第65話 操り人形

 其処此処で飲んでいる冒険者達は、見慣れない俺に興味を示すが様子見の様だ。

 クロウは大人しくバッグの中から、覗き穴を通して周囲を観察している。 


 「よう兄さん何処から来たんだ」


 「フルンからだが、どうかしたか」


 「フルンって凄え香辛料が採れるんだろう。何でこんな時化た街に来たんだ」


 「あれね、年に一度だけ運が良ければそれなりに稼げるな。冒険者が増えたから競争厳しくてよ、次の季節まで必死で稼がなけりゃならねーから逃げ出したのさ。俺は路銀を稼ぎながら王都に向かう事にして旅の途中だ。暫くゴルドーで路銀を貯めて次の街を目指すから宜しくな」


 それからも時々声を掛けられ、パーティーに誘われたりしたが適当に返事して流す。


 クロウが何故この街に興味を引かれたのか判らない、数日してクロウがヘルド達を呼べと言い出した。

 手紙で呼び出したが、ゴルドーに来る時には伯爵様の通行証は誰にも見せるな、とクロウから注文がつく。

 そしてフルンとゴルドーの違いを比べて見てくれと。

 俺の泊まるホテルに宿泊する様に指示し、見知らぬ他人を装い人目につかない部屋の中でのみ会う事にした。


 そのヘルド達が来て夜に部屋で会ったが、クロウの指示でフルンとの違いについて色々聞いてみた。


 「街の入門に際し冒険者も通行税に銅貨1枚取られるんだよ。荷車は銅貨3~5枚取られていたな」

 「手荷物も色々調べて難癖付けられている奴もいたが、黙って銅貨を握らせると文句を言われながらも通れるんだよ」

 「市場で飯を食ったけど高いな、店の主に聞いたら売り上げの二割は場所代に取られるからって」

 「此処の領主様評判悪いよ」


 「冒険者ギルドの買い取りもフルンより平均一割は安いぞ」


 「一割安いって、冒険者ギルドは税を含めて三割の手数料だろう。フルンより一割安いって四割取っているのか」

 「何故そんなに安いんですか」

 「あーそれと街の警備兵が近くで食事していたんですが、明らかに安い料金しか払ってなかったですね」


 ・・・・・・


 ヘルド達と話し合った翌日、薬草採取の為に街を出ると十数人の冒険者集団と出会った。


 《ぼちぼち尻尾を出し始めたかな》


 何となく雰囲気が悪いなと思ったが、半数とすれ違った時に前後を挟む様に立ち止まった。

 ぞくりとした感覚に即座にジャンプして集団の背後に回る。


 「ほう、それが転移魔法か」


 一人の男が笑いながら声を掛けてきた。


 「見知らぬ他人に背後から殺気を飛ばすかねぇ。殺されても文句は言わないんだろうな」


 「お前に俺達が殺せるのか。随分腕に自信が有る様だな」


 「何故俺の事を知っている。誰に頼まれた」


 「お喋りな小僧だな。そのよく回る舌で此の地に何をしに来たのか教えてくれないか」


 《クロウ20メートルコースで宜しく》


 《任せろ!》


 「残念だが喋るのはお前達の方だよ」


 〈えっ〉

 〈消え・・・〉

 〈何だ?〉


 〈糞ッ〉


 駆けより抜き討って来たが遠いし、魔力を纏っている俺から見れば遅い。

 手首を鉄棒で叩き折り、後ろに回って膝裏を蹴りつける。

 周囲で悲鳴と落下音が混じるが、直ぐに悲鳴は収まり呻き声に変わる。


 〈なっ何をした〉

 〈まさか此奴は化け物か〉


 「あー、皆さん意外に頑丈ですねー、此れなら遠慮なく痛めつけられるな。お喋りな小僧に、何を聞きたかったのか教えてくれるかな」


 砕けた手首を押さえて脂汗を流す男に、俺に何を聞きたかったのかと聞いたが喋る気が無さそうだ。

 地面に叩き付けられて唸る男達に此れから起きる事を教えてやる。


 「俺の質問に答え無い奴は、此れから人生初の・・・二度目の空中散歩をさせてやる。どうなるのか今から見本を見せてやる」


 何故地面に叩き付けられたのか判らず怯えている男達に、上空を指さしよく見ていろと告げる。

 次の瞬間俺の指さす上空に何かが現れ落下を始める。


 〈ヒエェェェェ〉悲鳴に続き〈ドスン〉と鈍い音と共に血反吐を吐いた男が転がっている。

 皆が声もなく血反吐を吐いて横たわる男を見ている。

 その男をもう一度上空に放り上げ同じ場所に落とすが、今回は悲鳴もなく地面に落ちた衝撃音だけが響く。


 「次ぎ、お前飛んでみるか・・・其れとも質問に答えるか?」


 俺に指名され逡巡している男を上空に放り上げる〈ギャーーーァァ〉と盛大な悲鳴を上げて落ちてくる。


 〈グェッ〉


 不幸にも下で横たわる男の上に落下し、巻き添えをくらった男が血反吐を吐いて痙攣している。

 目障りな三人を遠くに捨て次の男を選んでいるとクロウが手緩いと言ってくる。


 《空中散歩であっさり殺したら喋る気にならないぞ。得意な股間の丸焼きをやれ! あれは男にとって恐怖以外の何ものでもないからな》


 俺に声を掛けてきた男の目の前に頭程の火球を浮かべる。

