第55話 強欲
冒険者ギルドで薬草の書物を見せて貰い、香辛料の記述を探せば判るかもしれない。
悩んでいるとヘルドの訪問を受け、ギルドで俺を探している奴等が居ると教えてくれた。
しかも香辛料とは言わないが、小さな豆の様な草の実を知らないかと皆に聞いているそうだ。
ヘルド達も聞かれたが、草原を中心に薬草を集めているがそんな物は見たこともないと答えると、あっさり引き下がったと。
あの婆さん相当の値打ち物と思っている様だ、俺の話を真に受け森の奥で採取されたと、聞き回って居る奴に伝えたに違いない。
《こりゃーお宝に間違いなさそうだな。となると早めに残りを収穫した方だ良さそうだな》
《どうしてだ、今動くと目立つぞ》
《季節を考えろ、もう新芽が出始めている。そうなると去年の古い実は落ちるぞ。それに葉が付けば今の状態と違うから探すのが大変になる》
《じゃ実を全て回収し、あの木の位置に目立たない目印を付けさせておくか》
《ああ、葉の模様なんかも覚え場所を特定しておけば、次ぎに実を収穫する時に楽だろう》
ヘルド達にその男を俺が引きつけるから、それを見たら薬草採取に出て香辛料の実を全て収穫しておいてくれと頼む。
周辺の薬草採取がメインで、香辛料を採取したら即座にお財布ポーチにしまって誰にも見せるなと注意しておく。
それと毎日薬草をギルドに売りに行き、俺の事や香辛料の事を探っている奴の様子も見ておいてくれと頼む。
手筈を決め翌日俺が先にギルドに入り食堂で朝飯を食べる。
ヘルド達は少し遅れてギルドに入るが、素知らぬ顔で依頼掲示板に直行している。
「兄さん、座らせて貰ってもいいかい」
見れば冒険者ではなさそうだが、抜け目なさそうな男が朝食のトレーを持って立っている。
「回りに空いた席も在るのに此処に座りたいのか。いいよ俺はもう食い終わるからどうぞ」
食事中だが自分のトレーを持ってカウンターに返却に行く。
男が舌打ちしながら席に着くが、お仲間がいるようで顎をしゃくっているとクロウが教えてくれる。
受付で薬草図鑑か関連書物を見せてくれと頼み、許可を貰って二階に上がる。
会議室の一角に積み上げられたボロボロの書籍、稚拙な図と分かり難い文体の説明・・・まるで素人の書いた絵本だ。
数十ページの絵本だが香辛料に関する記載は無し、此れは王都に行くか覚悟を決めてザクセン伯爵に聞いた方が良いか悩む所だ。
そう考えているとギルマスがやって来た。
「また何か騒動の種を蒔いたのか?」
「あー・・・あれね。物に依っては一騒動起きそう何だが」
「おいおい、変な騒動を起こすなよ」
鑑定ルーペを持っている事、香辛料と鑑定結果が出たので冒険者ギルドに売ろうとしたら判らないと言われ、薬師ギルドに売りに行った事などを詳しく話した。
「あの婆さんか、相当な曲者だからなぁ」
「ギルドが初心者に、薬草の知識をきちんと教えないから薬師ギルドに食い物にされるんだよ」
「まあ、それは別としてその香辛料を持っているのか」
ハンカチに包んだ物を見せたがギルマスも首を捻っている。
「よしっ、伯爵殿に知恵を借りよう。あの婆さんが裏でこそこそしている時は、金の匂いを嗅ぎつけた時だ。金になる香辛料が沢山採れるなら、フルンの街もギルドも栄えるし冒険者も稼げるからな」
「だから誰にも漏らさずこっそりやっているのさ。ギルドももう少し薬草や香辛料の知識を蓄え、冒険者に教えろよ」
「それも考えておこう」
ギルマスに連れられてザクセン伯爵邸に向かう事になったが、相席を言ってきた男とお仲間らしい三人が俺達を見つめている。
流石にギルマスと馬車に同乗し、伯爵邸に向かう俺に声を掛けてくることはなかった。
執事に迎えられ伯爵様に面会を求めるギルマス、〈ランド〉様と呼ばれているのを聞いて始めてギルマスの名前を知ったよ。
ザクセン伯爵の執務室で伯爵と向かい合うが、ギルマスは挨拶の後俺に丸投げで又一から説明をする。
「エディ殿、その香辛料を見せて貰えますか」
ハンカチに包んだ香辛料を見せると執事を傍らに呼び見せる。
執事が自分の記憶は曖昧なので料理長を呼んで来ますと出て行き、料理長をつれてきた。
料理長は流石に料理人、ハンカチに包まれた実を見ると俺に許しを求め、一粒砕き噛みしめると、〔アポフ〕の実ですと断言した。
「此れを何処で?」
俺達や伯爵の顔を見て、出過ぎた質問でしたと頭を下げる。
「その様子だと、相当貴重な香辛料の様ですが」
「はい、豪商達や王家が挙って買い漁るほどの物です。此れ程上質な物は滅多に出回りません。御当家に保存されている物より遙かに上質な物です」
