第29話 不意打ち

 その夜はイクセンの街に入らず、草原にカプセルホテルを出して寝る事にした。

 後をつけてきている奴等はクロウが後ろから忍び寄りウォーターを頭から掛けて翻弄している隙にジャンプして振り切る。

 いきなり頭から水を被ってアワアワしている隙に消えるので、彼等には探しようがないだろう。


 手配が回っているのなら何処の街に行っても同じなので、イクセンの周辺で薬草採取して三日後に街に入った。

 先ず門衛に冒険者カードを見せると、微妙な顔になるが何も言われずに無事通過出来た。

 その間クロウは肩から提げたバッグの中で大人しくしている。

 蓋をしているから外からは見えないが、クロウからは覗き穴を通して外が確認出来る。


 《エディ、こそこそ言ってるけど逮捕する気は無さそうだな。この間の奴等が通報している筈なんだがなぁ》


 《だな、冒険者ギルドに寄って薬草の買い取り依頼をしてみるよ》


 イクセンの冒険者ギルドでは普通に薬草を買い取ってもらい、何の問題も無かったが冒険者達からは遠巻きにされてしまった。

 目立つ存在になると必ずそれが気に入らず、難癖をつけてくる輩が現れる。

 お決まりのコースと相成り訓練所で向かい合ったのは、蛇のような目付きの男と愉快な仲間達。


 イクセンの冒険者ギルドのギルマスは1対複数の模擬戦を認めず、ごねる蛇男達をギルド職員の猛者達で取り囲み1対1の対人戦にさせた。

 目立つのは嫌だが絡んで来る奴を容赦する気は無いので遠慮無く遣らせてもらった。


 蛇男がパーティーの下っ端を指名して俺に向かわせるが、魔力を纏って闘ううえに自己流とはいえ朝練を欠かさない俺の相手ではない。

 体育の授業で習った剣道の形と、箒を振り回して遊んだ棒術の真似事だったが、今では立派に役にたっている。

 二人を偶然を装って叩きのめしてから蛇男の目付きが変わり、仲間に耳打ちして策を授けてから俺に向かわせる。

 三人目の攻撃を躱しながら此れも偶然を装って足の骨を折ると一気にやる気を無くしたようだ。


 「ギルマス悪いけど、やる気を無くしたから此れで止めるわ」


 「ドーラン舐めた事を抜かすな。おのれ等はさっき俺に何と言ったか忘れたのか。止めるのは相手が同意して止めたいと言った時だけだ。逃げるならギルドが相手だ、冒険者登録抹消は覚悟しろ」


 ギルドの職員達もドーランと呼ばれた男ともう一人を取り囲み、逃がす気は無さそうだ。

 見物の冒険者達から失笑が漏れる。

 随分嫌われてるね、俺も売られた喧嘩は勝てそうな時だけ買う事にしているんだよ。

 

 四人目は中々の使い手だったが、未だ魔力を纏って素早い俺から見れば余裕で対処出来たがギリギリの勝負の様に見せかけて勝った。

 最後の本命蛇男だが直接向かい合うと鳥肌が立つ、恐いというより本物の蛇に睨まれた様な感じがする。

 こいつは相当性格が悪そうだ、闘う以上本気で一切の手抜き無しでやらねばヤバイ。


 短槍に見立てた棒を蛇男の正中線に合わせ下段に構え、開始の合図とともに掬い上げる様に鳩尾に突き入れるが、軽く弾かれそのまま踏み込んでくる。

 弾かれた棒を手首で回し横殴りに行くが身を沈め迫ってくる。

 馬鹿がもろに引っ掛かってやんの、空いた手に拳大のウォーターで作った水球を握り顔に投げつける。

 俺の手を離れた水球はその型を保てず、蛇男の顔で砕けびしょ濡れにする。

 意表を突かれ動きの止まった蛇男の手首に棒を振り下ろし、砕ける感触を確かめながら連続攻撃で足の膝関節に一撃を入れる。


 「おーし、勝負あり」


 〈はぁー、5人とも倒したぜ〉

 〈やるなあ、ドーラン相手に楽勝だぞ〉

 〈見れば新人みたいだけどなぁ〉

 〈見かけに騙されたんだろう。シルバーの二級かゴールドの一級かな〉

 〈さっき薬草売る時に見たらブロンズの1級だったぞ〉

 〈誰だよゴールド何て与太を言ってるのは〉


 「中々の腕だな、最後の水は何処から出したんだ」


 「唯の生活魔法ですよ。大した技じゃないです」


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 薬草採取中に街道を馬鹿話しながら通り過ぎた冒険者達が、街道から逸れたのは知っていた。


