第54話 お宝探し

 「詳しく話せ! オーク討伐の強制依頼を出すところだったんだ」


 「ギルマス怒られても困るよ、取り敢えず30頭位は殺した筈だよ。残りは逃げたけどね」


 「・・・30頭位は殺した。お前オークを売りに来たんだな、見せろ」


 強引だよね、このおっさんも。

 ギルマスに引きずられて解体場に向かうと、集まっていた冒険者達がぞろぞろついてくる。

 だせと言うのでマジックポーチから、売るはずのオーク四体を出して並べる。


 〈おい・・・ありゃー〉

 〈オークキングじゃねえか〉

 〈マジかよ〉

 〈他のオークより二回りは大きいし、あの毛色を見ろよ。間違いない、話に聞くオークキングだ〉


 「残りは? 残りのオークを出せ! オークキングが居たのなら相当な群れだった筈だぞ」


 一々煩いおっさんだ、残りのオークは捨てて来たと言ったら呆れていた。


 〈捨てたって・・・討伐話はでっち上げかよ〉

 〈でも、オークキングを持って来てるんだぞ〉

 〈偶々だよ、群れを倒すのは一人では絶対に無理だ〉

 〈オークキング一頭倒すのと、群れを倒すのでは全然話が違うからな〉


 俺がそう言うと冒険者達が騒ぎ出して収集がつかなくなり、ギルマスが怒鳴りつけて何とか収まった。

 今日薪集めに行った場所はヘルド達三人が知っているので、場所はヘルド達に聞いてくれと答える。

 但し、その場所を中心に150メートから350メートルくらいの円内に、適当に捨てたので場所は判らないと言うと、又冒険者達が騒ぎ出した。


 〈嘘に決まってるさ〉

 〈でも彼奴はグルーサモンキー討伐の時も、大活躍してたしなぁ。強ち嘘とも言えないぞ〉

 〈おい、ヘッジホッグの、見付けたら3割やるからその場所に連れて行ってくれ〉

 〈行ってどうするのさ〉

 〈ばーか、その話が本当ならオークを探して持って来れば最低でも銀貨10枚から15枚になるんだぞ。一日無駄にしても探す価値は有る〉

 〈よしっ、俺もその話に乗った!〉


 三人がどうしようって顔で俺を見る。


 「行ってきなよ。案内するだけで見付けたオークの3割が貰えるんだぜ、探すのは連れて行った奴等がする事だ。見付けられなかったらお前達も相手も一日無駄になるだけで、大した損にはならない」


 参加者多数になり、ギルマスの仕切りで最終的に案内料は見付けたオークの2割と話が決まった。

 俺の出したオーク三体は銀貨15~18枚に、オークキングは銀貨25枚になり、総額金貨7枚と銀貨4枚を貰って山分けした。

 恐縮するヘルド達に、一緒に行動したんだから当然の取り分だと言って銀貨18枚づつを渡し、端数は俺の手数料にどうぞと言われて有り難く受け取る。

 明日の案内だけで又稼がせて貰うので有り難いですと、ほくほく顔なので言われたがそれは見付けた時の話だと釘を刺しておく。


 翌日ヘルド達は40名近い冒険者を引き連れて森に行き、夕暮れまでに16頭のオークの死体を回収してきた。

 中には野獣に喰われ価値が半減した物も在ったが、それでも普段より稼げて皆大喜びだ。

 ヘルド達も案内料として銀貨40枚近くを稼ぎ、オーク2体回収で銀貨27枚を稼いだと改めて礼を言われた。

 オーク回収で大もうけの話が伝わり、翌日も大勢の冒険者がオークを探しに行き11頭のオークを持ち帰った。

 三日間の捜索で合計33頭のオークを回収し、俺の4頭と合わせ37頭のオークが討伐された事が確認されたので、改めて俺の話が事実だと認められた。


 俺の話を馬鹿にした奴等から食堂で顔を合わせた時に、何故本当の事だと言ってくれなかったんだと文句を言われた。

 周囲に居たオークを拾って大儲けした冒険者達に、お前は端から信じず馬鹿にしてたんだから今更文句を言うなと笑われていた。

 オーク回収の話はエディのお宝探しとしてすっかり有名になり、フルンの冒険者ギルドでは俺の話は突拍子もない事でも信じろってなった。


 参ったのは回収したオークの全てが複雑骨折で絶命していて、どうやればこんな殺し方が出来るんだと冒険者達から質問攻めにあった。

 俺も冒険者だ、手の内を晒す気は無いと突っぱねたが面倒だね。

 面倒事は全て俺に押しつけてクロウは俺の肩でのんびりしているか、バッグの中で高いびき、時々尻尾がバッグから垂れて揺れている。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 クロウの尻尾で叩き起こされ、ストーブに火を点けるのが朝の日課になってしまった。

