『生徒会オーディション』KAC2022#2

「この生徒会には可愛い子がいない気がする……」


「会長、副会長の私の前でよく言えましたね。

 ……いえ、可愛いねと言われたいわけではないですが」


「三つ編みおさげの丸メガネという、狙ったようなキャラ付けをしておいて可愛いを望むかね。可愛いことは認めるが……貴様のような可愛さは間に合っている。そうではなく、生徒会にはなんというか……絵的に映える可愛い子がいないだろう?」


 可愛いことは認める、ね……、そういうことはもっと強調して言ってくださいよ。

 さらっと言わないでくれますか、評価に浸っていたい気持ちを汲んでほしいものです。


「……アイドルのような子が欲しいと」


「要約するとそういうことだ。オレも貴様も根暗で陰湿だ、規則に守られ、規則を守るべき性格上、少しの妥協も許せない。自分が自分を、だな。ルールを守るのがオレたち生徒の仕事だが、しかし手を抜く場面も必要だということを最近になって知ったのだ」


「まあ、生徒からの風当たりも強いですからね。

 歩けばゴミを投げられますし……会長だけですが」


「上に立つ以上、非難は受け止める覚悟だ。……ただまあ、それも少ししんどくなってきたからな……緩和させるためにも、庶務を募集しようと思う」


「人員増加は嫌だと言っていましたよね? 今から仕事を教えるのも面倒を見るのも時間の無駄だ、と言っていたのに。それほど今の状況がきついですか? 会長も嫌われて嫌になることがあるんですねえ――」


「オレは機械じゃない。感情くらいあるぞ。痛かったら痛いって言うんだ」


 言わないでしょう、あなたは。

 私に仕事を振ってくれるようになったのも、最近の話でしょう?


「ま、人員募集と教育は私に任せてください。

 人望はありませんが、しかし腕はありますから」


「教育は人望がなければできなさそうに思えるが……?」


「最低限の仕事を教えるくらいならプリントアウトで充分でしょう。文章には自信があります。分かりやすく簡潔に、図を使って説明すれば分からない生徒はいないはずです」


 大人を相手にプレゼンをしたことがあるのだ、分かりやすいとお墨付きをもらったこともある……、理解不能、と言われるほど下手ってことはないだろう。


「教育は任せる……、ただし、人員募集はオレの方でやっておこう」

「……可愛い子を物色するつもりですか?」


「しないわけではないが、少なくともやる気がないやつを誘っても意味がない。募集をし、興味がある女子を集めて選別する……、最低限の『顔』さえあれば構わない」


 最低とはこいつのことを言う……、どうしてこんなやつが生徒会長に……、まあ、仕事はできる人だ、だからこそ私だって彼を支持したわけで――。


「では、選定基準と選考については会長にお任せでよろしいですか?」

「任せておけ。生徒会に、太陽を引っ張り込んでやろう」


 この調子じゃあこいつ、私を劇的に変えようみたいな発想はないわけか。

 ……地味で根暗な、って印象がある私は当然、化粧なんてしていない。だからちょっと手を加えれば、それなりに綺麗になると自負しているけれど……、


「お前はそのままでいい」

「……え」


「交友関係以外は完璧じゃないか。あまり欲張り過ぎるな、新しいことを始めて、これまでできていたことができなくなることは避けたい……。今、貴様の腕が落ちるのは困るからな」


「……私の価値は仕事ができるかどうか、ですか?」

「ああ、そしてオレの言いなりになってくれるかどうかだ」


 私はあなたの玩具じゃないんですけど……でもまあ、彼にとって私は保険、ということだろう。最も近い防波堤、とも言える。最後の最後まで隣にいてくれると最初から勘定に入れているわけで……、だから私ではなく、生徒会に光を求めていた。


 影は私の役目だから。


 ふうん……、素直にそう言えばいいのに。

 こういうところも、私と似ているので文句は言えないけど。


 根暗で妥協ができなくて、陰湿で不器用な私たちには、とても難しいことだ。



 募集をしたら、思っていたよりも希望者が集まった。選り好みをしていたら全員を弾いてしまうんじゃないか? とも思ったけど……、その心配はいらないようだ。

 会長は可愛くて、生徒会の光になれそうな女生徒を三人、選んでいた。


 一人は、バレーボール部の元エース。先月、怪我をして、ほとんど引退のような形だ。勉強をするが身が入らず、だったら生徒会に入って仕事を手伝いたい、という動機らしい。

 理由こそ、あれがダメだから仕方なく、のようにも聞こえるが、まあ内申点のため、という部分もなくはないだろう。もちろん、それは言わなかったが、目を見れば分かる。


 悪いとは思わないけどね。私だって理由の一端にはあるのだから。会長だってそうだろう、内申点を気にせず生徒会に入る人なんているの?(偏見だ……)


 もう一人は、学年どころか学園で一位の頭脳を持つ秀才だ。体育祭などで目にすると運動はダメダメらしいが、その分、勉強は飛び抜けている。この学校に合格した以上、頭は良いはずだけど、その中でもさらに頭が良い……。

