第52話 暗雲……?

   ◆◆◆



「いやぁ〜、歩いたねぇ〜」



 和風喫茶に入ると、黒月は満足気な顔で机に突っ伏した。

 その気持ちもわかる。一日で結構な名所を回ったし、人力車やタクシーも使ったけど、あっちこっち見るのにかなり時間が掛かった。

 まあ、そのほとんどはこいつらの食べ歩きや寄り道のせいなんだけどさ。



「お前ら、買い物しすぎだろ……特に雪宮」

「な、何よ。これくらい普通でしょ?」

「どこがだ」



 雪宮の足元には、大量の紙袋が。

 しかもそのほとんどが、猫グッズ。なんと鎌倉に、猫グッズ専門店があったのだ。

 それだけならまだいい。こいつ、ゆく先々の猫グッズを買い漁ったんだ。

 そのせいでめちゃめちゃ時間が掛かった。というか、掛かりすぎた。



「なんで俺が保護者みたいなことを……こういうのは雪宮の役目だろ」

「いいじゃない。私だってたまには息抜きしたいわ」



 そうかもしれないけどさ。



「まあまあ、はづきち。落ち着いて」

「いや、お前も人のこと言えんが?」



 足元の紙袋には、大量の熊グッズ。

 どうやら黒月は熊が好きらしい。いやなんで鎌倉に熊グッズが売ってんだよ。

 あ、おいコラ目を逸らすな。



「はぁ……二人が日頃からストレス抱えてるのは知ってるし、なんだかんだ俺もめちゃめちゃ楽しかったからいいんだけどさ」

「ぬへへ……あれ? ウチ、そんなストレス抱えてるっぽい感出てた?」

「見てりゃわかる」



 こいつはそんなことないって言うけどな。

 あんなに周りから奇異な目で見られてて、ストレスを感じてない方がおかしいだろう。

 雪宮に関しては言わずもがな。

 というか二人だけじゃない。白峰の生徒って、どことなく窮屈そうに見えるんだ。

 もちろん、お嬢様学校としての威厳というか、誇りみたいなものもあるだろう。

 けど、威厳と誇りで自由にできない人生ってつまんないと思うんだよな。

 なんて思っていると、黒月がジト目で俺を見てきた。



「な、なんだよ?」

「……はづきちって、いつもそうなの?」

「は?」



 いつも? いつもって何?



「わかるわ、黒月さん。この人っていつもこうなのよね」

「だよねぇ〜。てか氷花ちゃんもわかってるんだ」

「ええ。生徒会長同士、いろいろと関わりがあるから」

「にゃるほど」



 ……何言ってるの、二人して?

 俺、いつも何か変なこと言ってた? えぇ、何それ。俺いつも何言ってたっけ?

 やべ、不安になって喋れなくなる。



「八ツ橋くん、あなたは気にしなくていいわよ」

「そーそー。はづきちはずっと、そのままでいてね」



 親戚の子供を見るような目で見られてる……!?



「黒月さん、やっぱりストレスとか抱えていたのね。もし何かあったら、相談しなさい。同じ生徒会の仲間なのだから」

「ありがと〜氷花ちゃん。でもそこは、友達って言ってほしいなぁ」

「……とも……だち……?」

「氷花ちゃん!? ウチら友達だよね!? ね!?」



 いやぁ……雪宮の顔を見る感じ、マジで友達とは思ってなさそう。

 というか雪宮って、友達いるのか? ……いなさそう。雪宮だし。

 その時、注文していたスイーツが届いた。

 俺はわらび餅。雪宮は抹茶パフェと抹茶ガトーショコラ。黒月はあんみつとほうじ茶プリンだ。

 君たち、さっきまで普通に食べ歩きしてたよね。どんだけ胃に入るんだ。



「ん〜。おいしぃ……!」

「…………!」



 まるで水を得た魚みたいに、目を輝かせる二人。

 ……本当、正反対の二人なのに、反応は女の子なんだよな……。

 ぱく、うまっ。

 確かに、二人のテンションが上がるのもわかる。これはめちゃめちゃ美味い。

 今日一日を通してわかったけど、鎌倉だけでも十分楽しめる。

 ここと湘南を回るとなると、事前に回る場所を決めないと企画倒れになりそうだな。

 ま、高校生ならそこまでガチガチに固めなくても大丈夫だろ。多分。

 ……黒羽のグループチャットで、釘刺しとくか──






「あっれぇ? 陽子じゃん?」






「……ぇ……」



 ん? あ?

 顔を上げると、知らん女子二人がいつの間にか俺たちの傍にいた。

 黒月の友達か?

 そう思い黒月を見るが……なんだか様子がおかしい。顔色が悪い。

 なんだか嫌な予感。

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