第41話 騒動の予感
《クロウ・・・不味った様だ》
《だな、後始末は任せるわ》
《俺一人にやらせるつもりかよ》
《猫が言い訳しても話が通じるとも思えんのだが。お前の隣でニャアニャア鳴いてやろうか》
《判ったよ、先にアイリの所に行ってな》
《例の印籠を見せれば簡単に終わるさ、じゃーなー》
俺を見捨て、尻尾を高く上げアイリの後を追いかけていきやがる。
「動くな!」
鉄棒を仕舞い天下御免の通行証を出して二人に見せる。
〈バッ〉て音のしそうな敬礼とともに謝罪を口にするが、脅したのは俺なんだから気まずい。
街の出入口から衛兵が多数駆けてくる。
アイリの後をつけていたのではなく、アイリを護衛していたのだった。
この街に住まう重要人物は直接護衛が付かなくても、外出する時には本人に気づかれずに護衛していると教えてくれた。
まるで格さん助さんみたいで格好いいと思ったのは内緒。
二人と駆けつけた衛兵に謝罪し警備を労いアイリの家に向かう。
《クロウ秘密の護衛だってさ。アイリも重要人物の一人だったの忘れていたよ》
「お帰りー」
「只今、元気にしてた。ていうかアイリのその服どうしたの」
メイドは生成りのエプロンドレスなのに、アイリは純白の重厚な生地で前後に綺麗な刺繍入りの上、胸には王家の紋章が入っている。
聞けば外出時に着ていれば王家に仕える者と判るのでむやみに絡んで来る者はいないので着ている様に渡されたって。
緊急時にも此の服でなら王城後宮何処に居ようと疑われる事はないそうだ。
勿論王家直属・一級治癒魔法師の制服も有り、儀典や王族に呼ばれた時には着用するように言われていると。
その夜はミルヌ土産の魚介類のスープに焼き魚煮魚等を食卓に並べ、アイリやメイドのサーミャとイリスも嬉しそうに食べていた。
何せ海は遙かに遠く物語の中の存在、そのお伽噺のような世界の食べ物を初めて食べ、美味しさに顔も綻ぶってものだ。
食後居間に移動し、次にガーラン商会に行ったら魔道具の店の事を聞き紹介状を書いて貰ってくれと頼む。
勿論ガーラン商会にもミルヌの土産として寸胴いっぱいの魚介のスープや煮魚焼き魚に魚の開きや干した物を多数持たせる。
魔道コンロやランプの存在は知っているが、他にどの様な魔道具が存在するのか興味がある。
夜クロウはアイリの部屋で胸に抱かれてお休み、俺は用意されていた俺の部屋で一人、賊から集めた金貨銀貨を選り分けて革袋に仕舞う味気ないお仕事に没頭する。
ブラバン侯爵の騎士団と名乗った集団から巻き上げた金は、金貨だけで300枚を超えていた。
俺の捜索資金と長期滞在費用も持っていたので大金になった様だ。
此の世界クレカもATMも無いので現金を持ち歩くから、少人数だと盗賊達の良い獲物だ。
後はエルドバー子爵の執務室から頂戴した貴族の紋章一覧から、エイメル伯爵の紋章を探し貴族街の地図でローザン・エイメル伯爵夫人の住まう場所の確認をする。
又貴族の屋敷で騒動が起きるが、俺のせいじゃないからねカラカス宰相さん。
《エディ、宰相に通告だけしとけよ》
「通告して邪魔される恐れは?」
《無いと思うな。事の経緯を知らせておけばいいさ。襲われたらやり返すのは当然の権利だと書いておけ》
表書きも何も無い書簡を用意し、イリスにカラカス宰相に渡しておいてくれと言って渡すと、イリスは黙って受け取り一礼してさがった。
書簡にはヘルズからジエットに向かう途中、28名の集団に襲われた事と襲って来たのは、元ブラバン侯爵の騎士団の者が殆どであったこと。
指示した者の名を聞いたが、事の真偽を確かめる為には屋敷で騒ぎが起きる恐れがあると書いておく。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その夜イリスは街の入り口に待機している護衛達の所に行き、預かった書状をカラカス宰相にと預けた。
書状は夜が明けると直ぐさまカラカス宰相の元に届けられたが、それを読んだ宰相は青くなり、国王陛下に報告する為後宮に急いだ。
「早朝からどうしたカラカス」
「陛下、また厄介事です」
差し出された書状を読んだ国王も唸るだけで何も言わなかった。
書状にはヘルズからジエットに向かう途中で襲われた事から始まり、襲撃者達は取り潰された貴族の騎士団の者で有ること。
襲撃を命じた者の名前は判っているが証拠は無い、始末は自分でつけるので手出し無用と記されている。
追記には貴族の伝で王城に奉公にあがる者達から、俺の情報が漏れていると思われるので、詳しい事は教えられないと書いてある。
「如何致しましょうか」
「如何も何も、教える気がない以上どうしようもない。相手が多すぎて特定すら出来ないぞ」
