34. 新たなる神話の始まり

 焼き肉屋に戻ってくると、パパとママが合流していた。

「おう、和真! おめでとう!」

 パパが手のひらを向けてくるので、和真はほほを赤くしながらパチンとハイタッチをした。

「芽依ちゃん、大切にしろよ!」

「もちろん!」

 和真はしっかりとした目で答える。

 そんな二人をママは幸せそうに眺めていた。


「じゃあ、二人の門出を祝ってカンパーイ!」

 シアンは上機嫌にジョッキを掲げ、

「カンパーイ!」「カンパーイ!」「カンパーイ!」「カンパーイ!」

 みんな楽しそうにグラスを合わせた。


「で、うちの仕事続けんの?」

 シアンは口の周りに泡をつけたまま和真に聞いた。

「はい! お願いします!」

 うんうんとうなずいたシアンは、

「じゃあ配属は#3271、EverLand、レヴィア、任せたよ!」

 ブフッと噴き出すレヴィア。

「え? EverLand!? それってゲルツが担当してた廃棄予定の星じゃないですか!」

「ゲルツができなかったことを実現する、燃えるよね?」

 シアンは皿の肉を一気にロースターにぶち込みながら和真に聞いた。

「まぁ、そうですが……。ユータさんみたいに星を運営して文化文明を発展させればいいんですよね?」

 レヴィアは画面をビヨンと大きく広げるとEverLandの情報をバッと表示した。人口や文化指数の推移などが出ている。しかし、グラフは精彩を欠くものだった。

「うーむ、典型的なダメグラフですな……」

 レヴィアは腕を組んでうなった。

「これを日本みたいに発展させればいいんですか?」

「そうじゃ。じゃが、日本のコピー作っても認められんぞ。オリジナリティないものはアウトじゃ」

「うーん、そこが難しいですよね。オリジナリティなんてどうやって伸ばしたらいいのか……」

「そこが腕の見せ所。ヒントは若者と新陳代謝さ」

 シアンは焼肉をほおばりながら言った。

 するとパパが身を乗り出して聞いた。

「何やってもいいんですよね?」

「そうだよ? 彼らにとって君たちは神様。天罰も天啓も奇跡も起こし放題」

 シアンは箸を高々と掲げ、宗教画の女神きどりで虹色に光らせる。

「神様!? ……、そうか!」

 和真は目をきらっと輝かせ、芽依に向かって言った。

「芽依! 新たなメタバースを作るイメージでいいんだよ!」

「メ、メタバース? リアルな星に新たなエコシステムを作るってこと?」

「そう! 落書きが高値で奪い合われるようなエコシステムだよ」

「いやいや、ブームなんてものはもって一年よ?」

「でも、そこで集まったヒトモノカネはまた別のムーブメントに繋がるよね」

「うーん、そうね。集まったお金はまた別の挑戦に投資されるわね」

「それ! そのエコシステムを裏から支援し続ける事、それが僕たちの仕事なんじゃないかな?」

「でも、コンピューターのない世界でそんなこと言ってもねぇ……」

「魔法さ」

 和真はニヤッと笑った。

「魔法!?」

「魔法を世界に組み込むのはアリですよね?」

「あぁ、前例もあるしな」

 レヴィアはジョッキを傾けながら答える。

「ヨシッ!」

 和真はグッとこぶしを握った。

「ちょっと待って! 魔法を使ってコンピューターの代わりにしてメタバースを実現するってこと?」

 芽依は困惑した表情で聞く。

「できるよね?」

 和真はパパに振る。

「魔法の仕様によるけど、魔法って何でもアリだから構築できないことも……ないかにゃ?」

 ネコ言葉に思わずママが噴き出す。

「あ、いや、これは……。ネコ暮らしが長かったんだよ……」

 パパはジョッキをぐっとあおる。

「……。ヨシッ! 魔法の塔を建てる! 天を貫く魔法の塔。そこでは誰もが平等で情報やコンテンツを魔法で売買できるんだ。大学であり、市場であり、NFTだ!」

 すると、シアンが立ち上がり、楽しそうに、

「ヨシッ! やってみて!」

 と、言ってパチンと指を鳴らした。

 気がつくと一行は見渡す限りの草原に立っていた。少し先に川が流れその向こうには富士山がそびえている。

「え? ここは……?」

 和真が困惑していると、

「どんな塔を建てるの?」

 シアンが嬉しそうに聞いてくる。

「どんなって……。水とか火は見たことあるから……木?」

 和真は芽依に聞いた。

「木? 世界樹みたいな木のこと言ってる?」

「うん、ここに壮大な巨木が生えてたらそれは素敵だと思うんだよね」

「ヨーシ! それ、行ってみよう!」

 シアンはそう言うとバッと両手を空に広げた。

 すると、上空に現れる巨大な輝く円。それは雲よりはるか高く上空に、直径十キロはあろうかという巨大なサイズで緑色に輝いていた。

 何だろうと見ていると、そこにルーン文字が書き込まれていく。それはやがて巨大な魔方陣となったのだ。

「えっ!? まさか……」

 和真が冷や汗を流した直後、魔方陣がカッと激しい閃光を放ち、

 ズン! と、激しい衝撃音とともに、地震のように地面が踊った。

 辺り一帯はもうもうと土埃が巻き上がる。

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