 手首を押さえ脂汗を流しながら後退る男の後ろにも火球を浮かべ逃げる方向に次々と火球を繰り出す。

 周囲を火の玉に囲まれ逃げる事が出来ない男の股間に、拳大の火球を押しつけると転げ回って逃げようとするが悲鳴すら上げない。

 しかし火傷の痛みに耐えきれなかったのか、動く手で股間を押さえ白目を剥いて気絶してしまった。


 周囲の男達が恐怖の目で気絶した男を見ている。

 そのうちの一人の目の前に火球を浮かべる。


 「止めてくれ、喋る何でも喋るから止めてくれ!」


 「何で俺を襲ってきた、理由を言え」


 「雇われたんだ、その男に銀貨5枚で雇われた」


 腕が使えないのか顎で気絶している男を示す。


 「此の男の事を知っているか」


 「多分街の警備隊の隊長だ、其処に転がっている奴が隊長って言っていた」


 「黙れ! ペラペラ喋ると金を払わんぞ」


 「銀貨5枚に釣られて此の様だ。こんな化け物とは聞いて無い、怪我の治療代で借金奴隷になっちまうわ! 糞っ」


 仲間割れは大歓迎だが俺は化け物じゃない、化け物は俺のバッグの中で見物している化け猫の方だ。


 《お前・・・何か良からぬ事を考えてないか?》


 動物の勘、野生の勘? 鋭いねー、クロウの奴。


 《そろそろこの街に滞在しようと思った理由を、聞かせてもらいたいな。こうなる事を知ってたのか》


 《ザクセン伯爵を使い、お前を呼び寄せたのは執事の方じゃないかと思ったからだ。あの間抜けな侯爵は唯の操り人形だと思うな。其れより尋問を続けようぜ》


 「お前から見て街の警備隊の連中はどいつ等だ」


 「その伸びている奴と金を払わないって言った奴に後二人だ、其奴等の剣を見てくれ柄に同じ街の警備隊の紋が付いている」


 柄に〔ウルフに突き立つ剣〕の模様が付いた物を持っている奴を並べる。

 金を払わないと言った奴の股間に火球を押し当て、身を捩り悲鳴を上げた所で火を消す。


 「金払いの悪い奴は嫌われるぞ。お前もそこで白目を剥いている奴と同じ様になりたいのか」


 そう言って目の前に火球を浮かべ返事を促すが、浮かぶ火の玉から目をそらし身を捩る。

 喋る気なし、今度は火が消えるまでこんがり焼いてやるよ。

 股間に火球が張り付くと、絶叫を上げて身を捩るがそんな事で消えるはずもない。


 次の犠牲者に微笑み、質問を変える。


 「お前達四人以外は何処から集めてきたんだ」


 隣の男の絶叫が段々小さくなっていく。

 それを横目で見ながら街の破落戸と、彼等と付き合いの有る冒険者に金を払って集めたと言った。


 「で、お前達は誰の命令で動いているんだ」


 「侯爵様の命令で、野盗に襲われた様に見せかけろと言われた」


 《侯爵本人から命令されたのか聞いてくれ》


 「お前達四人が呼ばれて直々に命令を受けたのか」


 「隊長がグロズさん・・・執事のグロズさんに呼ばれていた」


 クロウが気を失っている隊長の胸にジャンプし、治癒魔法を使って股間の火傷を治した後ウオーターの水をザバザバ顔に掛けている。


 〈うわっぷっっ、冷てーえなっ・・・誰だよ〉


 水の冷たさに目覚めて起き上がろうとし、手首の骨折に気づいて顔を顰めている。


 「お早う、良く眠れたかい。その汚い物を隠すくらいはしてくれよ」


 俺に指さされて股間を見、顔を赤らめて慌てて隠す。


 「さーてと、火傷が治った所でもう一度こんがり焼いてみますか」


 立ち上がって逃げようとするので、両足の膝から下を火球で包み火炙り。

 なにかピョコピョコ砂漠の蜥蜴みたいに〈ウワッチ、ウワッチチチ、ウワッチー〉交互に足を上げながら変な声を出している。

 絶えきれなくなり倒れても足の火球は消えず、ジタバタしているので火を消してやる。


 「逃げられると思ってるの、喋らなきゃもう一度股間の丸焼きを始めるよ」


 そう言われて初めて股間の火傷が治っている事に気づき、焼けたズボンの間から覗く御子息をマジマジと見ている。

 かなり間抜けなポーズで御子息と涙の対面を済ませたが、今度は両足の火傷の痛みに顔を顰める。


 「最後だ、誰に命令されて俺を殺しに来た」


 ゴクリと唾を飲みそれでも喋ろうとしないので、最大能力で空に旅だってもらった。

 残りの者達も全て空の彼方に飛んでもらう。


 《グロズって執事に会いに行こうぜ》


 「どうして執事って」


 《最初に侯爵のところに乗り込んで名前を聞いた時、侯爵はお前が誰だか知らなかった。執事がお前の名前を叫んで初めて反応したが、覚えているか》


 「確か『エディとは王都で大暴れした、あのエディ・・・』と言ってたな」


 《自分が指名して呼び寄せた冒険者が誰だか知らず、執事に名前を教えられて驚いている。おかしいと思わんか》


 「王都での乱闘騒ぎは知っていたのに、火球を見るまでは貴族殺しなんて言葉も出なかったな」

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