第26話 公,侯爵三人

 アイリが服を作って貰った仕立屋に出向き、靴が隠れるギリギリの長さでローブを作り袖はポンチョ風の物で、腕を水平にすれば半円になる形にし人差し指の当たる所に輪をつけ指を通す作りにする。

 これで多少動いても手首すら見えないだろう、スカーフはムスリム風だが見えるのは眉より下、目のところだけで人相は判らない。

 アイリも満足そうで、これなら話をお受けしても良いと言っている。


 次の迎えの時に毎週3の日と5の日を、リフレッシュの為に奥様の所に通うと決めてきた。

 リフレッシュはサロンに遊びに来た奥様方の希望者に銀貨2枚で施す事にしたと嬉しそうに話している。

 まっ定職が出来て客は宝石商の奥様の友達なら、収入に不安は無いからな。


 俺達はクロウの魔法の練習に毎日王都の外に出て、転移魔法の習熟と魔力を纏っての行動だ。

 クロウの体長を計ってみたら、鼻先から尻までが約35センチに尻尾が約45センチだった。

 兄弟はクロウより1.5倍位大きかったし、親は兄弟の倍以上あったと言ったが小動物以外の戦闘は無理だろう。


 尻尾の大きさからテイルキャットと呼ばれるのも頷けるが、走る時や木登りしたり枝の先までひょいひょい行くときに、尻尾が重要な役割をしている様だ。

 一度木から飛び降りたが、手足を広げ尻尾を舵代わりにバランスをとって着地したのを見て、猫よりリスに近いと思ったが肉食なんだよな。

 牙も身体の割に立派だし魔力を纏って爪を出すと立派な凶器だ。


 転移魔法は俺と同じ200メートルジャンプ6回で魔力切れ、此れは先々魔力量が増えれば距離も回数も増えると思う。

 訓練の仕上げは治癒魔法の練習だが、俺が怪我をする訳にもいかないのでゴブリンに犠牲になってもらう。

 しかしゴブリンを傷付けるのは俺の仕事らしい、あんな汚い奴に爪を立てるとか噛みつくのは御免だと尻尾を振り振り言ってのける。

 仕方がないので、クロウにゴブリンの目の前にジャンプしフラッシュで目潰しさせ、俺が後から行き短槍で斬り付ける役目で妥協した。


 2,3度治すと血が流れすぎた為に、怪我が回復しても起き上がれ無くなるのでゴブリンだけでは足りなくなった。

 結果ホーンラビットからヘッジホッグに始まりフォレストボア、最後はエルクまで倒して治療の練習台になってもらった。

 その間2,3日に一度は冒険者ギルドに顔を出し、獲物を売り払うので結構顔が売れブロンズの一級に昇級してしまった。


 おまけに俺が稼ぐものだから、何処で獲物を調達しているのかと付いてきて、横取りしようとする奴等まで現れ結構面倒な事になった。

 結果又夕暮れ前に王都をで日暮れにジャンプして移動し、早朝から狩りをして昼頃には冒険者ギルドに出向く生活になった。

 5月になりクロウの魔法の練習も一段落したので王都を離れるつもりだが、その前に少し片付ける事がある。


 夜更けに貴族街のセレゾ・ヘラルドン公爵邸の屋根で一休み、クロウが覗きのお手伝いをしてくれるので今回は確認が楽だ。


 《エディ、此奴が問題の公爵だと思うが、護衛が6人も居るぞ》


 《そいつは大変だな》


 《もうエルドバー子爵から男女の提供を受ける事も無いのだから、放置すれば?》


 《まっ、俺がエディに転生したけじめだな。エルドバーが名を記した奴には死んでもらう。それが終わったら唯の冒険者として、のんべんだらりんと生きていくさ》


 《立身出世は、お前なら金を稼ぎ放題だぞ》


 《そんな面倒な事は御免だよ。んじゃ、そろそろ始めるか》


 一度クロウの居る下に降り、クロウの座る窓枠に掴まる様にジャンプ。

 危なく為ったらバックアップをお願いして室内に跳び込む。


 〈えっ〉

 〈何だ!〉


 驚いている隙にフラッシュを浴びせる、嫌な気配に振り向くとご立派な執務机の横に立つ男が、腰の剣を引き抜く所だった。

 ソファーを挟んで向かい合ったが眼前にフラッシュを浴びせ殺意を送る。

 〈ヒュン〉と振り抜かれた剣が空気を切り裂くが、首から上を包む様に火球を発現させる。

 おれってフレイムを焚き付けより、人の丸焼きに多用しているな。


 《ウオォォォアァァァ》


 あっという間に酸欠で悲鳴が途絶え倒れる。

 身なりから公爵と間違いないが確認だけはしておく。


 「セレゾ・ヘラルドン公爵、エルドバー子爵の件でお伺いしたが身に覚えが有るだろう」


 「貴様・・・転移魔法使いか。良い度胸だがお前の命も此れまでだな」


 背後の紐を引きながらほざいているが、それはお前も同じだと気付よ。

 即座にフラッシュを浴びせると跳び蹴りで倒し両腕に鉄棒を叩き付ける。

 ドアが激しく叩かれるが、公爵の襟首掴んで屋根にジャンプし周囲を見回す。