俺とギルマスが目と目を見交わし、伯爵様も頷いている。
料理長に此れをどの様に使うのか聞くと、粉末にして料理の仕上げに混ぜたり極少量を振り掛けるだけで、料理の味が一段と増し深みも出ると断言した。
価格は時価、採取された時にオークションにかけられるのが一般的だそうだ。
赤紫の実と乾燥した種が有り、実を採取しても香辛料とはならず、実が乾燥して種が採れる状態になった物がアポフの実と呼ばれると教えてくれた。
「料理長、調理場に有る料理を少し持ってきてくれ」
伯爵様に命じられ、料理長がスープの壺とカップを多数用意する。
先ず持ってきたままのスープをカップに注ぎ各自の前に二つ並べ、次いで香辛料の粉末をスープに混ぜたカップを置く。
皆夫々に普通のスープを味わい、次ぎに粉末を混ぜたスープを口に含む。
スープの味が濃厚になり、微かに甘い香りが鼻に抜ける。
粉末を振り掛けた物は味が少し増したが甘く爽やかな香りが濃厚になる。
「こりゃー全然違うな」
クロウもバッグから出てきて、俺のカップから順に味見をして喉を鳴らしている。
《かー・・・あの婆さんが金の匂いを嗅ぎつける訳だな》
《クロウお行儀が悪いな。皆が呆れているぞ》
香辛料の入ったカップを綺麗に舐めているクロウをバッグに戻す。
「確かに香辛料だな、香りの爽やかさとスープの味が濃厚になっている。あの婆さんが、金の匂いを嗅ぎつけたのも無理ないか」
「エディ殿、此れを当家で買い上げる事は可能ですか」
「私は冒険者ですので基本的に冒険者ギルドに卸します。ですが冒険者ギルドに買い上げて貰えない場合は、薬師ギルドに持ち込みます。今回は冒険者ギルドが買えないと言い薬師ギルドに持ち込みました。その薬師ギルドが暴利を貪る為に、裏で動き始めています」
「具体的には?」
冒険者ギルドでの一件を話すと、深く頷いて執事に何事か指示している。
「先程の話ですが、この香辛料がどの程度採取出来るのか不明です。もし一定量を定期的に採取出来るのなら、冒険者達に公表するつもりです。冒険者ギルドや伯爵様だけに稼がせる気はありません。勿論薬師ギルドにもね」
ギルマスや伯爵様が真剣に考え込んでいる。
「私は冒険者ギルドから税以上を徴収する気はないが、公表すると君の利益が無くなるのでは」
「私は充分稼いでいますので、今更これで稼ぐ気はありません。日々の暮らしに事欠く冒険者達に、年に一度位たっぷり稼ぐ機会を与えたいですね。冒険者ギルドも同じです、オークションの手数料以外は冒険者に還元して下さい」
冒険者ギルドは売値の30%を手数料として徴収していて、ギルドが20%領主殿が10%を税として受け取っている事が判った。
日々持ち込まれる薬草や野獣の査定額も、市場価格を反映して決められているとギルマスが教えてくれた。
ギルマスの提案で、ギルドが集めた香辛料は伯爵様には税の代わりに10%現物で収める事になった。
《3公7民か、案外良心的だな》
《冒険者ギルドも公になるのかな。しかし此れで一定量の採取が出来る様なら、1年間様子を見て全てを公表するか》
伯爵邸から引き上げる時、冒険者ギルドと俺の周辺に人を配している。
問題が起きれば此方でかたづけるが、むやみと逮捕も出来ないので、不良分子と判るまでは俺が対処してくれと頼まれた。
まっそれ位は仕方がないと受け入れる。
帰りの馬車の中で、帰ったら暫く食堂で飲んでろと言われたが、何か企んでいるのがみえみえ何ですけど。
・・・・・・
カウンターでエールと摘まみを受け取り、空きテーブルに座ると即行で朝の男がやって来る。
無視してエールをあおり、ジョッキを置いた時には向かいに座っていやがる。
離れた席で飲んでいた数人が立ち上がり、俺のテーブルに来ると空いている席に黙って座る。
早いねー、さそう必要もない。
5人かと思ったら追加で6人が背後を取り囲み、周囲から俺の姿を見えなくする。
手慣れているなぁと感心していると、腹にナイフが突きつけられている。
《やっちまうか》
《ちょっと待っててね》
ギャング映画のワンシーンみたいだと関心してしまった。
「恐れることはないぜ、エディさん。質問に答えてくれたら怪我をせずに済むから」
「なかなか堂に入ってるな」
「お前も良い度胸だ、噂は伊達じゃないな。あの香辛料を出せ、其れと何処で採ってきたのか場所を教えろ」
「残念なお知らせが有るんだが、聞くか?」
「ん、なんだ?」
「香辛料は渡せないし場所を教える気もない。そして周囲を見てみろ」
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