第62話 鳥・とり・トリ

 「最初に言っておくが、アポフの木を見つけて此れは俺のだ等とほざくと、伯爵様に捕まる事になるから注意しろよ。もっと大事な事は此れから見せるアポフの木に実が生っているが、完全に乾燥していない物は採取しても鉄貨1枚にもならないって事だ。乾燥していない実を採取して乾燥させても、金にならないから忘れるな。西門から出た周辺で採取したから、その辺りに行っても残ってない行くだけ無駄だ」


 そう告げて、実のついたまま根元から切り取ったアポフの木を皆に見せる。


 「今からテーブルの上に置くから順番によく見ろ。その後ギルマスが金になる実の選別を教えてくれるから良く聞いておけ。で必ずいる馬鹿に一言、見本の木に触れるな! 腕を切り落とされても文句は言わせんぞ」


 テーブルの上に置くと周囲を椅子で囲い近づけなくし、伯爵様の警備隊が抜き身の剣をもって見張る。

 夜明け前まで冒険者達が代わるがわるアポフの木と実の見本を見比べ、特徴を覚えて夜明けの開門と共に一斉に草原や森に散って行った。

 冒険者が出ていき静まりかえったギルドの食堂で、ギルマスや伯爵様とエールで乾杯した。


 「エディ殿感謝する。この話が広がればフルンに来る冒険者も増えるし、集められた実で街が潤う事になる」


 「それより伯爵様が、此れから大変になりますよ」


 「年に一度の事とは言え、低ランクの冒険者も稼げる機会が出来た事だ。奴等も少しは楽が出来るだろう」


 「それは本人達の運と努力ですからね。俺はチャンスを与えただけですよ。それよりギルドの準備はいいんですか。豆粒程の物が大量に持ち込まれたら、記録や選別など大変ですよ」


