第53話 ある意味因縁

「えー、マジ偶然じゃん。何してんの?」

「か……観光……」

「マ? ウチらもだし」



 一人の女子が、ぐいぐい黒月に迫る。

 けど黒月はどこか迷惑そうというか……あんまり関わりたくなさそうだ。

 何かしらの関係がありそうだけど、友好的じゃなさそう。

 でもここで俺と雪宮が突っかかるのも、よくないと思う。少し静観しておくか。



「黒月さん、この方たちは?」

「ど……同級生。小学校のときの……」



 てことは、転校先の知り合いってわけか。

 友達って言わなかったってことは、まあそういうことなんだろう。



「……そう。あなたたち、悪いのだけど、今私たちは学校の課外授業のために話し合いをしているの。席を外してくれないかしら?」



 雪宮、お前怖いもの知らずすぎというか、度胸ありすぎだろ。初対面相手になんでそんなガツガツ話せるわけ?

 雪宮の言葉に、ギャル二人はむっとした顔をする。

 こんなところでキャットファイトとかやめてくれよ……?



「ま、まあまあ。雪宮、落ち着け」

「私は落ち着いてるわよ」



 じゃあ喧嘩腰になるんじゃないよ。



「なんか感じ悪いー」

「いーじゃん。友達に久々に会ったんだし、ちょっとくらい話させてよ」

「……とも……だち……?」



 おい黒月。お前さっきの雪宮みたいになってんぞ。



「黒月、友達じゃないのか?」

「……多分、恐らく、めいびー……?」



 なんだその疑問形。

 けど二人は納得してないのか、余計に機嫌を悪くしたようで。



「酷くね? ウチらめっちゃ遊んだじゃん」

「てか、ウチらが一方的に遊ばせてもらってたって感じだけど」

「言えてるー」



 ……今、なんて? 遊ばせてもらってたって……それって、つまり……?

 黒月を見ると、頬を染めて気まずそうに顔を伏せた。



「……なあ、遊ばせてって、どう遊んでたんだ?」

「え? ふつーに髪いじったり、無理に食べさせたり?」



 ……ちょっと言いづらいんだが……まさか──



「まさか、黒月さんをいじめていたんじゃないでしょうね」

「ド直球」



 雪宮、もう少しオブラートというものを学べ。



「は? いじめ?」

「何それちげーし。遊んでただけだって」

「加害者はみんなそう言うのよ」



 ピリついた空気が場に流れる。

 一応声は潜めてるから、周りからは不審には思われてないけど……これ以上ヒートアップしそうだったら、止めないとまずいな。



「だからちげーって……!」

「ウザ。そんなに言うなら写真見せてやんよ」

「え……ま、待っ……!」



 黒月が慌てたように二人を止めようとする。

 が、それよりも早く一人の女子が、スマホをこっちに突き出してきた。

 そこに写っていたのは。






 髪を三つ編みやお団子にいじられたり、大量のおかしをいろんな女の子からあーんをされている……まんまるな黒月(小学生)だった。






「いやあああああああああ! なんで見せたの! なんで太ってるときの写真見せたのぉ!!」

「ご、ごめん。でも、信じてくれなかったし……」

「だからってそんな写真見せなくてもいーじゃん!」



 ど、どうどう。黒月、さすがに落ち着け。店の迷惑になるから。

 黒月の肩を抑えて落ち着かせる。

 さっきの気まずい空気はどこへやら。俺と雪宮、ぽかんと置いてきぼりである。

 雪宮も状況を把握できていないのか、ぼそぼそと口を開いた。



「えっと……髪をいじるって……?」

「三つ編みとか、お団子とか、ツインテとか」

「無理やり食べさせるって……」

「陽子って美味そうになんでも食べるから、みんなで餌付けをしてたんよ」



 ……あー……そういう……。

 黒月が顔を合わせづらそうだったから、無理に髪切ったり、虫とか食わせたりとかそういうのかと思った。



「てっきり変な因縁があるのかと……」

「ち、違っ……! ……ウチ、昔は暗かったじゃん? そんで、変わった姿を見られるのがちょっと恥ずかしくて……」



 ……確かに、黒月って昔暗かったな。俺と一緒にいた時も後ろからついてくるだけというか、主張しないような性格だったし。

 それに髪色も、昔は黒で今は金。なるほど、陰キャがキャラ変したのを見られるのが恥ずかしかったのか。

 …………。



「本当に申し訳ない。勘違いで機嫌を損ねさせてしまって……ほら、雪宮も謝れ」

「ご、ごめんなさい。ついカッとしてしまって」



 雪宮と一緒に謝ると、二人はケラケラ笑って肩を叩いてきた。



「気にしないでいーよ」

「確かに、ウチらもまぎらわしー言い方だったし。でも陽子に、こんなに思ってくれる友達ができて安心したし」

「それな。じゃーね、陽子。また遊ぼー」



 と、二人はさっぱりとした笑顔で店を出ていった。

 いやぁ……黒月以上にギャルっぽい子たちだったけど、普通にいい子……人は見かけによらないな。



「うぅ。恥ずかしすぎる……おなしょーの知り合いにイメチェンした姿を見られるの、マジではずい」

「だから再会しても、あんまり嬉しそうじゃなかったんだな」

「う……うん……」



 そんな恥ずかしがることないと思うけど。

 でも、よくあの二人、黒月のことわかったな。小学校の頃とは随分印象が変わったと思うけど。



「あ、でもいーことはあったかな」

「いいこと?」

「うんっ。二人が、ウチのために怒ってくれたこと。ぬへへ、めっちゃ嬉しかったよっ」



 ぅ……勘違いとはいえ、恥ずかしい……。

 雪宮も恥ずかしいのか、顔を少し赤くして顔を逸らした。



「あれぇ? 二人とも、顔赤いよ?」

「「う、うるさい」」

「ぬへへっ。ぬへへへ〜」



 くっ……マジで恥ずかしい。

 俺は黒月からの視線を遮るように、わらび餅も一気にかき込んだのだった。

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