第34話 初めての……
◆◆◆
「あー……お見苦しいところをお見せした」
「八ツ橋くん、ごめんなさい……」
見事に全部完食した二人が、恥ずかしそうに目を伏せた。
こういうところ、本当によく似てるな。
「俺は全く気にしてないので、大丈夫ですよ。お二人が美味しそうに食べてるのを見て、俺も満足ですから」
「そう言ってくれるとありがたい」
口元を綺麗に拭った親父さんは、時計を見て立ち上がった。
「長居をした。そろそろお
「え?」
雪宮がきょとんとして俺と親父さんを交互に見る。
これは……許された、ってことなのか……?
親父さんはリビングを出て、革靴を履く。
無言だ。無言すぎる。どっちだこれ。
さすがにこのまま帰すと、どっちか気になりすぎて夜も眠れない。
「えっと……雪宮のお父さん」
「……八ツ橋さん、私のことは是清と。それかお義父さんでいい」
「え。あ、じゃあ是清さん」
「……何かね?」
なんで残念そうなんだよ。
あとおとうさんって、お父さんだよな。お義父さんじゃないよな。
……掘り返すと面倒なことになりそう。スルーしよ。
「氷花さんの部屋に来た理由って、一人暮らしができているかの確認ですよね。どうでした?」
「……美乃には、私から説明しよう」
それでは。と言い残し、是清さんは部屋を出た。
……これは、つまり……?
「許された、ってことでいいのかしら……?」
「多分な」
美乃っていうのが、雪宮の義母ってことだろう。
多くを語らず、説明するってだけ伝えるということは……ま、そういうことなんだろうな。
「よかったな、雪宮。これで一人暮らし継続できるぞ」
「そ、そうね。……そういうことよね……はぁ〜」
安心からか、雪宮はへなへなと廊下に座り込んでしまった。
気持ちはわかるぞ。関係のない俺だって、めちゃめちゃ緊張してたんだから。
……まあ、何故か最後の方は巻き込まれた感じもしないでもないけど。
「にしても、あのタイミングで味見しないとか焦ったぞ」
「ぅ……し、仕方ないじゃない。とにかく完成させなきゃって思ってて……」
「結果オーライだったけどな。図らずしも、思い出の味になったわけだ」
だからって、どういう分量で砂糖とみりんを入れたらあんな甘くなるのやら……。
こりゃ、しばらくまだ俺がついてないとダメかな。
なんか知らないけど、是清さんからも雪宮のこと頼まれたし。
「立てるか?」
「……無理そう。手、貸してくれない?」
「え」
「何よ」
「いや……うん……」
手を貸す……手を貸すって、あれだよな。手を貸すだよな。
いやいやいや。うん、わかってる。俺が混乱してるのは俺が一番よくわかってる。
だがしかし、俺の気持ちをわかってほしい。
生まれてこの方、女子の手はおろか、肌にさえまともに触ってこなかった男子高校生ですよ、わたくし。
でもこのまま放置する訳にもいかないし。
ぐ、ぬ……うぬぬぬぬ……。
「し、仕方ないな……ほら」
おずおずと手を差し伸べる。
くぅっ、まさかこんなところで女子と手を繋ぐことになるとは……!
……いや厳密には繋いでないんだけどね。まあ気持ち的に。
「ありが……ぁ」
と、手を取ろうとした雪宮が、ちょっと気まずそうに顔を逸らした。
何してんだこいつ。手を貸せって言ったの、こいつだろ。
「雪宮?」
「……ありがとう」
そっと手に触れると、雪宮はゆっくりと立ち上がった。
うわ、柔らか。すべすべ……!
それに思ったよりも小さいし、下手に力を入れたら折れちゃいそうだ。
雪宮を伴ってリビングに入り、ゆっくりと席に座らせる。
「大丈夫か? 飲み物いる?」
「……いただくわ。冷蔵庫にお茶のペットボトルがあるから、お願い」
「はいよ」
手……しばらく洗わな……いやいやそれはダメだ。何考えてんだ俺は。
頭を振って馬鹿な考えを外に追い出し、冷蔵庫からペットボトルを持っていく。
「ほれ。俺も一本貰うぞ」
「ええ、どうぞ」
雪宮の前に座ってお茶で一息つく。
……にしても、雪宮があんなに泣くとはな……ちょっと意外というか、気まずい。
雪宮も同じことを考えてるのか、もじもじとしていて俺を見ようとしない。
まあ、俺も雪宮に触れちゃって気まずいんだけどさ。
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