第21話 人の振り見て我が振り直せ
雪宮とあれこれ言い合っていると、黒月がじーっと俺たちの方を見てきた。
え、そんな大きな声で話してないけど……なんだ?
「黒月副会長、どうかした?」
「んー……? いやぁ。なんか二人とも、仲良くなったなーって思って」
「……そう?」
いや俺の方を見られても。
仲良く……仲良く、か。仲良くなってるんだろうか、俺たち。
普通に顔を合わせて、色々教え合って、皮肉を言ったりお小言を言ったり……。
……仲良くはないな、うん。
「いや、仲良くないだろ。たかだか一週間の仲だぞ」
「そっかなー? なんか……雰囲気? 距離感? そーいったものが、前よりいい感じだと思うよ。こないだの階段の時より話してるし」
ああ、黒月と再会したあの時か。
まあ確かに、あの時は全くと言っていいほど雪宮と関わりはなかったから……それに比べたら、幾分かは距離が縮まった気がする。
でもそれだけだし、そこからそんなに仲良くなるはずもない。
「気のせいだろ、やっぱり」
「そうね。黒月副会長の気のせいよ」
「っかしーなー。ウチってそーいうのに敏感なんだけど。距離とか、空気とか……」
とか言いつつ、黒月は自分の弁当を口にする。
敏感って、まだまだわかってないな。人ってのはそんな仲良くなるものじゃないんだよ。
「じゃーさ、じゃーさ、ウチらは仲良いよね。なんて言っても幼なじみだし?」
「人生の半分も離れてて、偶然再会しただけなんだ。仲良しとは言えないだろ」
「でも昔は毎日のように遊んでたじゃん」
「遊んでたというか、お前が俺の後ろをくっ付いて来てたというか……」
「何をぅ!」
まあ事実だし?
じとーっとした目で睨んでくる黒月を無視してパンを食うと、二人の女子が目の端でこそこそ話しているのが目に入った。
「やっぱり黒月副会長って、ちょっと殿方と近くありません?」
「殿方が近くにいるから、媚びてるんじゃ……」
「あんなに胸と脚をはだけて……はしたないわよね」
むっ。なんだあれ、またか。
生徒会の仲間なんだから、仲良くしろよ。……俺と雪宮のことは棚上げさせてもらうけど。
とにかく今回は許さんぞ。
と、立ち上がろうとする。が、机の下で黒月が俺の服を引っ張り首を振った。
「でもよ……」
「いいから。もう慣れてるし」
……馬鹿。慣れてるって言ってる奴の顔じゃないんだよ、お前は。
その格好に理由があるのか、ないのか……それは俺にはわからかい。
でも、黒月が我慢していい理由にはならない。黒月が非難されていい理由にはならないだろ。
決めた。やっぱりここは俺が男としてガツンと──
「いい加減にしなさい」
ぴしゃりッ。
そんな効果音がピッタリというか。
雪宮のたった一言で、教室の空気が凍った。
こっちのことを知らずに和やかに食べていたグループも、いきなりのことで困惑している。
雪宮がさっきまで悪口を言っていた二人をジロッと睨むと、体をビクつかせながらも苦笑いを浮かべた。
「そ、そうですよね。雪宮会長」
「やはり黒月副会長の格好や言動は──」
「あなた方に言ったのだけれど、理解力が足りないのかしら」
お、おぉ……雪宮、どストレートに言うな。
見ろ。あの二人組涙目だぞ。
「確かに、黒月副会長の格好は頂けないわ。淑女として、露出が多いのは間違いない。そこはもう少し自重しましょうね」
「う」
黒月も雪宮に言われると堪えるのか、ぐっと胸を抑えた。
でも……本気で受け取ってないのがわかる。
二人に陰口を言われた時より、気が楽って感じだ。
雪宮もそれがわかってるのか、黒月を見る目が穏やかなように見える。
が、二人に視線を戻すとすぐに鋭いものに戻った。
「彼女の格好は褒められたものじゃないけど、心は真っ直ぐで思いやりがある。だけどあなたたちは、格好こそ淑女のようだけど人のことを悪くいい、貶め、さも自分たちが正しいと思っている。……私が言いたいこと、わかるかしら」
雪宮は立ち上がり、二人の前に立つ。
氷のように冷たい視線と空気に、二人は涙目で身を硬直させていた。
「昔の人はいいことを言ったわ。人の振り見て我が振り直せ……あなた方は、他人にとやかく言えるような立場でないことを自覚しなさい。白峰の生徒を代表するのなら、他人を貶して自分の地位を守るのではなく、自分自身を磨いて地位を守ること。それができないのであれば、生徒会長としてあなた方の処遇を考えなければならない。……よく考えなさい」
「「は……はい……」」
……雪宮、かっけぇ〜……空気死んだけど。
仕方ない。俺が助け舟を出してやろう。
俺が大きく拍手をすると、他のみんなも雪宮に賛同なのか、和やかな感じで拍手を送った。
悪口を言ってた二人は気まずそうに身を縮こませている。今回のことがいい薬になったろ。
「人の振り見て我が振り直せ、か。いいこと言うじゃん」
「最近、私が思ったもの。……部屋、綺麗にしてるわ」
「そっか」
なら説得力が違うわな。
俺がその考えの助力になれたなら、よかったよ。
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