第20話 同じ……?

 弁当を開けると、まず目に飛び込んできたのはメインになる唐揚げ。

 一口サイズで小さいが、結構な量が入っている。

 それにキャベツの千切りとポテトサラダが彩り、弁当の定番である卵焼きは外せない。

 ご飯白飯ではなく、たけのこの炊き込みご飯だ。

 ちょうど旬の季節だし、ちょっと奮発して作らせてもらった。

 一応雪宮の方には、別のタッパーにイチゴも入れている。これも今の季節が旬だ。

 以上、俺特性のシンプルイズベストな弁当である。



「うわっ! はづきちのお弁当うまそー! え、一人暮らしだよね? これはづきちが作ったん?」

「ああ。まあな」

「すご! え、ちょっとちょうだい! ウチのたこさんウインナーあげるからさ!」

「はいはい」

「やりー!」



 黒月は嬉しそうに唐揚げを食べると、幸せそうに満面の笑みを浮かべた。

 冷めていても美味しいみたいでよかった。

 さて、肝心の雪宮はどうだ?



「…………!」



 めっちゃ目をキラキラさせてる。どうやらお気に召したようだ。

 子供っぽいものが好きっぽかったし、唐揚げにして正解だったな。

 自分の作った弁当が人に喜ばれるって、やっぱりうれしいもんだ。

 俺も手を合わせると、唐揚げを口に放り入れた。



「ん……うまいな」

「だしょ!?」

「なんで黒月がそんなに嬉しそうなんだ」

「ぬへへ。いやあ、はづきちが嬉しいと、ウチも嬉しいというか……ね?」

「なんだそりゃ」



 ちょっと気恥ずかしくなり、黒月から視線を逸らして卵焼きを食べる。

 うん、いい甘さだ。

 もぐもぐ咀嚼しながら周りを見渡すと、ちょっとずつだけどみんなも話が弾んでいるみたいだ。

 よかった。これで沈黙だったら、地獄絵図になってただろうし。



「おぉっ、さすが雪宮会長。美味しそうなお弁当ですね」

「そ、そんなことないわよ。普通よ、普通」



 そんな声が聞こえて雪宮を見ると、何人かが雪宮を囲んではしゃいでいた。

 普通で悪かったな、普通で。

 そんな俺の視線を察したのか、雪宮はがっつり目を逸らした。おいコラこっち見ろ。



「わ、私の方はいいから、みんな自分の席に戻りなさい。今日は親睦会なのよ」

「わかりました」

「雪宮会長、今度お料理教えてくださいね」

「それでは、また」



 雪宮の一声で解散していく生徒会メンバー。

 それはいいんだが、こいつ料理作る約束しちゃったぞ。いいのか?

 ……あ、無理そう。助けを求める目を向けてくる。

 全く、仕方ないな……ちゃんと料理教えてやるか。

 と、今度は黒月が雪宮の弁当に興味を持ったのか、前のめりになった。

 ちょ、黒月。そんな前のめりになるなっ。お前のおちちが重力に負けて大変なことになってるから……!



「ねーねー、氷花ちゃんっ。氷花ちゃんはどんなお弁当なのー?」

「黒月副会長。ちゃんと座って食べなさい」

「いーじゃんちょっとくらいー。……あれ?」



 黒月が雪宮の弁当を見て首を傾げた。

 ん? 何かおかしいところあったかな。結構気を使って作ったんだけど。

 俺も雪宮の方を見る。

 ……特に変わった様子はない。普通の弁当だけど……?



「ねえ、氷花ちゃんのお弁当とはづきちのお弁当、似てない?」

「「…………」」



 …………。

 ……………………。

 ………………………………あ。



「そんな事ないぞ」

「でも唐揚げとポテサラと卵焼きと……」

「いやいやよくある弁当だから。偶然の一致だろ」

「ぐーぜんでたけのこご飯も被んの?」

「よくあるからな。炊き込みご飯とか」



 って、これ以上ガンガン追求されるのはまずいっ。

 俺は自分の弁当を掴むと、ガツガツと掻き込むようにして頬張る。



「あ! はづきち、行儀悪い!」

「男子高校生はみんなこんなもんだ。それに惣菜パンも買ってきてあんだから、早く食わないと時間なくなっちまう」

「うわ、太るよそれ」

「男子高校生って、何食っても太らないから」

「男子高校生の言い訳万能すぎない!?」

「お前もさっさと食わないと、弁当が男子高校生の胃袋に入んぞ」

「ダメ! これウチのだし!」



 俺と黒月がギャーギャー言いながら昼飯を食べると、それがいい方へ転んだのか、みんなから緊張感が取れた。

 今では普通に隣の席の人と話してるし、黒月も別の男子と話している。

 それに乗じて、俺も雪宮へ話しかけた。



「悪かったな、普通で」

「あ、あれは勢いで……」

「わかってるって。俺だって同じこと言われた、雪宮と同じように答えるさ」

「……嫌な人ね」

「うっせ」

「冗談よ」



 雪宮は唐揚げを摘むと、味わうように咀嚼する。

 本当、雪宮の考えてることがわからん。

 俺は弁当をしまうと、買っていた惣菜パンにかじりつく。

 たまにはいいな、こういうパンも。



「……なかなか、言えないけど」

「あん?」



 少し言いづらそうに口をもごもごさせている。

 雪宮はちらっと俺を横目で見上げ、ゆっくりと口を開いた。



「……美味しいわ。いつも、ありがとう」

「……そっか」

「ええ。もう言ったからいままでのはチャラね」

「これからも言えばいいだろ」

「どうかしらね。気が向いたら言うわ」



 こいつ……やっぱり雪宮のこと、わかんねぇわ。

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