第60話 腰抜けウルフ
ギルマスの言葉を聞いて、6人の内三人が即行で謝罪してきて戦線離脱。
冒険者達の話し声で顔が強ばっていたのが、ギルマスの言葉で完全に萎縮してしまった様だ。
〈何だよ、さっきの意気がりはどうした! お前達の血塗れ姿を見たいんだから、やれよ!〉
〈弱い相手にめっぽう強い、天下無敵の血塗れウルフちゃん〉
〈情けないぞ。女に絡んだ時の威勢はどうした!〉
野次られて二人がこそこそと三人の後ろに回り頭を下げてきた。
ゴールド間近と宣った男だけが、抜けた仲間達を睨みあくまでも模擬戦をやるつもりの様だった。
「良いのかい。模擬戦をふっかけておいて、寸前で逃げたら王都には居られないよ」
〈済みませんでした。俺はブロンズなんです。怪我したくないですから王都から出て行きます〉
〈俺も、あのリーダーとは縁を切ります〉
人望が無いリーダーだね。
唾を吐いて訓練場に向かう男の後に続いて中に入り、何時もの棒を取り出す。
《さっさと片付けろよ。アイリとのデートを邪魔しやがって、その礼はきっちりしておいてくれ》
エロ猫も機嫌が悪い。
向かい合って始めの合図で駆け寄ってくるが、横に躱して足下に棒を差し出す。
つまずいて前のめりになった所を狙い、尻バットのフルスイング。
そのまま頭から地面に突っ込んで伸びてしまった。
〈あー、つまらん勝負だったな〉
〈一瞬っていうより、躓いて尻に一発貰って伸びてるよ〉
〈まぁ彼奴の前に立つだけでも、立派な馬鹿だ〉
〈恥ずかしくて王都周辺では冒険者家業は無理だな〉
〈厚顔無恥なウルフだぜ、明日にはしれっとエールを飲んでるよ〉
〈でも五人抜けたらパーティー解散だな、彼奴と組む奴なんているのかね〉
* * * * * * *
「査定も終わっているだろうから、金を貰って王都見物に行こうぜ」
「あんたは相変わらず訳わかんない性格ね」
「おいエディ、そのお姉ちゃんの服装はもしかして・・・あれじゃないのか」
アイリのケープを少し捲って胸の紋章をギルマスに見せる。
「お前も優しいな。護衛に見られたら、彼奴の人生終わるぞ」
にやりと笑ってギルマスに手を振り、依頼の精算金を貰って王都見物だ。
「エディさんて、王都の有名人なんですか」
「そそ、誰もエディさんが負けるなんて思ってなかったし」
「エディさんを知らない奴だけが、血塗れのウルフ達に賭けようとしてたよね」
「〔銀の牙〕の時の事を思い出して、思わずエディさんに賭けようかと思ったよ」
「だよねー、誰も賭けようとしないので可笑しいと思ったよ。皆知ってたんだね」
市場見物でフルンに無い物を大量に買い込み、疲れたらアイリ行きつけの小洒落たお店で一休み。
普段着もアイリに見立てて貰ってにやけながら購入する始末で、勿論家族の土産もアイリに聞いてホイホイ買っている。
オケラになっても知らねえぞ。
一日付き合って貰い礼を言って送っていくと、冒険者ギルドで馬鹿の相手をする前に聞かれた事の説明をしろと煩い。
冒険者ギルドの近くで襲われた事や、ドラゴンキラーの一件を簡単に話すと呆れられた。
「あんたは、何時も揉め事を呼び込んでいるわね」
「それは違うぞ。呼んでもいないのに向こうからやってくるだけだよ」
「で、暫くは家に泊まっていくんでしょうね。クロウも酷い飼い主で大変ねー」
アイリに抱えられ、スリスリされてにやけているエロ猫。
アイリの所に泊まるから、お前はヘルド達を王都観光に連れて行ってやれと邪魔者扱い。
ヘルド達の所に行こうとしたら、アイリに襟首掴まれて止められた。
「アイリ、いくら年上だからって俺はクロウじゃないんだ、襟首を掴むなよ」
「あら、クロウちゃんの方が可愛いわよ。あんたは目を離すと何をやり出すか判らないから、此処に泊まりなさい。ヘルド達の相手は昼間だけで良いでしょう。私も暇な時は付き合ってあげるから」
まったくこの間までは俺を頼りにして離さなかったくせに、姉さん気取りでいやがる。
そんなこんなでガーラン商会に行かない日は、アイリの案内でヘルド達と王都見物となった。
アイリがガーラン商会に行っている間に新しい服を新調して、クロウのバッグも一回り大きな物にする。
ヘルド達がそろそろ帰りませんかと言い出したのは、二月の始めになってだがフルンが恋しくなったらしい。
いい年してホームシックかよと思ったが、冒険者でも旅をせず街に定住している者はこんなものか。
そう思っていたら、王都で使う金は滞在費や土産代を含めて金貨20枚と決めていて、足が出そうだから帰る事にしたらしい。
しっかりしてるねと思ったが、俺の金銭感覚が狂っているだけだった。
アイリに別れを告げて帰る時に、クロウを抱きしめて今年の冬には帰ってお出でとクロウに囁いている。
言葉が判るクロウなら、俺が忘れていても引き摺ってくると思っているようだ。
