第50話 買い食い三人組
「かーまーくらっ、かーまーくらっ♪」
「黒月さん。電車の中ではしゃがないの」
いやいや、黒月の気持ちはわかるぞ。俺も観光地なんて久々だからな。表面には出さないけど、普通にテンション上がってる。
それに雪宮だって、昨日の夜もスマホでお茶屋とかスイーツ屋を調べてた知ってるからな。
「雪宮、最初はどこに行くんだっけ?」
「とりあえずは小町通りを歩いて、鶴岡八幡宮に向かうわ。それからバスやタクシー、人力車を使っていろいろと巡るわよ」
「りょーかい」
小町通りか。確か和菓子屋以外にも有名なパンケーキ屋もあったな。SNSでも結構バズってた気がする。
それに生しらす丼の店もあって食事もできるし……。
「おい。わかってると思うけど、食べ歩きは時間があったらだぞ」
「……わかっているわよ」
「今の間はなんだ。今の間は」
あと顔を逸らすな。
と、黒月も「えー」と声を上げた。
「ウチも食べ歩きしたいんだけどー」
「今日だけで結構な名所を回らないといけないんだぞ」
「食べ歩きなら問題ないって。それに、おすすめの食べ歩き店とかスタンプラリーマップにあったら面白いと思うんだよね」
む……確かに。
俺たちは別に、鎌倉に詳しいわけではない。それに学校も、買い食いを禁止しているわけではない。
もし食べ歩きマップもあったら……うん、いいかもな。男子共は食べ歩きってだけでテンション上がるし、女子に関しては甘いものが好きだろう。
「わかった、わかった。でもメインは名所巡りなのを忘れんなよ」
「もちろんよ」
「あーい」
なんで俺が二人に注意してるんだろう。こういうのは雪宮の仕事だろ。
まあ、もう雪宮の頭の中は食べ歩きのことで頭がいっぱいなんだろうけど。
「あ、見て見て氷花ちゃん。このお団子、カラフルでちょーかわいーっ」
「本当ね。すごくきれい……これは調査の必要があるわね」
ねーよ。どこに調査の必要があるんだ。
けど……確かに美味そうだな。朝飯は食ってきたけど、見てたら腹減って来た。
そういや雪宮のやつ、今日の朝飯はそんなに食べてなかったな……まさか食べ歩きするために、わざと朝を食べなかったのか?
……ありうる。雪宮なら全然ありえる。
雪宮にジト目を向けると、俺の視線を感じたのかあからさまに顔を逸らされた。おいコラ。
そっとため息をつき、窓から外を眺める。
ま……楽しみだな、本当に。
◆
電車に揺られ、乗り換えること一時間。
俺たちはようやく鎌倉駅へとたどり着いた。
「おおぉ~! 着いたー!」
「やっぱり少し遠かったわね」
「まあ、鎌倉は遠いからな」
でもおかげで、俺ら以外に知っている人がまったくいない。
だからちょっとだけはっちゃけても問題ないのが嬉しいな。
「あ! 抹茶アイス屋!」
「なんですってっ?」
「え? あ」
止める間もなく、駅前の抹茶アイス屋に向かってそそくさと行ってしまい、流れるようにアイスを買ってきた。
……めっちゃ美味そうだな。抹茶の色が濃い。
黒月がアイスの写真を撮ると、一口かじりついた。
「あむ。んまぁ~!」
「宇治抹茶を使ったアイスらしいわよ。すごく美味しいわ。ぺろ」
「……よかったね」
…………。
「俺も買ってくるっ」
はい、欲求と欲望には抗えませんわ。
俺も抹茶アイスを買うと、三人で食べながら移動する。
いやマジで美味いなこれ。雪宮が太鼓判を押すだけある。
「そろそろ暑くなる季節だし、アイスとかクレープ屋がマップにあると嬉しいかもな」
「そうね。ここもマップに入れる候補に入れておきましょう」
と、雪宮がメモにアイス屋の名前をメモし、アイスのを食べた感想を書く。
おお、ちゃんと仕事してる。よかった。
「マップには名前だけじゃなくて、黒月さんの撮影してくれた写真を載せる予定よ」
「なるほどな、だからさっき写真撮ってたのか」
「いんや? 別にそんなことかんけーないよ。おいしそーなものを前にしたら、写真撮りたくならない?」
「いや、まったく」
「……はづきち、つまんないじんせー送ってんね」
失礼だなお前。別に写真撮らなくても、普通の人生送っとるわ。
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