第66話 爪痕軍団
《そして執事はそんな事は全然知らなかったが、アポフを見つけたのがお前だとは知っていて、名指しでザクセン伯爵を通じて呼び寄せ様とした》
「でも・・・何の為に」
《あのぼんくら侯爵殿は、執事の操り人形だろう。そうなるとヘルド達の報告と合わせれば答えは一つ。アポフを探させて大儲けを企んだが、侯爵の態度からお前が大物過ぎた。その大物が用も無いのに侯爵領に残り、冒険者紛いの事をしている。そして又フルンから冒険者がやって来て、同じホテルに泊まる》
「俺が王家の刃とやらと思われたのか、侯爵領の不正を暴きに来たと思われているのか?」
《まったく、あの侯爵も余計な事を口走りやがって。あの執事はがっぽり裏金をつくり一財産持っている筈だが、欲を出しすぎたな》
「ちょっと待てよ、それじゃヘルド達が危ないじゃないか」
《奴等も冒険者だ、それなりの覚悟は有るだろう。今更お前が慌ててもどうにもならない。其れより執事に挨拶に行こうぜ》
* * * * * * *
ヘインズ侯爵に発行させた身分証を使って通用門から入り、俺の名前を告げずにグロズ執事を呼んで来いと命令する。
不機嫌な顔でやって来たグロズは、俺の顔を見て青ざめる。
「何故、俺が此処に居るのか判るよな」
「エディ様・・・しっ暫しお待ちを」
出入り口に向かい〈皆を呼べ!〉と通路に向かって叫んだ。
《あはっ、隠す気も無い様だぜ。頑張れー》
《俺一人でやるのかよ。手伝う気皆無ってか、面倒事を俺に押しつけたのはお前だぞ》
《可愛い子猫の俺が本気を出したら、化け猫扱いされるだろう》
《此奴、俺の心の声が聞こえていたのかな。考えたけど念話で話しかけたりしてないんだけどな》
一声上げて俺を睨むグロズは、嫌な笑いを浮かべている。
殺到して来たのは、猫の爪痕を刻む者達、うんタイトル的には此の方が格好いいな。
黙って剣を抜き慎重に近づいて来る、横一文字の五線譜男。
「似合ってますよ、猫の爪痕」
俺の揶揄いに、踏み込み突きを放つが、遅い。
鉄棒で眉間に一撃、額に棒状の跡を残して後方に倒れるとピクリとも動かない。
「言っとくが手加減無しだから、それなりの覚悟を持って来いよ」
〈キエェェェ!〉
振りかぶった剣を叩き付ける様に頭上に振り下ろしてくるのを、軽くステップして躱し、男の喉に突きを入れて後方に吹っ飛ばす。
三人目が躊躇った瞬間フラッシュの目潰し攻撃に切り替える。
室内に踏み込んで来た8人を無力化すると通路に出る、此処にも爪痕軍団がいて兵を指揮している。
全員フラッシュで目潰しの後、爪痕軍団にだけ一撃を入れて縛り上げる。
執事のグロズを先頭に、爪痕軍団を数珠繋ぎにしてヘインズ侯爵の執務室に向かう。
ノックもせず室内に入ると誰もいない、仕事をする気が無い様だ。
グロズに侯爵の居場所に案内させると、サロンで優雅にお茶を飲んでいる。
縛られて数珠繋ぎにされて入って来たグロズ達を見て、カップを持つ手が止まる。
腰の剣に手を掛けた護衛達が俺の姿を見て動きを止めたので、ヘインズ侯爵に命じて壁際に戻らせる。
「此れは何事ですか、エディ様」
「それは俺が聞きたいのだがな。草原へ薬草採取に出かけたらお前の部下を含む多数に襲われた」
「まさか・・・」
「顔に五本線を刻んだ男の仲間4人と、街の破落戸に冒険者だ。で五本線の男の一人が白状したので当家にやって来た。執事のグロズは俺の顔を見るなり騎士達を呼び寄せ、斬りかかってきた」
「まさか・・・」
「冗談でこんな事をしていると思うか?」
顔をプルプル振るが、手にカップを持ったままなのでお茶を盛大に振りまいている。
壁際に控える護衛の中にもクロウの爪痕を付けた者がいる。
「お前達もこっちに来て貰おうか、どうも冒険者の格好でフルンに来ていた奴等は執事の息が掛かってそうだからな」
〈糞ッ、此奴を始末してずらかるぞ!〉
〈仕方がねえな、折角お貴族様の懐に潜りこんだのになぁ〉
〈こんな小僧にやられるって、グロズも口ほどにもねえな〉
6人いる護衛の内4人まで執事の手先の様で、ヘインズ侯爵も呆気にとられている。
《爪痕の無い奴等に、爪痕をプレゼントしてやろうか》
《止めとけ。お前がゴールデンキャットってバレたら、お宝狙いの冒険者から追い回されるぞ》
《お前に任せるよ》
剣を抜き、悠然と近づいて来る4人の上半身を火球で包み、即刻あの世に旅だってもらう。
〈ギャーー〉〈アーッッッ〉短い悲鳴を残して倒れる四人を見て数珠繋ぎのグロズ達が真っ青な顔で震えている。
空のカップを手に震えているヘインズ侯爵の前に座り、侯爵から尋問だ。
ザクセン伯爵に手紙を出して冒険者を紹介しろと命じたのかの問いに、グロズが領内でも見つかるかも知れないので、件の冒険者を呼び寄せましょうと言ってきたので任せたと。
