっと腹立つのはなぜかしら? 変なことされなくてよかったはずなのに、ちょっと腹立たしいわ。

 そっとため息をつき、八ツ橋くんから離れる。

 時間はもう2時。結構な時間寝ちゃっていたみたい。

 さすがに今から起こすのは気が引けるわね。かといって、寝かせたまま部屋を出るのも忍びないし……どうしましょう。

 このままここにいてもいいけど……でもそれって、男性の部屋に一晩泊まるってことになるわよね。

 今八ツ橋くんは寝ているから、襲われる心配はないと思うけど……。



「八ツ橋くんの家で、お泊り……」



 ドキッ、ドキッ、ドキッ――。

 心臓の音がやけにうるさい。それに顔も熱い気がする。

 何かしら。今までこんなことなかったのに。

 まさか、ソファーで寝ていたから風邪でも引いたのかしら。まずったわ。この私が体調管理を怠るなんて。

 このまま家に帰っても、鍵を閉める手段がないし……申し訳ないけど、ベッド借りようかしら。

 そう、これは体調を鑑みて、仕方なく借りるだけ。何もやましいことはないし、体力をちゃんと回復させるために必要なこと。だから全然問題ないの。

 ……いったい誰に言い訳をしているのかしら、私は。

 八ツ橋の肩からブランケットを掛けて寝室に入ると、前に寝落ちしてしまったベッドが目に入る。

 これは仕方のないこと。緊急避難。うん、大丈夫。大丈夫。

 ベッドに潜り込み、布団を掛ける。

 ……八ツ橋くんの匂いがする。なんだか安心するというか……一気に、眠く……

 うつら、うつら……すやぁ……。

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