35. 誓いのチュー!
うわぁぁぁ! ひぃ!
悲鳴が上がり、うずくまる一行だったが、やがて土埃が晴れてくると、徐々にその荘厳な姿が浮かび上がってくる。
見上げるとどこまでも、宇宙までも続いているかと思われる巨木。雲の上から張り出した枝は大空を覆い、まるで巨大な島が浮いているかのようであった。
高さ数十キロ、富士山の十倍にもなろうという巨大な樹木は、伝説にうたわれた、天を支えるという世界樹そのものだった。
「うはぁ……」
和真はその威容を見上げ、絶句する。
上の方はかすんで見えないスケールであり、登っていったら大気圏は超えてしまいそうである。
「どう? 気に入った?」
シアンはニコニコしながら言う。
「あっ……はい……」
「この中に魔法の世界を作ればいいね」
「……。頑張ります」
和真は思い付きで招いた事態に圧倒されていたが、神様の仕事というのはこういうことなのかもしれない。
「パパ! 芽依! 手伝ってくれる?」
和真は振り返って聞いた。
「そりゃぁもちろん」「任せて!」
「あら、ママだって手伝うわよ? 応援専門だけど!」
ママは嬉しそうに笑った。
和真はちょっと照れながら、
「ありがとう、みんな」
と頭を下げた。
◇
それから三年が経った――――。
「和ちゃん、どう?」
純白のウェディングドレスに身を包んだ芽依は、はにかみながら聞いた。
「うわぁ……」
思わず見とれてしまう和真。
「ふふーん。惚れ直した?」
「最高だよ……」
和真はそっと芽依を抱き寄せる。
「あー、ダメじゃ! ダメじゃ! お化粧が崩れる!」
紅いドレスに身を包んだ金髪おかっぱのレヴィアが制止する。
ここはEverLandの森の中に特別に建てられたチャペルの控室。今日は二人の結婚式なのだ。
◇
和真はチャペルの壇上に呼ばれ、スタンバイさせられる。牧師役としてシアンがクリーム色の法衣を纏い、ニコニコしながら会場を見ている。
まだ八歳のシアンにやらせるのは不安があったが、『やる!』と言うシアンを止められる人はいなかった。
チャペル内には両家の親族が呼ばれているが、まだ彼らはここがどこだかわかっていない。彼らの世間話が静かなチャペル内に響き、和真はそれを穏やかな顔で眺めていた。
ブォ――――!
オルガンの和音の重低音がチャペルに響き渡り、いよいよ式が始まった。
結婚行進曲が厳かに演奏され、正面のドアがギギギーっと開いていく。
まず、タニアがバスケットいっぱいの花びらをばらまきながら入場してくる。
続いて芽依と、芽依の父親が赤じゅうたんの上を歩きながら入ってきた。
ゆっくりと歩きながら、親族の祝福を受けながら、芽依は幸せいっぱいの笑顔を振りまいている。
そして、壇上に上がってくる芽依。
「今日はおめでとう!」
シアンは元気いっぱいに嬉しそうに言った。
「和真君! 芽依ちゃんを一生大切にするかい?」
そのフランクな口ぶりにちょっと不安を感じながら、和真は、
「もちろんです!」
と、胸を張った。
「浮気はダメだぞ?」
鋭い視線でにらむシアン。
「そ、そんなことしません!」
「絶対?」
「絶対!」
「よろしい!」
シアンは満足そうに笑い。会場にはクスクスと笑いが上がる。
「芽依ちゃん! 和真君でよかった?」
「えっ!?」
「他にもいい人、いっぱいいるんじゃ?」
「いい人は和ちゃんしかいません!」
芽依は憤慨しながら言った。
シアンは嬉しそうにうんうんとうなずいた。
二人は指輪交換をする。表参道に行って二人で選んだお揃いの金のリングだ。
「それでは誓いのチュー!」
と、言いながらシアンは腕を高々と掲げた。
和真も芽依も苦笑して、見つめあう。
ベールをゆっくりと持ち上げる和真。
目をつぶり、上を向く芽依。
そして、二人は熱いキスを披露した。
幼いころからずっと一緒で、けんかもいっぱいした二人。でも、今、怒涛のような日々を超え、ついに夫婦となったのだ。
うわ――――! わ――――!
歓声の後、パチパチパチパチと拍手がチャペルに響いた。
「これで、二人は夫婦として認められました! おめでとう!」
シアンはそう言って二人の背中をパンパンと叩いた。
ブォ――――! っとひときわ力強く結婚行進曲がチャペルに響き渡る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます