第20話 テイルキャット

 急いで収納からスープを取り出して、皿に入れて差し出す。


 《兄ちゃん俺って猫舌なんや、熱すぎるわ》


 少し舐めて、文句を言ってくる。


 《それと生肉は無いのか。俺って野生種だからよ、こう血の滴るやつを魔力と共にがっつり食いたいのよ》


 文句の多い奴だが、言われてみればそうだよな。

 野生動物に調理済みの餌は・・・魔力と共にがっつりってガテン系かよお前は。


 「魔力と共にがっつりって何だよ。生肉にそんな魔力が有るのか」


 《おうよ、俺も猫に産まれて初めて知ったわ。あっ、それとな、俺ってテイルキャットって種族らしいから宜しくな。猫とちゃうぞ》


 お前自分で猫って言ってるじゃん。

 それに、テイルキャットて猫の事だろうが。


 《もう一つ、この首の紐を外してくれ》


 「自分で噛み切れよ。その鋭い牙は何の為だ」


 《あかんのや。この紐に魔法が掛けられているらしくてな、此処に連れてきた奴がそう言ってたわ》


 見てみると唯の革紐だけどなぁ、縛ってあるだけの様なので簡単に解けた。

 猫の手では解けなかったのかな。

 少し冷めたスープを、仕方なさそうに舐めている猫って態度だな。


 思い出した。ちょっと猫には待ってて貰い、表に出ると全員の衣服を剥ぎ取りやる事の無くなったヘルド達が暇そうにしていた。

 三人には中に入ってもらったが、又お財布ポーチが三つある。

 二つは持ち主が生きているので使用者登録を外させるつもりだが、手間を掛ける気が無いので速攻で焼かせてもらった。

 残りの一つは面倒事を避ける為に捨てる事にした。

 死んでいる奴をお財布ポーチに詰め、生き残りは手足の骨を折ってから周辺にバラバラに放置する。

 勿論道案内をしてくれた奴等も、お礼に足を折ってから遠くに捨てた。

 

 街まで連れて行き事情説明等してたら手間が掛かって金にならない。

 一人金貨2枚だが彼等が犯罪者だと証明するには、お財布ポーチの中の物を引き渡さなければならない。

 それならお財布ポーチと金を頂いた方が稼ぎになるし、ヘルド達も嬉しかろう。


 アジトの中に戻ると三人が猫を構っているが、奴は極めて迷惑そうな顔で撫で回されている。


 《おい、止めさせろよ!》


 「おいおい、其奴は俺の物だから気安く触るな。勝手な事をすると此処に置いて帰るぞ」


 渋々抱えていた猫を降ろすが、名残惜しげで笑いそうになる。

 三人には、黒狼の群れ6人と無敵の仲間達8人を街まで連行し警備隊に引き渡すと、一人頭金貨2枚合計金貨28枚貰えるが、4人で分けると一人頭金貨6枚と銀貨5枚だと説明する。


 しかし犯罪者だと証明するのには、お財布ポーチと中の物を全て差し出さなければならない。

 お財布ポーチは買えば金貨30枚、中の金を含めると阿呆らしくて割に合わないので、奴等は全て森に捨てたと告げる。

 痛い目に合わされたので何の同情も湧かないのか、うんうん頷いている。


 その上で各自にお財布ポーチを渡して、中に入っていた金を四人で山分けする。

 一人金貨6枚銀貨17枚銅貨と鉄貨は三人に全て渡したが、貴金属や剣等は換金すると俺達が盗賊と間違われるので捨てると告げて、帰る道中に捨てる事にする。

 猫は抱き上げられ撫でまわされて懲りたのか、俺の横に陣取って奴等を睨んでいる。

 これから街に向かっても中途半端な所で野営になるので、此処で一泊する事にする。


 出入口を頑丈に封鎖して、ヘルド達に見張りを頼み猫を連れてお出掛けだ。

 抱かれるのを嫌がったので肩に乗せて森に入るが、声を立てるなと注意しておく。

 生肉ね・・・誰が調達すると思ってんのかね此奴は、飯が食えると思ってご機嫌で尻尾を振っている。

 ごそごそしているヘッジホッグをみっけ、近くにジャンプして水球で包み溺死させる。


 《おい! おいってば、今何をした今のは何だ》


 「静かにしろよ、後でゆっくり説明してやるよ。生肉食いたいんだろ」


 その場で吊るして血抜きをして解体、お肉を渡すと心臓を寄越せと態度がでかい。

 心臓を満足そうに食べると内臓に齧りつく、お前ウニャウニャ言って子猫が餌を食べてる時にそっくりだぞ。

 満足して口周りを舐めているので、クリーンで綺麗にしてやりお肉は持ち帰り三人との夜食にまわす。


 《なっ、なっ、お前魔法が使えるのか? 今のはクリーンて生活魔法だよな》


 此奴も中二病患者じゃないだろうな、中二病なら森に放置だ。

 何で1人なのかと事情を聞くと、親が二回り大きい複数の別種の猫と争いになり負けて食われたと。

 兄弟5頭も食われたが、自分は一番小さく巣の奥に隠れていて助かった話した。

 然し、腹が減って餌を探しに出たが空腹で倒れていたところを、通りかかった男達に連れて来られたと。


 年齢は生後3ヶ月位じゃないかと思うが、猫に産まれたショックと身体が小さくおっぱいの争奪戦に負けてミルクも大して飲めないので、長生きできないだろうと考えていたと喋った。

 喋ったってより頭の中に語りかけてきた。

 森では生きて行けないので、俺の所に連れて行ってくれと言うので、街に連れて行く事にした。

 話せる猫なら退屈しないだろうと思ったから。


 * * * * * * *


 ゴブリンの洞窟と名付けた場所は、後々役に立つと思うので大きな石を抱えてジャンプを繰り返し、入り口を内外から封鎖して街に向かった。

 ヘルド、イクル、ヘンクの三人は、ご機嫌で歩いている。

 ウルグ達一家は、いきなり王国騎士団がやって来て拘束され、王都に連行された。


 子爵様に変わって代官が街の統治を始めたが、子爵家に勤めていた使用人の半数近くが解雇されてしまった。

 自分達は、家族の為にも稼がなきゃ為らないので冒険者をしていたが、昨日久し振りにヘッジホッグの肉を食べたと嬉しそうに話した。


 冒険者を続けるのならお財布ポーチは命綱になるので、腰袋の中に判らない様に仕込み家族にも話すなと言い聞かす。

 金貨銀貨だけで77万ダーラ有るので、当分は生活出来るだろう。

 街の出入りや冒険者ギルトでは、背負子を担いで出入りし誰にも悟られるなと言い含める。


 屑な冒険者に知られたら、俺がやった様にして取り上げられて死ぬぞと脅しておく。

 俺はいざとなったら逃げられるし闘えるので、知られても問題ないんだと言うと真剣な顔で頷いている。


 フルンの街に着く前に、俺の転移魔法の事は喋るなと再度釘を刺しておく。

 何れ知れ渡るだろうが、其れ迄は俺の武器として活用させてもらう。

 冒険者ギルドに顔を出してゴブリンキラー達を探すが見当たらない、暫く姿を見てないと聞いた。

 フルンの街で冒険者家業をして、ゴブリンキラー達が現れるのを待つ事にした。

 ヘルド、イクル、ヘンクの三人のパーティーに、暫く加えて貰う事にした。

 孤児院育ちで此の世界や普通の生活の事を碌に知らないので、彼等を手本にするつもりだ。

 パーティー名は〔ヘッジホッグ〕ホーンラビットよりお値段高めの美味しい奴から名前をいただいたそうだ。

 

 俺も暫くは街のホテル泊まりをする事にして、宿の主と交渉して猫込みで一晩銅貨4枚で話を付けた。

 ホテルで猫から話を聞いたが交通事故で死んだ事や親兄弟の事は覚えているが、余り良い思い出が無いようで詳しく話をしたがらなかった。

 享年29才南野高次だと名乗ったが必要無さそうだ。

 漆黒の身体なので黒,クロと名付けようとしたら犬猫の名前じゃねえかと嫌がられたので、クロウと3文字にした。

 呼びやすい名前は飼い主の特権だと押し切る。


 尻尾の先割れ二股は、普段きっちり閉じているのだが体力が落ちるとしまりが無くなり、開いて白い毛が見えるんだと教えてくれた。

 体力のバロメーターって何の役に立つのか尋ねてみたが、生まれて間もない俺が知る訳無いので聞くなと自慢げに言われたよ。

 親兄弟に尻尾が二つ有るのは見たことが無いので、どういう役割なのか知らないらしい。


 頭の中に響く声は親子の間では普通に使っていて、こんな物だと思っていたので知らないって。

 試しに俺にも頭の中で話しかけてくれと言われてやってみたら、普通に話せたから不思議。

 口に出せば人でも獣でも言ってる事は理解出来ると言ったが、話が通じる訳ではないのだそうだ。

 因みに、クロウは中二病患者ではなく、俺同様に多少ラノベの知識が有る程度だったので一安心。


 ヘルド達とは話が通じない様で二人して考えたが、共に日本人だからじゃねと考えるのを投げ捨てた。

 魔法がどうして使えるのかすら判らないのに考えても無駄、神様の領分は神様に任せておけとの結論になったからだ。

 困ったのはクロウの種族テイルキャットだが、拾った男がそう言っていただけで、何が出来るのかどんな種族なのかも親兄弟が死んでしまって判らないって。

 取り敢えず一人前に狩りが出来る様になる迄は、俺の所に居候する事になった。


 冒険者ギルドでテイルキャットの事を尋ねると、高価買い取りと教えてくれたが毛色によって買い取り価格に天地の差があると言われた。

 ゴールドにシルバーの斑模様、シルバーにゴールドの斑模様、ゴールド、シルバー、ホワイトとなりレッド、グレイ、ブラックとなると二束三文で、ホーンラビット2、3匹分のお値段が精々だと言われた。

 無敵の仲間達の男は、クロウが高値で売れると思って拾った様だ。

 

 残念だがクロウのお値段は最下位、ホーンラビットの方が食べられる分だけ重宝されるって事だった。

 それを聞いていたクロウは、俺は二束三文の値打ちしかないのかとプライドが傷ついた様だった。


 なにはともあれ、薬草採取や冒険者ギルドにも堂々と俺の後を付いてきて、疲れると俺の肩で休んでいる。

 四人と一匹の薬草採取にも慣れて、猫の臭覚聴覚を利用して匂いで薬草の場所を教えてくれたり、野獣の接近やホーンラビットの居場所を教えてくれるので助かっている。


 もっともそれは自分の食糧確保の意味も多分に含まれているのだが、それでも充分役に立つ。

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