馬鹿だ! 血筋を誇りそれだけを拠り所に他者を見下すタイプ、無能の権化の様な男だ。
グロズは何の苦労もせず楽々と侯爵領を裏から操り、賄賂と横領で財産を築いていた事だろう。
トップが馬鹿で補佐が勝手気ままにやれば、末端まで腐るのに時間を要さないだろう。
数珠繋ぎの先頭、グロズと向き合い何故俺を襲わせたか聞いてみた。
俺と同じ、フルンの街から冒険者が来ているとホテルから連絡がきた。
フルンに派遣していた者に尋ねれば、俺と親しい関係の者だと言った。
侯爵の言葉、王家の刃と呼ばれるお方ならヘインズ侯爵を調べているのは間違いない。
自分達がやっている事が見つかる前に、始末して逃げる気だったと喋った。
ヘルド達はどうしたと聞けば、何処まで知っているのか屋敷の地下牢で取り調べていると。
生きているだろうな、死んでいたら楽には死なせないからなと言うと、震え上がっている。
困った事に誰がグロズ達の手の者か判らない、信頼に値する者の見分けがつかない。
《どうしたものかな、信頼出来る奴が誰だか判らない。これじゃヘルド達を連れてこさせたら、ヘルド達にそのままナイフを突きけ兼ねない》
《ならその執事にこの屋敷にいる配下の者が誰か喋らせろ。其奴等を排除した残りを信用するしかないだろう》
《何て面倒で、馬鹿な侯爵だ!》
護衛の残り2人を使い、執事の配下を呼びちまちまと拘束していく。
途中で異変を察知して逃げ出した奴もいたが、概ね捕獲したと思われたが護衛騎士と警備兵含めて30名以上を捕まえる事になった。
その間ヘインズ侯爵は硬直していて使い物にならず、放置しておいた。
ヘインズ侯爵の襟首を掴み、グロズを先頭に数珠繋ぎの奴等を連れてムカデの如く歩かせて地下牢に向かった。
俺に襟首を掴まれた侯爵と、数珠繋ぎの先頭に立つグロズ執事を交互に見て生唾を飲む牢番。
「侯爵様の命だ、開けろ!」
巨漢の侯爵の首を、チビの俺が掴んでいるので様にならないのは判っているが、此処は強気に命令する。
躊躇う牢番に、侯爵が力なく頷く。
ヘルド達3人の場所を聞き案内させると、襤褸布の如く横たわる3人だが息は有る様だ。
地下牢の空き部屋に執事や騎士達を詰め込み、ヘルド達の牢に誰もちかづけるなと牢番に命令して中に入る。
《クロウ頼むよ》
《あ~あ、手酷くやられてるなぁ。まっ何とかなるでしょう》
イクル、ヘンク、ヘルドの順に手前から額に肉球を押し当て、治癒魔法を使い怪我を治していく。
《ん、肉球を押し当てなくても治せるだろう》
《馬鹿もん、気分の問題だ。猫が治癒魔法を使う・・・ラノベなら額に肉球を押し当て、光に包まれて怪我や病気を治すシーンだぞ》
《お前も、ラノベオタクだったのか》
《どちらかと言えばアニメだが、オタクじゃないぞ》
《阿呆らしいから、人が見ている時には止めてくれよ》
《判っている。此れはお前が治したんだぞ》
《へいへい、また俺の噂に尾ひれが付くのか》
「気分はどうだヘルド」
「・・・エディさん? あれっ・・・痛みが無い」
「ああ、治したからな。俺が呼び寄せたばかりに、済まなかった」
「イクルとヘンクは?」
「2人とも治したので大丈夫だが、動けるか?」
立ち上がろうとしたが力が入らないと言うので、ヘインズ侯爵に命じて従者を呼びヘルド達をサロンに運ばせる。
牢番を呼び寄せヘルド達の荷物を持って来させるがお財布ポーチが無い、革の小銭入れやナイフ等だけだ。
「誰が3人を取り調べて拷問した。3人の持ち物が消えているが誰が懐に入れた」
俺の冷たい声に牢番が震えながら、未だ残っているかも知れないと呟く。
牢番の役得だろうが、そうはさせるかよ。
「ヘインズ侯爵様、使用人の管理が甘すぎますな。貴方が賤民と侮る冒険者の方が、余程マシだし気概も有る。此の不手際をどう片付けるつもりですか」
「何卒陛下にはご内聞に、しっ執事に命じて・・・命じ」
「馬鹿か! 己が貴族のプライドだけで適当な事をした結果が、此の体たらくなのが判らんのか! よく其れで、侯爵などとほざくな」
ソファーに横たわるヘルド達が、侯爵を怒鳴りつける俺を見て青ざめているが、怒鳴られた侯爵が平身低頭している様を見て、訳が解らないって顔だ。
そこへ牢番がヘルド達の物を持ってきたが、お財布ポーチや金貨が消えている。
「己等は、僅かな銅貨と鉄貨を差し出せば誤魔化せると思っているのか、3人ともお財布ポーチを持っていたのに何故無い。ヘインズ侯爵様、貴方の管理能力の欠如が、末端まで不正をする事を許しているのだ」
牢番が土下座して、仲間達とヘルド達の荷物を分けたので此処に有りませんと泣き顔で謝罪する。
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