第40話 お留守番と睡眠

   ◆雪宮side◆



「…………」



 ……一人になっちゃったわ。

 八ツ橋くん、油断しすぎじゃないかしら。普通、他人に留守を任せる?

 ……それくらい信用してくれてるってことだとは思うけど。

 私はなんとなく落ち着かず、見慣れた部屋をぐるりと見渡す。

 ……先に勉強して待ってようかしら。そうね、そうしましょう。

 あらかじめ持ってきていた勉強道具を出し、勉強を始める。

 ……でも、数分もしないうちに集中が切れた。いつもならそんなことないのに。

 どうしても落ち着かず、うろうろ、うろうろ。

 と、八ツ橋くんの部屋の寝室が目に入った。

 そういえば八ツ橋くんの部屋って、リビング以外に入ったことないわね。

 ……気になる。どんな感じなんだろう。

 本当は悪いことって分かってても、好奇心には逆らえず。

 ちょっとした好奇心で、八ツ橋くんの寝室を開けると……思いのほか、すっきりした部屋が目に飛び込んできた。

 意外ね。もっと汚くしてると思ったけど。



「ぁ……八ツ橋くんのにおい」



 なんというか……濃いにおいがする。

 やっぱり寝室だと、どうしてもにおいがこもっちゃうわよね。

 でも……嫌いじゃないわ、このにおい。

 寝室に入って電気をつける。

 ベッドに本棚。あとは勉強机。それにアニメのフィギュアってやつかしら。後はちょっとしたオシャレな小物が置かれている。

 八ツ橋くんらしい部屋ね……ん?



「写真……」



 コルクボードいっぱいに貼られているのは、八ツ橋くんの写真。

 黒羽高校のときのものや、中学校で撮ったものらしい写真がある。

 でも子供の頃の写真が極端に少ない。

 まるで寂しさを埋めるように、コルクボード全体に貼られている。



「……あ、これ……黒月副会長かしら……?」



 ひときわ小さい頃の写真。

 そこには、ピースをしている八ツ橋と、八ツ橋くんの後ろに隠れている女の子が。

 今とは似ても似つかないけど、面影はある。

 多分この子が、黒月副会長だろう。

 そして、その後ろ……隠されるようにして、一枚の写真が貼られている。

 申し訳ないと思いつつ、興味本位でめくると……ご家族との写真が、貼られていた。

 まだ八ツ橋くんが生まれた頃かしら。

 少し疲れ顔のご両親が、八ツ橋くんを抱き締めている写真。



「幸せそうね……」



 八ツ橋くん、前にご家族とは仲良くないって言ってたけど、どうなのかしら。

 幼稚園の頃から家事をしていたみたいだけど……いえ、邪推するのはやめておきましょう。下手に考えることじゃないわ。

 写真を元に戻し、ベッドに腰掛けてもう一度ぐるりと見渡す。



「ここで寝起きしているのね……」



 そう思うと、なんだかドキドキしてきた。

 ……なんで私がドキドキしなくちゃならないのかしら。

 まさか、不整脈? 一度病院で検査してもらった方がいいかしらね。



「ん……ふあぁ……にゃむっ」



 眠い……お腹いっぱいだし、ベッドに座ったからかしら。一気に眠気が……。

 うつら、うつら。こっくり、こっくり……すや。



   ◆八ツ橋side◆



「くぅ……くぅ……」

「……えーっと……」



 なんで雪宮、俺のベッドで爆睡してんの? というか、なんで寝室に?

 いや、寝室に入るのは問題ない。別に隠すようなものもないし。

 けど男のベッドで爆睡はどうなんだ。何もしないけどさ。

 これ、俺じゃなかったら身の安全は保証できないぞ。まったく……。

 まあ、宿題は俺の実力でもできる量だし、寝かせてやるか。

 雪宮を起こさないように部屋を出て、とりあえずさっき買ってきた材料を袋から出す。



「初めて作るけど、できっかな」



 ……ま、なんとかなるだろ。

 雪宮が寝てたのは幸いかもな。起きる前に作ってやるか。

 俺はあるものを作るために計量カップや泡立て器を準備し、調理を始めた。

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