第42話 返り討ち

 未だ9月、日差しがきつく丁度良いので日よけ代わりにフードを被ってギルドを出る。

 何時もの様にギルドを出て市場に向かうと、女性冒険者を含む一団とすれ違う寸前に背筋が凍る様な気配に身構えると、抜き打ちの一撃が襲って来た。

 鋭い一撃だが日頃の鍛錬と魔力を纏っての能力アップが幸いして、お財布ポーチからショートソードを抜き出し受け止める余裕は有った。

 周囲全てが敵らしく、駆け寄ってくる足音と鞘走る音が其処此処から聞こえる。


 集団に囲まれての戦闘などゴメンなので、即座にジャンプしてすれ違った集団の後ろに付き振り返ると、彼等も即座に振り返って包囲体制をとる。


 《随分訓練された集団だな》


 《暢気に解説してないで手伝えよ》


 《逃げないのか?》


 《ああ、此処でやる。以前の奴と毛色が違うので、別系統だと思うので逃げたら誰の指示か判らないからな。衆人環視の中で闘えば、何方が悪いか一目瞭然だ。それに敵の数は減らしたいのでね》


 クロウの呼びかけに力が抜けそうになるが、それでも剣を叩き付けてくる奴の剣を弾き、受け流しながら首を刎ね腕を斬りつける。

 ショートソードを作ってから、初めてまともな使い方をしている気がする。


 《クロウ、一人二人足を使えなくするので、屋根の上に運んでよ》


 《任せろ、後ろ!》


 クロウの声にジャンプして正面の奴の後ろに回り、振り返りながら太股を斬り付けて歩けなくする。

 ちょっと落ち着いたので目潰し攻撃を混ぜて反撃能力を奪い、目の見えない其奴を盾にしながら後頭部に峰打ちの一撃、そうやって三人程クロウに頼んで屋根に運んで貰う。


 後は目潰しで動けない奴を間に挟んでの攻防で、腕や足を斬り付け戦闘力を奪い逃げられないようにする。

 多少余裕が有る時は盾代わりにフレイムの火球を作り、身を守りながら闘う。

 首を斬った奴等の血飛沫で気持ちが悪いが、クリーンを使う余裕もない。


 何度も短距離ジャンプと目潰しを使って反撃したので、周囲は手足に深手を負った者と死んだ者が溢れていて動き難い。

 時々背中や腕に衝撃を受けるが、付与魔法の防刃と打撃防御が効いている様だ。

 これなくして集団相手に闘う気にはなれない。


 一旦距離をとり周囲を確認すると、冒険者ギルドに近く市場につながる道なので、冒険者と市民の野次馬に囲まれて騒然となっていた。

 然し奴等は逃げる気配がなく、猛然と襲い掛かってくるので遠慮無く斬り捨て数を減らす。


 笛の音が其処彼処で聞こえ近づいてくるので、時間切れを悟った奴等が一斉に切り込んでくるのをジャンプして躱し後ろから斬り付ける。


 〈どけどけどけ!!!〉

 〈何事だ!〉

 〈動くな!〉


 おーお、感嘆符の嵐だ。


 《逃げるか?》


 《いや印籠が有るので説明するよ。拘束する気なら逃げるけどな》


 《じゃー此の三人は街の外に連れて行き、歩けなくしておくからな。何時もの薬草採取の場所で待っている》


 残っていた奴等は、逃げようとして警備隊の兵達に取り押さえられている。

 血塗れの俺が恐いのか、警備の者は俺の周囲を取り囲んで躊躇っている。

 やっとクリーンが使えるので、綺麗にしてショートソードを仕舞うと、飛びかかって来ようとするので目潰しを浴びせる。


 「責任者は誰だ! 抵抗する気は無いが、話しも聞かずに取り押さえる気なら叩っ斬るからな。責任者を呼べ!」


 ちょっと腰が引けた男が進み出てきたので、印籠代わりの通行証を見せていきなり襲われたと告げる。

 俺の出した通行証を見て目を見開くが、いきなり敬礼などしないのでほっとする。

 周囲の者に現場の状況を聞けば判るので彼等に聞けと言い、それ以上は上司からカラカス宰相に報告して俺の事を確認しろと言っておく。


 〈凄えなぁ、見たかよ〉

 〈30人以上居るんじゃないか、よくあれで生きているよな〉

 〈おいおい、彼奴はブロンズで薬草採取専門の奴だぞ〉

 〈おれ、転移魔法なんて初めて見たぜ〉

 〈無茶苦茶強いじゃねえかよ〉

 〈さっき、薬草売ってた奴だろう〉

 〈転移魔法と火魔法を駆使してバッタバッタと斬り捨てるなんて、お伽噺の様だったぜ〉

 〈なんであんな大勢に襲われるんだ〉


 あー、明日からギルドに顔を出し辛いな。


 「あんた宰相閣下の身分証を持っていると聞いたが、もう一度見せてくれ」


 「あんたは?」


 「おお、この部隊の隊長のゲルドだ」


 身分証を差し出すと念入りに確認し、しまいには陽に翳しているので吹き出しそうになった。


 「さっきも言ったが、俺は襲われて反撃しただけだ。最初から見ていた者もいるはずなので彼等から聞いてくれ。俺の事はカラカス宰相に報告すれば判るだろう。これ以上は何も言えないのでな」