 ストーブの前に置いた椅子の上で暖を取るのが、至福の時間らしい。

 俺も最近はのんびり新居の居心地を楽しんで居たが、身体が鈍ってしまいそうなのでヘルド達の薬草採取に付き合って森に行く事が多くなった。

 鑑定ルーペは中々優秀でヘルド達が薬草を採取している傍らで、見慣れぬ草や実は全てルーペを通す遊び・・・仕事に嵌まっている。

 オレンジランプが点ったときは? となったがオレンジランプは香辛料だと思いだし、早速採取してヘルド達にも香辛料だと教える。


 「へえー・・・此れが香辛料ね、見掛けない実ですね」


 「でも買い取って貰えるかどうか判らないからな。取り敢えず5本分を持って行ってみるよ」


 1メートル程の高さで木の枝先に、小豆の様な粒がずらりと並んで付いたのが四方八方に出ていて結構な量が採れた。

 乾燥した実を潰すと仄かに甘い香りが漂ってくる。

 ヘルド達も試しにと2本分を採取し、売れて稼ぎが増えれば良いなと話し合っている。


 その日一度に沢山持って行き駄目だったら捨てるのも面倒なので、一握り程を冒険者ギルドに提出してみることにした。

 ヘルド達の薬草買い取りの後で、ハンカチにお菓子を包んだ程度の量を買い取り可能かどうかを知る為に出したのだが不可。

 不可というより香辛料だと言われても、知っている者が居ないので査定が出来ないと言われた。

 ヘルド達にはそのまま採取した薬草を売る様に言い、俺は薬師ギルドに出向き香辛料だと言って見せた。


 「おや、随分久し振りだね。今日は何を持ってきたんだい」


 「実は鑑定で香辛料と出たんだが、何か判らなくて冒険者ギルドでは扱ってないらしいんだ」


 「ふむ、これは・・・何処で採れたんだい」


 「森の奥だよ、西の門を出て森を二日ほど入った所、薬草を探していて見付けたんだ。鑑定装置では香辛料と出たんだが見たことが無かったからね」


 《おい、エディ》


 《黙ってろよ。後で説明するから》


 「高く買い取って貰えるなら、又行った時に集めて来るよ」


 「そうさね、まだ持っているかい」


 「いや、他の薬草を沢山持っていたから、其れは試しに持って帰ったんだ。買い取って貰えるのかな」


 「そうさねー・・・生乾きだからねー、乾燥していれば銀貨1ま・・・2枚出そうじゃないか」


 「その量でかい」


 「あー、此れね・・・此れの倍は欲しいね。此れの倍の量で銀貨2枚で買い取るよ。此れは乾燥してない生乾きだから・・・銅貨5枚だね」


 「乾燥してない生では使えないのかな」


 「あっ、ああ、つっ使えるよ。乾燥させればそれなりに売れるからね」


 見せた香辛料を売らず、もっと集めて乾燥させてから持って来るよと告げて店を出る。


 《裏が在りそうだな》


 《ああ、あの婆さんは渋ちんで有名なのさ。あの婆さんがあんな話し方をする時は、買い叩く時やボロ儲けの匂いを嗅いだ時なのさ》


 《あんな話し方って言っても、普通に話してたじゃないか》


 《返事の前や話の途中で変な間が在っただろう、あれがあの婆さんの癖なんだ。俺も冒険者を始めた頃に随分買い叩かれたからな。薬草の種類を覚えてからは、冒険者ギルドの方が高く買ってくれると判って行かなくなったな》


 《するとあの婆さんは、その香辛料に金の匂いを嗅いだって事か》


 《間違いないね。そもそも此の世界は料理が大して発達してないし、香辛料もそう多くない。推測だけど珍しい香辛料となれば、中世の頃の胡椒並みのお値段になると思うね》


 《確か金貨と同じ重さで取引された、とかなんとかだったな》


 《王侯貴族の食事がどの程度なのか知らないが、庶民の料理は大して発展している様に見えない。基本のさしすせそ、だったかな。此の世界にさしすせそは無いが、基本は塩と香味野菜等と辛いとかハーブ程度だろう》


 この香辛料が婆さんの見立て通りの値打ち物なら、知れ渡ったら一騒動起きるのは間違いない。

 フルンの周辺のみに生えているのか、広く分布しているのかも判らないが、フルンでは採取出来る。

 クロウと相談してヘッジホッグの持つ香辛料を引き取り、詳しい事は後ほど説明するが暫く採取をするなと言い含める事にした。


 家に帰るとヘルド達三人も帰っていたので、訳を話して全ての香辛料を引き取った。

 此れが売れた時は折半すると確約し、以後見付けても場所だけ覚えておいて採取はするなと念押ししておく。

 ヘルド達は俺に稼がせて貰っているから任せるよと、快く承諾してくれた。

 後は此の香辛料の価値を誰に尋ねるかが問題だ、王都に行きガーラン商会の会長にでも聞けば判るだろうが、フルンにはその様な人物が居ない。


 俺のフルンの知り合いで香辛料の価値が判るのは一人だけ、然し余り関わりたくない。

 香辛料の価値を知る為だけに、往復二ヶ月以上掛けて王都に行くのも躊躇われた。

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