 屋敷内に護衛の者を配置しているが屋敷外は警備の者だけの様だ、両足も叩き折り用意の書簡を胸に差し込むと公爵の最後の散歩だ。

 一度貴族街の街路に降り出入口の衛兵達の所に向かう、両手足が不自然に曲がった男を担いだ俺が目の前に立つと身構える。


 「此の男はセレゾ・ヘラルドン公爵だ、胸に挿している書簡を王城に届けろ。おなじ書簡を王城の衛兵にも渡すから。知らぬ振りはするな」


 そう告げてからヘラルドン公爵の首をショートソードで掻き斬り、全力疾走で衛兵詰め所から逃げ出す。

 暗がりでジャンプして次の目的地オスト侯爵を目指す、肩にクロウが跳び乗ってくるが転移魔法を完璧に使いこなしている。


 《なかなか忙しい夜になりそうだな》


 《まったくだ、世に悪人の種は尽きまじって何処かで聞いたが、多すぎるよな》


 《相手から見れば、エディが極悪人だがな》


 《見解の相違だね。おっと此処だ、クロウ頼むよ》


 《お任せー》


 下調べは付いているのであっさりと消える。


 《エディ執務室には居ないな。ちょっと探すから待ってな・・・お食事中だがどうする》


 《他人の都合に付き合うつもりはないよ。こっちは急がしいからお食事は中断だな》


 一度執務室の近くに跳び、クロウの気配を探って跳ぶと一階の灯りの漏れる窓枠に座って尻尾を振っている。

 左右の壁際に二人ずつの護衛に、給仕のメイドが三人と食事をしている者が五人いる。

 壁際の護衛達にフラッシュを浴びせ、続けてびっくりしているメイド達にもフラッシュで目潰ししてから食堂内に跳ぶ。

 上座に洒落たリボンタイを豪華な宝石で留めた男が口元に肉を運んだ姿勢でフリーズしている。


 「カルス・オスト侯爵だな、エルドバー子爵の件でお前を迎えに来た」


 そう告げてフラッシュを浴びせると、片側で食事をしていた壮年の男が立ち上がり壁際に走る。

 壁に掛けた剣を掴むが、剣を掴んだ手を火球で包み込んでやる。

 悲鳴を上げる男を放置し、目が眩んで動けないオスト侯爵の両肩に鉄棒を打ち付け、抵抗不可能にして襟首を掴む。

 そのまま屋敷の外に跳び街路に出る、首を掻き斬り放置するが、胸にヘラルドン公爵と同じ書簡を差し込んでおく。

 本日の最後はナルゲン・ブラバン侯爵だ、さくさく殺って残業は無しにしたい。


 ナルゲン・ブラバン侯爵は、エルドバー子爵から贈られたであろう少女二人を、エロい格好で侍らせ優雅に酒を呑んでいる所を襲ったので楽だった。

 護衛はお楽しみの邪魔なので、ドアの外に待機させられていたから簡単だ。

 フラッシュを浴び悲鳴を上げた少女の声で、護衛が飛び込んできたが直径1メートルも有る火球に行く手を阻まれ、躊躇している間にブラバン侯爵を連れて庭に跳び出す。

 ブラバン侯爵の胸にも書簡を差し込み、喉を掻き斬って貴族街の街路に放置する。

 折角注文したショートソードの使用法が、間違っている気もするが目をつぶろう。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 貴族街出入口に詰める衛兵は、前回エルドバー子爵の件も有るので遺体には触れず即行で王城に駆けだしていた。

 王都警備隊詰め所に駆け込み警備責任者に事の顛末を告げる。

 その夜の王都警備隊責任者は災難だった、知らせを受け即行でカラカス宰相に連絡を入れると共に貴族街を封鎖させた。


 セレゾ・ヘラルドン公爵死亡の確認で大騒ぎの最中、警備を強化して貴族街を巡回していた別働隊から、貴族らしき男の遺体を発見したと報告がきた。

 しかもその男の遺体にも胸に書簡が差し込まれていたのだが、続けてもう一体の遺体発見の報に王都警備隊はパニック状態になった。


 カラカス宰相は王都警備隊から持ち込まれた三通の書簡を調べたが全て同一文面で王国高官三名の名とエルドバー子爵の名が書かれているだけだった。

 最初に貴族街警備の衛兵詰め所に持ち込まれたセレゾ・ヘラルドン公爵と言われる遺体と合わせれば、それが何を意味するかエルドバー子爵を告発した者は、王国が下した処分に不満を持ち自らそれを行い始めたのだ。

 書簡に書かれた高官三名の処分を誤れば、王城内で暗殺するぞとの警告と受け取った。


 また貴族街の警備を強化した部隊の者から、ヘラルドン公爵邸,オスト侯爵邸,ブラバン侯爵邸の三邸に、異変が起きている様だと連絡がきた。

 王城内に運び込まれた遺体の確認を行なったが、多くの貴族の顔を知る儀典係の者を呼び顔を改めさせた。

 結果はセレゾ・ヘラルドン公爵,カルス・オスト侯爵,ナルゲン・ブラバン侯爵に間違いないとの報告がきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る