第51話 肩車

 初っ端、アイスの買い食いをしてしまった俺たち。買い食い用のゴミ袋、用意してきてよかった……。

 それにしてもあの雪宮が食べ歩きをしてるって、見慣れないから違和感がすごいな。

 スマホの地図を頼りに練り歩き、ものの数分で目的地である小町通りに到着。

 あっちを見てもこっちを見ても、観光客で溢れている。

 外国人も多いし、着物を着ている人たちもいる。

 さすが有名観光地、鎌倉だ。



「ここを真っ直ぐ行けば鶴岡八幡宮か。初めての鎌倉だし、少し見物しながら歩くか」

「そうね、賛成だわ。もぐもぐ」

「ウチもゆっくり見て回りたいからね。もしゃもしゃ」



 ……おいお前ら、いつ串団子買ったんだよ。美味そうじゃねーか。俺も買ってこよう。

 串団子を二本買い、二人のあとに続いて小町通りを歩く。

 二人はあれこれと話しながら、各所で買い食いをして、ついでに写真に収めていく。

 楽しんでるなぁ、二人とも。

 まあ、俺も楽しんでないわけじゃない。むしろ、今まで来たことのない観光地にテンションが上がってる。

 ……二人がのんびり楽しんでるんだし、俺もゆったりさせてもらおうかな。



「あ! 見て見て、氷花ちゃん! フクロウカフェと豆柴カフェ!」

「本当ね。これは是非調査を──」

「さすがに待て」



   ◆◆◆



 暴走気味だった二人の手網を引き、なんとか小町通りを抜けた。

 つ、疲れた……なんでこなに疲れなきゃならないんだ。

 若干げっそりしながら、二人について行く。

 と、黒月が「あ!」と声を上げた。



「なんだ? フクロウカフェと豆柴カフェの次は猫カフェか?」

「違うよ! 見てはづきち、着いた!」

「え? ……おぉ……」



 急に開けた視界。

 そこには巨大な鳥居と、本宮へ続く長い参道が広がっていた。

 左右には広い池が広がっていて、本宮以外にも見どころがあるらしい。休憩所もあるし、ゆっくり見学するには最適だ。



「すごぉ……」

「これは圧巻ね。黒月さん、写真を撮っておいてくれるかしら?」

「うんっ」



 雪宮の指示で、あれこれと写真に収めていく。

 雪宮自身もメモに見どころなんかも書いていて、ちゃんと仕事をしていた。

 この二人、暴走しなければ普通にできる女って感じなんだよなぁ……暴走しなければ。大事なことだから二回言いました。



「これ、どう?」

「どれ? ……少し高さが足りないわね。八ツ橋くん、代わりに撮ってみて」

「ん? おう」



 黒月からスマホを借り、頭上に伸ばして写真を撮る。

 試しに何枚か撮ってみる。が、二人に比べたら身長は高いけど、あんまり変わったようには見えない。



「こんなことなら、踏み台くらい持ってくればよかったな」

「ウチはこれでもいーと思うけど……氷花ちゃんはどう?」



 写真を見て、雪宮は手を口に当てて思案する。

 そのまま待つこと数秒。雪宮は頷くと、俺を真っ直ぐ見上げてきた。






「踏み台になりなさい」

「酷くない?」






 サラッととんでもないこと言うじゃん。普通に嫌なんだが。

 しかし雪宮は、不思議そうに首を傾げる。



「嫌なの? 美少女に踏みつけられるのよ?」

「嫌に決まってんだろ。それは一部の人だけで、俺は該当しないからな」

「……じゃあ美少女を踏むのが好きなの?」

「断じて違う!」



 人を特殊性癖扱いすんじゃねぇ。



「仕方ないわね……じゃあ八ツ橋くんの撮ってくれた、この写真で……」

「待って、氷花ちゃん。ウチいいこと考えた。はづきち、しゃがんで」



 え? まさか黒月。お前も俺を踏み台にするんじゃ……。



「踏み台にしないから、普通にしゃがんで!」

「……こうか?」



 言われた通りにしゃがむ。

 と……ずしっ。急に肩が重くなり、顔の横にひんやりとした柔らかいものが。



「さーはづきち、すたんだっぷ!」

「すたんだっぷって……肩車しろと?」

「うぃ!」



 馬鹿かこいつは。



「降りろ」

「いや」

「降りなさい」

「やだ。はづきち、頭振らないで。くすぐったい……んぁっ」



 なんつー声出してんだこいつ!



「雪宮、お前も何とか言え」

「……やってみる価値はあるんじゃないかしら? 八ツ橋くん、立ちなさい」



 俺に味方はいないのか。

 はぁ……仕方ない。さっと持ち上げて、さっと撮って終わらせよう。

 脚に力を入れ、黒月を肩に乗っけたままぐっと立ち上がる。

 想像以上に肩に重さを感じる。が、持てないほどではない。



「おー! たっけぇ〜!」

「こら、感動してないで写真撮れ」

「あーい」



 頭上から何回かのシャッター音が聞こえてくる。

 だけどそれ以上に、周囲からの視線が痛い。めっちゃ見られてるんだけど。



「ほい、撮れた!」



 黒月が俺に乗ったまま、雪宮へスマホを渡す。

 その拍子に、脳天にものすご〜く柔らかくて、ずっしりとした物体が……。



「ふむ……いいわね。ナイス写真よ」

「ぬへへ、褒められた〜」

「も、もういいだろ。下ろすぞ」

「えー。いーじゃん、もーちょっとくらい。それにこれ、肩めっちゃ楽なんだよねぇ」



 だろうね。そんなにおっきいとね。

 問答無用でしゃがみ、黒月を俺の上からどかす。

 男心をもてあそびやがって……許さん。でもありがとう、とてもいい感触でした。

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