「これを送って来たと言う事はアイリの所にはもう居ないのでしょう。事が起きる迄待つしか無いと言う事ですか」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
アイリがガーラン商会から一通の書状を貰ってきてくれた。
表書きにはユルクス商会の名とガーランの名が記されている。
場所はガーラン商会から数ブロック離れた場所らしいので、王都から逃げ出す羽目になった時の為、先に魔道具を見に行く事にした。
〔ユルクス商会〕これも堂々とした建物だがガーラン商会に比べれば一段落ちる作りと大きさだ。
近づくとドアの外に屈強な男が出てきて立ち塞がり、黙って俺を見下ろしている。
猫入りのバッグを提げた冒険者の小僧が立ち入る店ではないと、無言の圧力が凄い。
黙って紹介状を差し出すと一瞥し、暫しお待ちをと言って店内にさがる。
再びドアが開き店内に招き入れられ、カウンター前の椅子を勧められる。
対応にでた女性は素早く俺を品定めし、丁寧な応対で何をお求めでしょうかと尋ねてくる。
魔道具として知っているのは魔道コンロと魔道ランプに付与魔法を掛けた服しか知らない。
どの様な魔道具が有るのか知らないが、草花や食物の鑑定が出来る物が有れば欲しいと伝えた。
「食物の鑑定ですと毒の有無を鑑定する物が御座います」
「見てのとおり冒険者をしていてね、薬草の見分けと野獣の肉が食べられるかどうかの鑑定が出来る物は無いの」
「植物の鑑定ですと、薬草か否かと果実などの食用の可否と香辛料の鑑別が出来る物が御座います。生肉と調理した食物の毒の有無を鑑定する道具をご使用になればあるいは・・・ただどちらの鑑定装置も、知られていない物や登録されていない物に対しての鑑定は不可能です」
「ではその二つの鑑定道具を見せてもらえるかな、少し試してみたいから」
出された鑑定道具は小さなフライパンが付いた物と、見た目まんまルーペと言った感じのものだがレンズが無い、柄の付いた輪だ。
一言断ってカウンター上に薬草袋を広げ、収納から各種薬草を採りだしルーペの輪に通すとグリーンのランプが点る。
女性の説明ではグリーンのランプ一つは薬草だが食用には不向き、グリーンランプ二つは食用可でレッドランプは毒草、オレンジランプが香辛料だと教えてくれた。
何も点灯しなければ役に立たない物か登録されていないので判別不能だそうだ。
食物の毒物判定はフライパンの所に食物を置くと、安全ならグリーン危険な物や毒ならレッドランプで判るそうだ。
試しにミルヌで仕入れた魚介を何種類か乗せてみたが、全てグリーンランプが点灯した。
ただし生魚や切り身はレッドランプが点灯したので、調理してもう一度乗せてみる必要がある。
薬草の毒判定された物を焼き魚の上に置くとレッドランプが点灯したので買う事にした。
女性は俺が生鮮食料の魚の切り身を取り出したので、びっくりしていたが何も言わなかった。
ヘラルドン王国では超高級食材で庶民は魚の切り身なんて知らないからね。
冒険者の小僧が取り出す物じゃない
どちらも金貨95枚と中々のお値段、金貨190枚を支払って店を出る。
これで薬草採取中に見付けた果物や葉が食用かどうか悩まなくて済む。
因みにランク12のマジックポーチのお値段を聞いたら金貨1,500枚、ランク8で金貨800枚程度ですと言われた。
お一つどうですかと言われたが、持っていると答えると然もありなんと頷いているので、魔法付与された俺の服の値段も判っているようだ。
アイリに暫く王都の外で薬草採取すると伝えてお別れ、クロウが嫌がったがエイメル伯爵夫人の刺客がアイリの周辺に現れたら不味いからと強引に連れ出した。
まったく、エロ親爺・・・エロ猫には手を焼くよ。
暫くはルーペ片手に薬草採取に励む、少し森にも入り見付けた果実は片っ端から鑑定ルーペで鑑定し食用可と出たら取り合えず味見。
中には強烈に不味い物もあって、食用可でも何か手を加えなければ食べられない物も有ると学習した。
クロウは俺の魔力吸収と、味見して美味しいと判っていいる物しか口にしない、俺は体のいい毒味役だ。
何度か冒険者ギルドに出入りしていると、冒険者だが出入りしている者を観察している奴がいるのに気づいた。
クロウに聞いても同じ感想だが、特定の者を探している風にも見えないと答える。
だがその後三回目に冒険者ギルドに薬草を売りに行くと、明らかに俺を注視している集団に気づいた。
《おいエディ、エイメル伯爵夫人って婆さんの手先みたいなのが大勢居るぞ》
《鑑定ルーペが面白くて後回しにしたが、先手を打たれたかな。此処で絡んでくる様には見えないから、王都の外に出た時が勝負だな》
《だな、だが油断はするなよ。即死したら多分治せないと思うからフードを被っておけ》
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