それに応える様にニャアニャア甘い声で鳴き、おっぱいにスリスリしているエロ猫。
《エロ猫さん、アイリの所に住み着くんじゃないのかよ。無理についてこなくても良いぞ》
《焼くなよ。今年の冬に、お前を連れてくる役目が有るから良いんだよ》
《アイリの手先かよ。おっぱいの魅力に負ける猫って、情けないと思わんのか。大体種族が違うし雌同士だぞ。変態も此処に極まれりってところだな》
* * * * * * *
久し振りにフルンの冒険者ギルドに顔を出すと、見知らぬパーティーが数組いる。
ギルマスに聞くとアポフをオークションに出品した事と、婆さんからの情報が拡散した様で一攫千金狙いの奴等だそうだ。
ただ、フルンの冒険者ギルドで情報を集めようにも誰も知らないので、俺の偽情報を頼りに森の奥に向かう奴が多いそうだ。
それに少ない情報から冬が明ける頃が、アポフの実を採取出来る季節と知りフルンに集まって来た様だ。
「お前も気を付けろよ。裏の連中には、お前の名が知れている筈だからな」
「集まっている奴等から、俺の名が出たりしているの?」
「去年の騒ぎが在るので、表だっては誰も口にしないが油断は禁物だぞ」
そう・・・なら誘ってみるかな。
ヘルド達に俺はちょっと森の奥に行ってくるので、その間はアポフの実に近づくなと言っておく。
去年の採取時期はもう少し先だ、慌てて未乾燥の実を採取したら目もあてられないのでそれも改めて説明しておく。
* * * * * * *
「エディさん気を付けてね」
「良い情報があったら教えてください。お願いですからね」
ヘルド達とは朝食後ギルドの食堂で別れて、俺は一人街を出て森に向かった。
《釣れるかな》
《釣れなきゃ、猿芝居の意味が無いよ》
《まあな、興味津々でお前達を見ている奴は沢山いたからな》
* * * * * * *
「ようヘルド、今日はエディと一緒じゃないのか」
「やだなぁ薬草採取はよく一緒にしていますけど、俺達のパーティーに入ってる訳じゃないですからね。何でも暫く森で珍しい薬草を探してみるって」
「でもお前達は、奴と同じ借家に住んでいるんだろう」
「同じ頃に冒険者登録して、森でオークに襲われていた時に助けられて以来の付き合いですからね。格安物件が有ると教えてくれたんですよ。何時もエディさんに助けて貰って、感謝してます」
ヘンクとイクルもうんうんと頷いている。
「お前達は一緒に森に行かないのか」
「森の浅い所ならエディさんより俺達の方が詳しいけど、奥に行くと俺達は役立たずの足手まといですからね。分を弁えて森の浅い所や近くの草原で薬草を探しますよ。薬草採取やゴブリン程度を狩っていれば、食うには困りませんから」
* * * * * * *
エディとヘルド達が朝食を始めた頃から、三々五々周辺のテーブルが埋まり皆静かに食事を取っていた。
しかしヘルド達の会話を一言漏らさず聞こうとしている事を、承知の上で話していたのだ。
エディが出て行き、ヘルド達と冒険者の会話を聞いていた者達が静かにテーブルを離れる。
「お前達、四人で王都に行ってたんじゃないのか」
「あれね、エディさんが一人で旅をすると、何かと絡んでくる奴がいるからと虫除け代わりにって誘ってくれたんですよ」
「一日銀貨1枚貰って王都見物させて貰いました。あんな美味しい仕事は初めてですよ」
「だね、エディさんと知り合ってから時々稼げる仕事を回して貰えるし」
「去年のオーク探しで大儲けさせて貰ったな」
古い馴染みの冒険者達と話している間に、周囲に居た冒険者達の姿がほぼ消えていた。
彼等も口に出さないが気づいているのだろう、周囲の男達が居なくなったテーブルを見て笑っている。
「またオークの様な美味しい話が合ったら、教えてくれとエディに言っといてくれ」
そう言って彼等は依頼掲示板を見に行った。
* * * * * * *
《おーお、ゾロゾロ出てきているな》
《やっぱりね。収穫前の、この時期から見張ってないと間に合わないからな》
《然し、収穫なら秋だろう》
《そりゃーお宝狙いに出張ってくる奴等だ、少し調べれば実ったばかりの実を収穫しても金にならないと知ってる筈だよ。葉が落ち実が乾燥した時季には見つけるのが容易でないと判っていらっしゃる》
《そうなると、実績の有る奴の後ろをついて行くのが最良か。上手くやれば横取りも可能ときた》
《そう上手くいくかな♪》
《思いっきり揶揄ってやるか》
一日目の野営は静かに過ぎた、まさかカプセルホテルを持ち歩いていると思わなかったのだろ。
俺がカプセルホテルを取り出し中に入ると、つかず離れず後をつけている奴等の動揺が感じられた。
偵察に出たクロウも《奴等が慌てているぞ》と笑いながら教えてくれた。
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