 散々転移魔法を見られているので、隠しても今更なのでジャンプしておさらばすることにした。

 現場を離れてクロウの下に急ぐ。

 何時もの薬草採取の場所にいくと、女を含む三人が両足を焼かれて呻いていた。


 * * * * * * *


 「宰相閣下、街の警備の者からエディなる男の問い合わせがきております」

 

 「エディとはあのエディの事か」


 「はい、宰相閣下発行の身分証を示したそうです」


 「それでどうした。何か有ったのか?」


 「冒険者ギルドの近くで大乱闘があった様で、死傷者多数との報告です。報告のエディが相手の様でして、冒険者ギルドから出て市場に向かう途中で襲われたと証言したそうで、その後突然姿が消えたそうです。目撃者の証言も概ねその様ですが、死者傷者が多数いるのでどう処理すれば良いのかと」


 「襲われたとは?」


 「目撃者の証言では、エディなる男がいきなり斬り付けられての乱闘で、その直後冒険者ギルドと周辺から集まった者を含めて、30人以上との闘いだった様です」


 「それで、エディは無事なのだな」


 「はい、駆けつけた警備の者に簡単に説明した後で、突然姿が消えたそうです」


 「ならそちらは良い。生きている者を死なせるな、聞きたい事が山程あるからな」


 なんとも嵐の様な男だと思いながら、国王陛下に報告すべく執務室を出て行った。


 * * * * * * *


 「死者傷者多数とな」


 「はい、そう報告が来ましたが、正確な数は未だ判っていません」


 「これは例の書状に書かれていた事に関係すると思われるな。捕らえた者を徹底的に調べろ」


 カラカス宰相は執務室に戻ると王都警備隊の責任者を呼び出して、冒険者ギルドの近くで起きた乱闘の詳しい報告を急がせた。

 続いての報告には死者21名、男17名,女4名で大火傷での死者が5名いる。

 重傷者は13名、男11名,女2名で、軽傷又は無傷の者15名捕獲とあり、総数49名と聞き、何をどうすれば此れ程の人数で一人を襲うのか理解に苦しんだ。


 無傷又は軽傷者の取り調べで判った事は、エディに一太刀でも浴びせれば金貨10枚深手を負わせれば金貨100枚の賞金が掛けられていた事。

 致命傷を与えるか殺した者には、金貨500枚の褒賞と聞いて目眩がした。


 誰がどうやってそれを見極めるのかと聞けば見届け人がいるとの事で、故に屋内での戦闘は禁止、見届け人が確認出来る場所で戦闘が始まってからしか手出し出来ない仕組みになっていた。

 理由は屋内で転移魔法を使って逃げられたら居場所が判らなくなる事。

 屋外なら転移魔法で逃げられても、周囲、特に後ろを確認すれば見付けられる筈だと聞いていたようだ。


 此処でカラカス宰相には疑問が生じた、襲わせた者は転移魔法を壁抜け程度のものと思っている節がある。

 彼の転移魔法は壁抜け程度のものではない、何処まで跳べるのかは不明だが常識の埒外にあるのは間違いない。

 それが証拠に、警備隊の面前から消えて行方が知れないのだから。


 * * * * * * *


 《おー、終わったか》


 「終わったかじゃねえよ。もう大変、魔法付与の服がなけりゃ何度死んでいた事やら」


 《生きて愚痴を言ってるんだから良いじゃねえか。それより此奴等の尋問を始めようぜ》


 「お前を恐れているが、何かしたのか」


 《目が覚めて逃げようとしたので両足を焼いたが、何故火が点くのか理解出来ない様なので、目の前に火球を出して見せたら怯えだした》


 「そりゃー、クロウを見て化け猫と思ったからだろうな」


 《失礼な奴だな!》


 目の前に火球を出したので、即座にウォーターで風呂桶一杯分の水を掛けて消してやった。

 誰が教えたと思っているんだ、対策くらいは考えているよ。


 「さてと、俺が居て生け捕りにされたら何を聞かれるのか判るよな。喋らなければ足をもう少し炙ってやるけど、どうする。お前達が喋る事は一つだけ、誰に命じられて俺を襲ったかだけだ」


 「悪いが俺が喋れるのはあんたを殺せば金貨500枚を貰えるって事だけだ。一太刀金貨10枚、深手を負わせれば金貨100枚に釣られて参加したが此の様だ」


 「私もだよ。女の冒険者ならあんたも油断するだろうって誘われたけど、とんだ疫病神だったよ。あんたの知りたい事は其奴が知ってると思うよ、私達を誘った側の人間だから」


 「くそっ! ペラペラと喋りやがって。此れだから賤民の冒険者は屑だって言われるんだ」


 「おーい、俺も冒険者だぜ、言葉遣いには気を付けろ」


 「お前が我が主を殺し、ゲイト伯爵家を破滅させたお陰で此の様だ!」


 「そりゃー大変だねー。屑が死んだのは俺のせいか、笑っちゃうね」


 「好きに笑っていろ。お前が殺した七家の家臣団が、お前を狙い地の果てまでも追い続けて必ず殺す!」


 「それは又、ご苦労な事で。ローザン・エイメル伯爵夫人は、お前達のパトロンってところかな」


 「ふん、お前の知らない世界の事だ。精々足掻いて死ね!」


 「まあー阿呆だねぇー、べらべら喋って。嘘も混ぜているのだろうが、エイメル伯爵夫人から直接聞くのでもう良いよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る