 俺の言葉通り、三々五々帰って来た冒険者達が持ち込むアポフの実の選別や記録に、ギルドの職員が悲鳴を上げる事になった。

 冒険者の方はアポフの木一本見つければ、100~200粒は楽に集められし高価な物だと知っているので、少々待たされても笑顔だ。


 仮払いの単価は前年のオークション価格を参考に決められた。

 前年のオークション価格は以下の通りと掲示板に張り出された。

 最上級品、十粒銀貨4枚

 中級品、十粒銅貨9枚

 普通品、十粒銅貨2枚

 上記オークション価格を参考に、最上級品は一粒銅貨1枚・中級品は十粒で銅貨1枚・普通品は20粒で銅貨1枚が仮払い金となった。


 一部の者が噂より相当安いと騒ぎ出したが、大量に出回ったから当然値が下がる。

 今回も大勢の冒険者が探すのでもっと下がる恐れもあると、騒ぐ奴等にギルマスが怒鳴りつけている。

 豊作貧乏って言葉を知らないのかね。

 俺の栽培している物が出回ればもっと値が下がると思うが、多分その頃には冒険者達の収穫量が落ちると思う。


 ギルドに預けた商品の目録と仮払い金額を記載した紙を貰い、オークション価格決定後残金精算となった。


 俺はギルマスに入れ知恵し、集められた実を一括でオークションに出さず、三分の一程度を出品しろと唆す。

 その販売価格で残りをギルドから売り出せば、年間を通して安定供給出来るし値段も決定しやすい。

 最終的にオークションに出さず、フルンの冒険者ギルドで値を決め業者に売れば良いと入れ知恵。

 冒険者の支払いの為に一時的には支出が多くなるが、フルンに行けばアポフの実が買えるとなれば、安定収入が見込めると。

 其れを聞いた伯爵様が、オークション価格で全て買い取りたいとギルマスに提案、フルンの特産にすると言い出した。

 ギルドは手数料さえ貰えれば問題ないので、即行で話が纏まっている。


 「いや有り難い助言に感謝しますエディ殿、集められたアポフの実を他国にも売りつけてフルンを豊かな街にして見せますよ」


 やっぱり此の伯爵様は油断ならない。


 ・・・・・・


 数日してギルマスの訪問を受けた。


 「エディ、何とかならんか。ギルドの職員総出で、アポフの選別や数勘定をしているが追いつかない」


 「頭を使いなよ。数勘定や選別は冒険者にやらせれば良いだけだろう」


 「それが無茶苦茶何だよ。欲が絡むから一々文句を言って、一人片付けるのにも時間が掛かって仕方がない」


 確かに俺達も大中小の選別だけでも時間が掛かったし、品質にいたっては目が痛くなるし物が小さいから大変だった。


 《どうしたものかな》


 《大きさの仕分けと、品質・・・色の選別だろう。大きさの選別は網を張った升を作らせろ》


 《網を通った物で大中小と振り分けるのか、成る程ね。色の選別は白布の上を転がせば見やすいか》


 《数勘定は百マスに区切った盆に実を入れれば、一つ一つ数えなくても判るぞ》


 ギルマスに枡に網を張った物を幾つか作り、大中小と振り分けさせろと進言する。

 其れを先ず冒険者にやらせ、振り分けた物を白布を張った盆に入れ色の選別をさせてから職員に提出させる様にすれば良いと伝える。


 粒の大きさは網を通せば誰も文句は言えなくなる、中の網に引っ掛かれば大、落ちれば中小だ。

 小の網に引っ掛かる物が中粒で落ちたのが小だろう、誰にも文句は言わせない仕組みにすれば良い。

 小を受け止める網から落ちた規格外や歪な物は、重さで買えば良いだけだ。


 網を通した物は白布の盆に入れ転がせば色むらも発見しやすい。

 そうやって冒険者に文句を言わせない体制を作れと教える。


 小豆程の直径の丸い粒だ、網や枡があれば簡単に選別し数勘定ができるだろう。

 頑張れギルマス♪


 ギルマスは話を聞いて飛んで帰り、速攻で言われた物を作り職員と冒険者に使わせた。


 ・・・・・・


 情報公開から10日もすると、ギルドにアポフの実を持ち込む者はほぼいなくなった。

 どうやら周辺は探し尽くしたらしい、どの程度の分布でアポフの実が採れるのか、採取場所は冒険者の秘密なので判らないがそう広い範囲ではなさそうだ。

 それが証拠に殆どの冒険者が日帰りで収穫物を持ってくるからである。

 俺の推測では、森の浅い所と草原の日当たりが良く乾燥気味の地面に生えている様だ。


 ・・・・・・


 ギルドに集められたアポフの実は、去年俺達が提出した約四倍ありその1/4をオークションに出した。

 値段は去年とほぼ同じ、オークション価格が張り出されると挙って換金に訪れる冒険者だが、時にギルドの職員に連行されて行く者がいる。


 預けた商品の目録と仮払い金額を記載した紙を提出すると、未払い分が支払われるがその用紙には数字が記されている。


 そして依頼掲示板の注意喚起の場所に

 『仮払いの紙に記載された冒険者登録番号と冒険者カード番号が合致しない者に支払いを拒否する。その場合不当に当用紙を入手したものとみなし取り調べを受ける』

 この一文により、身柄を拘束され厳しい取り調べを受ける事になる。


 何の為に冒険者カードの提出を求めていると思っているのやら。

 予想できた事なので伯爵様と相談し、弱い者を守る方策も準備していたんだ。

 不当に用紙を取り上げられた者達の訴えに、即座に対応出来る様になっている。


 懐の暖かい冒険者が街に溢れ、フルンの街は活気に満ちている。

 ただ少し不幸な者もいた。

 顔に五本線を刻んだ者達は、アポフの話を聞けず現物も見る事が叶わず完全に出遅れた。

 アポフを収穫している者から横取りして少しは確保したが、提出した時に不良品が半数以上混じっていて、何を聞いていたと怒られ突き返されていた。

 彼等は猫の爪痕を持つ者と呼ばれ、フルンの冒険者ギルドでは間抜けの代名詞となり、馬鹿にされ何時の間にか姿が見えなくなってしまった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 秋になり屋上のアポフの実が大きくなり、日々其れを確認するのが日課になっていたある日クロウに叩き起こされた。

 尻尾の鋭い一撃を顔に受け目覚めると《鳥の大群だ!》そう一言言って消えた。

 寝ぼけ頭で鳥???・・・《何をやっているアポフの実が食われて無くなるぞ!》

 クロウの念話が頭に響いて漸く理解し、寝起きのまま屋上にジャンプした。


 鳥・・・鳥・とり・トリ ヒッチコックかよ。

 屋上にヒヨドリに似た鳥の大群が、アポフの実を貪っている。

 手近に有った棒を振り回し追い払ったが数で負けている、何とか追い払った時には半数以上、多分2/3以上は食べられた後だ。


 「マジかよー」


 《鳥に食われるとは想像して無かったな》


 ヘルド達を起こして屋上に連れて来て、鳥が来たら追い払ってくれと頼む。

 三人は屋上でアポフを育てている事を知らなかったので、驚くと共にその惨状に目を見張る。

 葉は半数以上が落ち実の大きな物は殆ど食べられている。

 枝や葉の陰になっていた物が残っていたが、ヘルド達も此れが収穫出来ていればどれ程の金額になるのかを思いだし、青い顔になっている。


 クロウと相談して籠を作り鉢に被せて鳥対策をする事に、ヘルド達に頼んで籠を編める者を探して注文する事にしたが、今年の収穫は僅かだろう。

 籠が出来るまでの間ヘルド達に交代で鳥の番をしてもらい、一日銀貨1枚を約束して追い払って貰う事にした。

 此れからの事も有るので、ヘルド達の部屋から屋上に出入りできる様に工事をする事にした。


 「あーがっかりだよ。まさか鳥に食われて無くなるとはね」


 《俺も何で鳥が騒いでいるのか不思議だったんだが、美味いとか沢山有るとか騒ぐもんだから興味が湧いて見に行ったんだ。ありゃーヒヨドリがピラカンサに群がる様を思い出したよ》


 「ヒヨドリより一回り大きかったぞ」


 今年の収穫分40鉢のうち、収穫出来るのは1/3から1/4程度だろうな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る