 《エディ、何か挟み撃ちになりそうだぞ》


 「前は五人か、後ろは何人だ」


 《四人だな。俺は少し離れるわ、頑張れよ》


 優しいお言葉を残してクロウは草叢に身を隠したが、俺はそうも行かないのでどう出るのか考えながら待つ。

 最近絡まれる事が多いよな、悪い事した覚えは無いが静かな冒険者生活の夢は望めないのかな。

 近づく男達の身なりは冒険者崩れのチンピラ丸出し、五人は獲物を見る目付きで俺をジロジロ見ている。


 「よう兄さん、稼いでる様だな。少し融通してくれよ」


 また単刀直入にせびりにきたよ。


 「どうした、野獣相手じゃ勝てないから宗旨替えして、冒険者相手に金を稼ぐ気か。襲うなら相手を見てからにしろ」


 〈うわーほざくねー〉

 〈俺達相手に一人で勝つ気だぜ〉

 〈自信過剰は身を滅ぼすよ〉


 「へえー、チンピラの癖に難しい言葉を知ってるんだね」


 〈野郎ぶち殺してやる〉


 月並みな台詞を吐いて五人が剣を抜いた、俺も短槍を取り出し構えた瞬間、目の前が真っ赤になって吹き飛ばされた。


 《エディ! 待ってろ直ぐに治してやるからな》


 〈ギャーアァァァ〉

 〈ウオォォォー熱い〉

 〈止めろ糞ッ、あづいぃぃぃ〉

 〈裏切っ・・・〉


 「あー、痛ってぇぇぇ。何処からの攻撃だ」


 《街道に居る二人組だな。彼奴等の方からの攻撃だ、動けるか》


 「ああ、クロウの治癒魔法のお陰で助かったよ、練習の成果だね」


 《おう、ゴブリン達には世話になったからな。ちょっと待ってな》


 〈ウワァァァァ止めてくれー〉


 五人組の一人が火だるまになり倒れると振り向いて逃げる四人を標的にフレイムを使うクロウ。


 〈ギャァーァァァ〉


 《あー、もう届かないなぁ》


 「後は俺が片付けるよ」


 逃げる三人の前にジャンプし、驚き動きの止まった奴を短槍で突き殺す。

 背を向けた男の背中を蹴り、倒れたところで首を突き終わり。

 街道にいた二人がイクセンの方に逃げているが、荷車を引いた農夫達がいる。

 ままよ何れ知られる事だ、逃がす気は無いので即ジャンプして後ろから突き殺す。


 二人の悲鳴を聞いて農夫が固まっているが構っていられない、死んだ二人をマジックポーチに収容する。


 「あんた大丈夫かね。酷い事になってるよ」


 「大丈夫だよ、早く帰った方が良いよ。騒ぎに為ったら面倒だろう」


 クロウが農夫の足下でウロウロしている。


 《おいエディ》


 《判ってるよ、農夫にしては綺麗すぎるしブーツも野良仕事をする様な物じゃないよな》


 《此奴等を締め上げて吐かせるか》


 《何を、ただの通りすがりと言って惚けるに決まってるだろ。そして農夫に乱暴したと言って俺達は拘束される、て筋書きかな》


 《それは考え過ぎだろうけど、此の襲撃の目的は何だ?》


 《まっそのうち判るさ。お片付けして次の街に行くか》


 《だな。ちょっと日焼けして男前になったと思ったけど、焼け跡が無いから代わり映えしねえな》


 《酷い居候だね。熱いし痛いし大変だったんだぞ》


 遠ざかる農夫に目をやりながらこれから先どうするか考える。

 ラノベなら魔法防御の服が有ったと思うが、本当にそんな物が有るのかどうかだ。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 イクセンの近くに猫を連れた少年が姿を現したとの報は、早馬にて王城にもたらされたが、カラカス宰相もヘラルドン国王ともにどう対処すべきか悩んでいた。

 猫を連れた小柄な男か少年の情報に一致するが、転移魔法と火魔法が使えるのか判らない。

 彼が犯人なら王都から離れているのであれば、残りの伯爵や子爵に対する襲撃をする気が無いと思われる。


 然しエルドバー子爵告発の書簡を軽く見た為の対応が、今回の騒動を引き起こしたのは間違いない。

 問題の貴族家当主の半数が既に死んでいる。

 彼等には王国の法をないがしろにした責を負ってもらう事にしなければ、再び騒動が持ち上がるだろ。


 然し貴族に公然と刃向かい7名の貴族を死に追いやっている、これを放置する訳にはいかないが何の証拠も無い。

 カラカス宰相と真剣に話し合ったが、彼を犯罪者として手配し追い立てる事は出来るが捕獲は先ず無理だろうの結論になった。

 不意打ちで殺す事は出来るだろうが、仲間か協力者の存在は無視できない。


 悶々としているところへ、元エルドバー子爵領フルンの冒険者ギルドから連絡がきた。

 猫を連れた少年の名は〔エディ〕17才、9月生まれ,人族3,エルフ1,魔力高20、授かった魔法は不明だが元パーティー仲間の話では、空間収納と転移魔法を授かっているらしい。

猫の名は〔クロウ〕森で拾ったらしいが、黒いテイルキャツトでエディに良く懐いてる。


 連絡を受けてまたまた混乱する事になった、ヘラルドン国王とカラカス宰相だった。

 魔力高20、とても魔法を使える魔力高でないし火魔法を授かっていない。

 ではソムラン伯爵邸をどうやって燃やしたのか、100名以上の武装集団を火だるまにして殺している。


 後日カラカス宰相は一つの策を部下に授けイクセンに向かわせた。


 「陛下イクセンの冒険者に金を掴ませ、黒猫を連れたエディなる人物の腕試しをする様に命じていますから、直ぐに結果がわかると思います」


 「我々の差し金だと気づかれる心配はないのか」


 「その心配は無いかと。腕試しを依頼した者と確認する者との接点は有りません」

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