第30話 王家の目
腕試しの結果は直ぐに判った、冒険者ギルドの訓練場で行われた模擬戦は、何の役にも立たない結果となった。
その後エディが黒猫と共に薬草採取中盗賊に襲われ、反撃した闘いの報告は予想外の一言につきた。
イクセンとワロンを結ぶ街道から僅かに外れた場所で、盗賊に襲われたエディは火魔法の攻撃を受け吹き飛ばされたが、止めを刺しに向かった盗賊が逆襲を受け鏖(みなごろし)に為ったというものだった。
詳しい報告書には、ワロン周辺から金の為なら何でもする冒険者崩れを金で雇ったこと。
一人金貨二枚を渡し暗殺を依頼、標的はお財布ポーチとマジックポーチ持ちで相当の金を持っていると吹き込んだ。
火魔法使い2名を含む総勢11人の集団が薬草採取しているエディの前後から接近し、注意がそちらに向いている隙に横から火魔法で攻撃し倒した。
倒れたエディに止めを刺しに近づいた男達が、突然巨大な火球に包まれ始めたこと。
4人が火炙りになり悲鳴を上げて死んでいくのを見た残りの男達が逃げ出したが、二人は途中で火球に包まれて死亡した。
残り三人と魔法使いは別々の方向に逃げたが、転移魔法と思われる方法で追いつき手槍にて殺された。
近隣の農夫一家を装い偶然現場に通りかかった様に見せかけ、監視していた者がエディの状態を確認に向かったが、火魔法の攻撃で服や髪は焼け焦げていたが怪我をしている様子は無し。
淡々と死者をマジックポーチに収納すると、イクセンに戻って行った。
報告書を読んでますます判らなくなった、転移魔法が使えるのは確かの様だが火魔法は授かってなどいない。
何故火魔法が使えるのか、服と髪は焼け焦げているのに怪我が無いとなると治癒魔法も使える事になる。
国王と二人報告書を何度も読み、提出者を呼んで詳しく聞いたが判らない。
貴族の護衛集団の中に飛び込んでいく様な猛者だ、少数の冒険者では無理かと思い暫くは様子見をする事になった。
改めて黒猫を連れたエディなる人物には、如何なる手出しも無用と通達を出す事になった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
クロウと相談し一度王都に戻る事にしたが、街道沿いの草原を通り誰にも見られない様に王都に入る事にした。
陽も落ちてから王都に侵入しエルグの宿に向かい、クロウがジャンプしてアイリの部屋に跳ぶ。
クロウの合図を受けて俺もアイリの部屋に跳ぶ。
「エディ、どうしたの」
「頼みがあってな、俺達がアイリと居るところを誰にも知られたくないんだよ。俺達は王都には居ない筈なんだ」
「何か遣ったの?」
「それは知らない方が良いよ。ガーラン商会に行ったら、それとなく魔法攻撃を防御出来る服がないか、聞いておいて欲しいんだよ」
「どうしてそんな物がいるの」
「襲われたんだ、魔法の奇襲攻撃を受けて危うく死ぬところだった」
「未だ危ない事しているの」
「いや、もうしてないよ。イクセンの近くで薬草採取中に絡まれてな、相手をしている最中に横から魔法攻撃だよ。クロウが居たから治して貰えたけど、防げるものなら防ぎたいから」
「判った聞いておくわ、そんな物が有るのならお店と値段ね」
アイリが仕入れた情報では、特殊な生地に付与魔法を掛けた物が有るそうだが、お値段金貨200枚~300枚するって。
王都で誂えた服を着て教えられた店に行ったが、徒歩で行くような店じゃないね。
頭の天辺から足下まで見られ何とか通して貰えたが、何時もの格好なら店の前にすら立たせて貰えないだろう。
魔法を附与出来る生地だけて金貨120枚、魔法攻撃防御,防刃,打撃防御,体温調整機能を付けて金貨240枚だ。
見た目はごく普通の冒険者のスタイル、フード付きなので豪雨や吹雪きの中でも快適に過せると、店の者が強調してくれた。
序でにクロウの収まるバッグにブーツと手袋も購入して同時に魔法防御を付与してもらったので総額金貨310枚を支払った。
10日後の引き取りを約束して店を後にする。
《高っけえなー、ざっと日本円で3,100万だろう》
《えっ、案外安く出来たと思ったけどな。此の世界全て手作りだぞ、それに特殊な生地に魔法付与だ特注品は何処の世界でも高いと思うし。クロウの収まるバッグは、今ので良ければそうするけど魔法攻撃くらったら死ぬぞ》
《いやいや、俺もお高いやつが良いです。寝心地も良いんだろうな》
だれが担いでいると思ってんだか、寝心地の保証はないから自分好みしろと言っておく。
王都周辺の草原で薬草採取しながら出来上がりを待っていたある日、魔力放出して寝るのは良いが、俺の膝上へそ天で寝ている。
最近猫化が進み何かと俺の膝の上で寛いでいるクロウ、指摘すると座布団より座り心地か良いから座ってやっているのだと居直っている。
棚の指定席に運ぼうとして気がついた、結構毛の生えた腹の一部が僅かに盛り上がっている。
