第55話 セクハラ……?

   ◆葉月side◆



「……またか」



 起きて隣に雪宮がいないと思ったら、俺の布団で爆睡してやがる。

 まあ、二回目だから慣れたけど。

 俺がソファーで爆睡して背中がビキビキなのに、ぐっすり寝やがって。あとで文句言ってやろうか。



「くぅ……すぅ……」

「……はぁ。まったく……」



 こんな気持ちよさそうな寝顔を見せられたら、文句の言いようがないな。

 布団を掛け直してやり、寝室を出る。

 今日は日曜日の上に、まだ朝の七時だ。宿題に関しても、雪宮大先生のおかげで問題ないし……やることないな。

 ……にしても、なんで雪宮のやつ俺のベッドで寝てるんだ? 鍵とか気にせず、帰ったらよかったのに。



「……まだ体に疲れが残ってるな。気晴らしにコーヒーでも……あ」



 そういや、帰ってきてから即寝したから、風呂入ってない。

 さすがに歩き回って汗かいたから、汗臭いな……今から風呂入っちまうか。

 雪宮は、どうせまだ寝てるだろ。

 湯船にお湯を溜めている間に、洗濯物やその他の雑多な仕事を終わらせる。

 十分もしないうちに、湯船が溜まった音が聞こえた。

 シャンプーと石鹸で全身の汚れを落とし、湯船に肩まで浸かる。



「あぁ〜……生き返る……」



 朝風呂さいこ〜……ぜいたくな朝だ。

 因みに俺は、湯船には絶対に温泉の素を入れるタイプ。その方が香りも相まって、リラックスできるから。

 何がってわけでもないけど。

 たっぷり三十分くらい入っていただろうか。

 疲れも取れたし、そろそろ上がるかな。



「ちゃらちゃっちゃ〜♪ ちゃちゃちゃんちゃ〜ん♪」



 確か冷蔵庫に牛乳が入ってたはず。風呂上がりは牛乳に決まりだな。

 腰にタオルを巻いて、冷蔵庫から牛乳を取り出す。



「んくっ、んくっ、んくっ……ぷはぁっ、うまぁ……! 牛乳は牛だけど。なんつって」

「何言ってるのよ」



 …………。



「おい、いつから聞いてた?」

「下手くそな歌から」

「下手で悪かったな」



 いつの間にか起きていたのか、リビングから雪宮の声が聞こえる。

 リビングに入ると、雪宮は素知らぬ顔でココアを飲んでいた。

 済ました顔しやがって。さっきまで俺のベッドで寝てたくせに(意味深)



「おはよう、雪宮」

「ええ、おはよう。八ツ橋く……ぶっ!?」

「うわ、きたな。ちゃんと床拭いとけよ」

「ご、ごめんなさ……って、違う! なんで服着てないのよ!」

「え? ……あ」



 やべ、いつもの癖で忘れてた。



「すまん。でも全裸じゃないから問題ないだろ」

「問題よ! そそそそそんなっ、たっ、タオルの下、ははははは履いて……!」

「まあ履いてないけど」

「セクハラ! 訴えるわよ!」

「わ、わかった。わかったから落ち着け」



 そんな叫ばなくても。

 今どき、ネットやテレビで男の半裸なんてよく見るし、何をそんなに顔を真っ赤にしてるのやら。

 リビングを出て、服を着てから戻る。

 と、雪宮は頬を両手で覆い、何かをぶつぶつ言っていた。



「み、み、みみみ、みちゃ、見ちゃ、た……! は、はじめてっ。お、おと、ぉぉぉ、ぉとこの人のっ、は、はだ、はだだ……!」

「……おい、大丈夫か?」

「ひゃっ……! ……大丈夫よ」

「え、どこが?」



 普通に顔真っ赤だし、挙動が怪しすぎるんだが。

 ……まさか、本当に男の裸を見たことないのか? この情報化社会で? そんなことある?



「雪宮って、すげー純情なのな……」

「どどどどどこがよ。わ、わ、私だって……!」

「……へそチラり」

「!?!?!? ば、ばかぁ!」

「いでっ! 痛い痛い! ごめっ、謝るから蹴らないで!」



 的確にカーフキックを決めるなっ、ふくらはぎ痛すぎるから!

 ようやく落ち着いた頃には、お互い息も絶え絶えに。俺なんて風呂に入ったのに、また汗かいちゃったよ。

 深くため息をつくと、換気のために窓を開ける。

 と……ムワッとした熱気とともに、雨の匂いが鼻腔をくすぐった。



「あ……雨降ってきたな」

「本当ね……私、雨って嫌い」

「そうなのか? まあ俺もどちらかと言えば嫌いだけど」

「でも、嵐はもっと嫌い。……大嫌い」

「……そうか」



 なんとなく、そのことには触れない方がいい。

 そう思い、雪宮に雨を見せないようにカーテンを閉めた。

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