第71話 旅立ち

 「兄さん話は聞いていた、シルバーランク以上だってな。俺達はシルバーランクパーティーの〔火炎鳥〕だ。俺達を雇えよ」


 むさ苦しいおっさん達がニヤニヤ笑いながら俺の前に立つ。

 6人、どう見てもシルバーランクって感じじゃない、いたとしても声を掛けて来た奴一人がどうにかシルバーランクってところかな。


 「話を聞いていたのならギルドに言え。依頼主に直接交渉は規約違反だぞ」


 「依頼主が冒険者と直接交渉出来るのだから、売り込んでいるだけだぜ」


 「いらない、話を聞いていたと言ったが何を聞いていたんだ。俺が出した条件に会わないな」


 周囲から失笑が漏れる。


 〈がっつくから恥を掻くんだよ〉

 〈そりゃーがっつきたくもなる条件だけどよ。相手を見ろよ! ばーか〉

 〈おい賭けるか、奴が絡んで模擬戦を要求するかどうか〉

 〈模擬戦になるかならないかの賭けかよー〉

 〈模擬戦でアホウ鳥に賭ける奴がいると思うか〉

 〈結果の見えている勝負に賭けるのは、何も知らない奴だけだぜ〉

 〈どっちにしても詰まらん賭けだから止めとくよ〉


 周囲の声を聞いて、ニヤニヤ笑いが消えていく。


 「依頼掲示板をよく読んで応募するんだな。先に言っておくが必要人数に足りなくても、お前達は雇わないから応募するだけ無駄だぞ」


 周囲からどっと笑い声が上がる。


 ・・・・・・


 翌日冒険者ギルドに行くと2階の会議室に案内される。

 室内にはギルマス以下16名が待っていた。

 ギルマスに軽く頭を下げ応募者を横一列に並んでもらう。


 《何れにする》


 《野生の勘を信じろ》


 《だから聞いてるのさ》


 クロウの指示に従って5人を選んで列から外れてもらう。


 「ギルマス残りの10人に頼むよ」


 「おい何の基準で俺が駄目なんだ」


 「それだよ、俺の指示に黙って従ってもらえない奴はいらないんだよ。事が起こってから一々説明なんかしていられない。雇い主の命令に一々文句をいう面倒な奴に用は無い」


 「治癒魔法師ってあれか」


 頷くと文句を言った奴を含め、除外した5人を外に出す。

 残りの10名には、護衛対象の事を話しておく。


 「先ず言っておくが護衛する馬車の客は、王家直属・一級治癒魔法師だ。彼女には6人の護衛と2人のメイドが付く。失礼の無い様に頼む、さっきの奴の様な見苦しい格好は止めてくれよ」