よーく見るとでべそ気味ながらへそ有るじゃねえか、へそねぇわって言ってたから蛙と同類かと思ったが猫又も哺乳類で安心した。
立ち上がって下を見たから毛が邪魔でへそが見えなかっただけのようだ。
そんなこんなで出来上がった服に着替え、市場で食料を仕入れ再び旅に出る。
イクセンの街はもう良いかとワロン街に向かったが、そのまま足を伸ばしホーヘンの冒険者ギルドに寄るも此処も余り雰囲気が良くない。
テルベに移動すると懐かしい顔に出会った。
「ようエディどうした」
「ゴルドさん、風神の皆さんお久し振りです。テルベで活動しているのですか」
「エディ、少しは大きくなったの?」
シュリエさんに頭をよしよしと撫でられてしまった。
それを言われると何とも言い難い、なにせ身長の事は余り考えない様にしている。
《エディ、綺麗な姉ちゃんか?》
《まぁ、クロウ好みではあるな》
〈にゃ~ぁぁ〉
わざとらしいクロウの鳴き声に即行で反応するシュリエさん。
シュリエさんに抱き上げられ頬ずりされてご満悦のクロウ、エロ親爺の欲望全開でゴロゴロ喉を鳴らしている。
《エロ親爺、正体を悟れらるなよ》
食堂で話し込んだが小声でお前何かやったのかと問われる。
「猫連れの小柄な男か少年を見かけたかと聞いて回ってる奴がいたからな。まさかお前が猫連れだとは知らなかったぜ」
「それって賞金でも付いているんですか」
「いや、そんな話ではなかったな」
「詳しくは話せませんが、フルンの領主エルドバー子爵関連で一悶着有りましてね。俺の事を聞かれたら、フルンでの知り合いだとだけ言って下さい」
「追われてるのか」
「まぁそこまではいってませんが、監視対象でしょうね。いざとなったら此の国を出ますので」
それ以上は詳しく話さず、軽くエールを飲んで別れる事にした。
クロウが名残惜しげで笑いそうになった、シュリエさんの胸は相当気に入った様だが諦めろ。
一つ収穫が在った、隣国ムラーデス王国は海に面しているらしい。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「陛下、新たな事実が判明しました。エディはアイリと申す少女と二人で王都に出てきています。そのアイリなる少女はエディの1才上で同じフルンの孤児院育ちです。あの供述書の内容から相当エルドバー子爵を恨んでいた節があります。しかもアイリは治癒魔法を授かっています、魔力高は・・・50ですな。しかし二人して王都に出て来る道中で知り合った男の頼みで、重病人を一人治療し全快させています」
「ではエディが怪我をした時、治療したのは彼女か」
「いえ、彼女は王都から一歩も出ていません。定宿にしている宿の者と、治療に出向くガーラン商会の会長からの証言です。毎日宿で寝ていますが外泊は治療に出向くガーラン商会だけです」
「ガーラン商会とは宝石商のガーラン商会のことか」
「はい、そのガーラン商会です。ガーランの妻女が重病にかかり明日をも知れぬ状態の時、多くの治癒魔法使いを呼び治療しましたが誰も治せず、諦めかけていた時彼女だけが治せたそうです。以来妻女が彼女をいたく気に入り治療を続け、今ではガーラン商会の専属の様な扱いです。3,4日に一度店のサロンでリフレッシュを行い、顧客のご婦人方からも目を掛けられ可愛がられているそうです」
「ではそのアイリは囮に使えるな」
「止めた方が宜しいかと思います」
「何故だ、同じ孤児院育ちで二人して王都に出て来る仲なんだろう」
「確かに〔エルグの宿〕と申す所を定宿にし相部屋ですが、エディは殆ど宿に来ていません。彼女を囮に使うなら、エディに連絡する必要があります。しかし彼が多くの貴族を死に至らしめた犯人だった場合、どうなると思います」
「・・・儂が火達磨になって死ぬのか、止めておこう。しかしそのアイリの治癒魔法の能力次第では王国に欲しいものだな」
「ガーラン商会の会長の申すにはアイリは初めての治療で患者が病気でない事を見抜いたそうです。いえ治せないと言ったそうですが、一緒にいたエディが治せない気持ち悪いと言うアイリの言葉から患者の身辺を調べろと進言しました。結果お茶と薬草と水から、毒草の煮汁が混ぜられているのが判ったそうです。毒を盛られているのが判るとは相当能力が高そうです」
「しかし魔力高50に間違いないのだろう」
「それもガーラン会長が尋ねたそうですが、瀕死のエディを助ける為に、碌に使えぬ治癒魔法を毎日毎日必死で使い続けたそうです。そうしたら普通に使える様になったと言ったようです。治癒魔法が使えるようになったら生活魔法までより強く使える様になり、リフレッシュを試したら使えたんだと」
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