 彼女が趣味で解いている参考書を見せてもらったけど、マジで意味が分からない問題が出てきて唖然としちゃった……難しいのかどうかも分からない。だってスタート位置にすら立てなかったのだから。


 頭が良いことは、自他ともに認める秀才である……、

 生徒会への参加資格としては、充分である。


 そして、最後の一人は……なんだろう、落ち着きがない、というか、いやギャルって感じじゃないんだけど、でも私みたいな地味な感じでもない……。ほんのりと化粧をしており、制服も少しだけいじっている。

 たぶん、先生に何度も注意されて怒られないラインを見極めたのだろう……、他の生徒と比べれば違いの差は大きくはないが、一瞬だけ見るとその違和感が彼女に意識が引きつけられる。


 単純に彼女が可愛い、ということもあるのだけど、でも同じく候補として上がってきた二人だって、可愛いことは間違いない。


 スレンダーでボーイッシュな健康的な運動部の少女。深窓の令嬢と表現できる、クールで知的な、文庫本が似合うような黒髪ロングの秀才の少女。

 そして得意分野こそないものの、一挙一動が人の目を引きつけ、顔からスタイルまで全てが『可愛い』で埋め尽くされた彼女……、

 たとえ作りものであると分かってはいても、悔しいけど素直に心が動かされる。


 女子から見ても可愛い……、あと胸。胸! 大き過ぎず小さ過ぎず、ちょうど良い大きさなのだ……、可愛いを計算して作っているように感じたけど……は? 胸まで操作できるの、どうやってんのなにをしたらそんなものが手に入るわけ!?


「……副会長、なんで殺意が漏れてんだ?」

「いえ、気にしないでください――では集団面接を終わりにしますので……、後日、結果を報告します……明日ですね、昼休みは予定を入れないでください」


 三者三様の返事をして、部屋を出ていく彼女たち……残されたのは私と会長である。


「会長、どうでしたか?」

「……一番と二番はねえな……三人目にするか」

「……理由をお聞きしても?」


 確かに、三人の中では一番可愛いに突出していたけど……でもそれだけだった。責任感があるわけでもなく、人望が厚いわけじゃない。……嫌われてるってわけではないだろうけど、だけどやっぱりクラスの内の特定のグループから可愛がられているだけだろう。

 クラスが違えば、学年が違えば、やっぱり妬む者はいるはず……。


 当然、同系統の可愛さを売りにしている女子からすれば、最大の競合なのだから。


「落選者に明日、理由を説明する。お前もいるんだ、その時でいいだろ」

「はあ……」


 会長も内容を固める時間が必要なのでしょうか。



 翌日、昼休み。落選した二人を生徒会室に呼び出し……、まあ当然、


『どうしてあたし(私)が落ちてあの子が受かるんですか!?』


 と、会長に詰め寄ってくる二人。

 会長は二人をなだめることなく、まるで火に油を注ぐかのように、


「それが分からないなら、落選理由に追加しておこうか」


 自分が落ちた理由が分からない無能はいらない……か。

 会長らしいけど、ちゃんと説明して。

 バインダーで会長の頭をはたくと、彼がむすっとしながらも「分かった」と頷いた。


「一番、お前はバレーを頑張っていたな?」

「……はい。怪我で、引退ですけどね」


「二番、お前は勉強だ。凄いじゃないか、努力をしたんだろう? 学園どころか、県でも上位に入る学力だと聞いたことがあるぞ」


 表情を変えなかったが、頬を薄く紅潮させている秀才……、う、可愛いわね……。

 会長もドキッとしたのかな、と思い覗いてみれば、まったくの無関心だった。


「だからこそだ……、お前らは可愛いぞ、認める。そして他の人に負けない得意分野を持っている……でもな、それってつまり、それぞれに費やした時間が分散しているわけだ」


 一番ならバレーと可愛さ。二番なら勉強と可愛さ。……生まれ持った可愛さを維持しているだけで、なんの努力もしていない場合もあるけど、でも、手入れをしなければ劣っていくのが見た目である。体型だって、意識しなければ崩れていくし……、

 せっかく努力をして痩せても、すぐに元通り、なんてよくある話だ。


「だが三番は違う。『可愛い』を突き詰めてきたんだ。見た目、仕草、挙動、思考……誰にどう見られ、どう対応するのが『可愛い』のか。その努力を、お前らはしたのか?」


『……それは、』


「していないだろ。だから負けたんだ。二つのスキルを持てば総合力では上回るだろう、だが、一つだけを極めた人間の突破力には敵わねえよ――それがお前らの落選理由だ」


 会長が、しっしっ、と二人を手で払う。


「多才はいらねえ。一つを極めた愚直なやつが最高だ」


 二人は顔を見合わせ、納得したように微笑んで――、

 二人の拳が、ぎゅっと握られた。



『っていうかあんた、可愛いかどうかで選んでいたの?』



 そう言えばそんな裏事情、説明していなかったわね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る