 ギルマスに二日後の朝、ギルドの前で待ち合わせて出発する事を伝え、ギルドを後にする。


 《馬鹿が仲間を集めてついて来てるぞ。後顧の憂いを断っておくか》


 《いや、殺す程でも無いから公開処刑にしとこう。廃業コースで》


 建物の陰に回ると躊躇いも無くついてくる。


 「何か用か? いや用は判っているが此処でやると官憲が煩い。恐くなければギルドで後腐れ無くやろうか」


 「噂通り肝が据わっているな。良かろう大口を叩いた代償を払って貰うぞ」


 弾き出した5人の内3人とはね、抜け目なさそうな目付きと嫌な雰囲気は隠せないよな。

 ギルドに引き返しギルマスを呼んでもらう。


 「おう、なんだ言い忘れ・・・」


 「模擬戦をやりたいんだ審判を頼みたい」


 俺を睨む3人を見て察したのだろう、苦笑いしながら了承した。


 〈おい、あれって〉

 〈やる気だぞ〉

 〈かー今度はゴールドランク3人相手かよ〉


 「へぇー、あんた達ゴールドランクなの」


 「今更気づいたのかよ、逃がす気はねえからな」

 「虚仮にしてくれた礼はするぞ」

 「俺達の腕を見せてやるよ」


 「そりゃー楽しみだな、遠慮無くやらせてもらうよ」


 〈おい賭けるぞ、俺はエディに銀貨5枚だ〉

 〈俺も銀貨・・・5・・・枚賭ける〉

 〈何か不思議な間があったな〉

 〈煩せえ、全財産賭けるんだから、ちょっと躊躇っただけだ!〉

 〈おーいゴールドランク3人いるんだぞ誰も賭けねえのかよ〉

 〈あー超大穴だけど、穴が何処にあるのか判らないくらい大穴過ぎてよ〉

 〈ドブに金を捨てるのと同じだからなぁ〉

 〈俺の決心を無駄にするなよ。誰かゴールドランクに賭けろよ〉


 訓練場に入ると順番を決めている。


 〈最近王都に来てゴールドランカーだと威張っていたが、王都のブロンズに滅多糞にやられたら、恥ずかしくて明日から生きていられないぞ〉

 〈長えよ、黙って見ていろ〉

 〈あー駄目だ、奴の模擬戦は賭けにならねえな〉


 何時もの訓練用短槍に見立てた棒を取り出す。

 一人目は俺に文句を言ってきた奴からだ、向かい合い〈始め〉の声で間合いを詰めるが動かない。

 ふぅーん、ゴールドランクねぇ、馬鹿の猪突猛進とは少し違う様だ。

 でも魔力を纏っている俺の速度とパワーについて来れるかな、下段から掬い上げる様に臍を狙って突きを入れる。

 辛うじて弾いたが木剣が流れる、弾かれた棒を回転させ横殴りに顔面を狙うと慌てて流れた木剣で受け止めたが、其れが狙い。

 受けた木剣の鍔元に当たる様に狙ったので、衝撃をまともにうけ手首の骨が砕けた感触がある。

 そのまま振り抜き、砕けた腕の痛みによろめく男の太股にもう一撃。


 〈勝負あり〉


 ギルマスの声に見物席から歓声が上がる。


 〈すっげぇぇぇ〉

 〈相変わらず鮮やかだねぇ〉

 〈おおお誰もゴールドランカーに賭けねえ訳だよ〉 


 「今日はちょい厳しいな」


 「黙って引き下がれば良いのに、態々待ち伏せしてくるからさ。街中で斬り捨てても良かったが、面倒事になるので連れて来たんだ」


 「おい、次ぎ! 俺も忙しいんだ、さっさと来い」


 2人が顔を見合わせて躊躇っている。


 「あー、ブロンズ相手にゴールドランカーが逃げたら、天下の笑い者だ後世に名を残しますね。恐けりゃ2人同時に相手しますよ」


 俺の煽りに乗ってきた馬鹿。


 〈おい、ゴールドランカー2人を纏めて相手だと。誰か賭けるか〉

 〈うーん、奴が負けるとも思えんしなぁ〉

 〈お前がゴールドランカーに賭けるなら乗るぞ〉

 〈そりゃー駄目だ、俺は奴に賭けるんだから〉

 〈つまんねえ奴〉


 〈始め〉の合図と同時に左右に分かれ、間髪入れず切り込んでくる。

 素早く三歩前進し振り向きざまに、右から切り込んできた男に上段から叩き付ける。

 俺に背を向けた状態に焦って振り向こうとしたが、上段からの攻撃が見えていない。

 そのまま肩に一撃、膝から崩れる所を背後に回り蹴り飛ばす。

 それは左から攻撃してきた奴が、チャンスだと俺に向かって踏み込んでくる正面に、蹴られた男が転がる事になる。

 踏み込んで来た男の足場が無い、バランスを崩した男など唯の木偶人形だ、遠慮無く腕をへし折り、序でに膝を叩き折って地面に転がす。


 「止めー、ぼちぼちシルバーになれよ」


 「万年ブロンズが気楽でいいんですよ。指名依頼とか強制依頼なんて真っ平御免です。では明後日の朝来ますので宜しく」


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 出発の朝、迎えの馬車に騎馬の護衛6名・・・キンキラの騎士服。


 「お早う御座います。冒険者風の目立たない服装と言ってあった筈ですが」


 「王都内は流石に無理です。明日からは服装を変えますのでご容赦願います。申し遅れましたが、隊長のネルト・サラガンです」


 「エディだ宜しく」


 アイリとサーミャにイリスが乗り込み最後に俺が乗ると直ぐに動き出した。

 冒険者ギルドの前に馬の手綱を手に立つ男達、馬車から降りギルマスに挨拶。


 「冒険者の隊長を務めるオラカンだ、冒険者の事は此奴に任せてくれ」


 「判りました。オラカンさんエディです宜しく」


 「ゴールドランカーを手玉に取る所を見させてもらったよ。宜しくな」


 簡単な挨拶の後直ぐ出発する。

 何せ王家高官の護衛など滅多に無い仕事で、護衛騎士と同行する事も珍しいから、見物の冒険者がずらりと並んでいる。


 王都内を順調に進み街の出入口りも素通りしていく、これなら気楽な旅になりそうで安心だ。

 旅は順調クロウはアイリの膝の上か胸に抱かれてご機嫌、時たま俺の隣に来てふかふかの椅子で香箱座りして微睡んでいる。

 余りにも旅が順調なので不思議に思い訪ねると、カラカス宰相が先触れをだし、王家直属・一級治癒魔法師のアイリが当地を通過するが、歓迎や接待は一切不要と伝えているそうだ。

 アイリが泊まるホテルも先触れが確保しているので、俺達は何もする事がない。


 それと通過する貴族には、アイリが困って助けを求めた時にのみ手助けを許すって。

 許すって何だよそれと思ったが、王家の威光に背いたホルド伯爵の処罰を知り、各地の貴族は息を潜めているらしい。

 元はと言えば、王家直属・一級治癒魔法師のアイリに地位と名誉欲で近づき、結婚をごり押しした結果だ。

 カラカス宰相の指示を無視して破滅した事は知れ渡っている。


 然し馬鹿は何処にでも居る、ヘンリの街のホテルで食事中に近づいて来た男がいた。

 俺がアイリと居る時やホテルでは目立たぬ様にと頼んでいるので、護衛達は別のテーブルで食事をしていた。

 孔雀かズカのコスプレかと思わず二度見する格好の男が、気障な足取りで俺達のテーブルに近づいて来ると、本人的には優雅と思われる仕草で一礼した。

 護衛達が腰を浮かせたが、手で制し成り行きをみる。

 アイリと俺にサーミャとイリスの4人が座るが、アイリ1人を見つめて口をひらく。


 「お美しいアイリ様、当ネザーラン地方ヘンリの領主ヒエル・ザラセン子爵が三男ゲルト・ザラセンがご挨拶に上がりました」


 まさかの不意打ちにアイリがフリーズしている。


 「ザラセン様、アイリ様はお食事中です。お下がり下さい」


 やんわり帰れと言っているのに、チラリと俺を見るとフッと鼻で笑って無視しアイリの手を取ろうとする。


 「食事中だと言ったのが聞こえないのか、キンキラ野郎」

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