第19話 猫又
「ヘルドにイクルとヘンク、久し振りだな。こんな変態パーティーに所属してるのか」
「エディさん何をやったの? 目が見えないんだけど」
「あーもう暫くしたら見える様になるので、安心しろ」
〈小僧何をした! 目が見えねえぞ〉
〈俺は腕が上がらないし肩が痛い〉
〈俺もだ小僧何をした!〉
煩いね、旧交を温めているんだから邪魔をするなよ。
頭を一発ずつ鉄棒で殴ったら〈ゴン〉ていい音がして血が出ているよ。
魔力を纏っているので、力加減を間違えると頭が陥没して死んじゃうね。
何しろ直径約2cm長さ70cm程ある鉄棒なので、魔力を纏っていないと振り回すのに苦労する代物だ。
こいつの輪にロープを通して振り回せば、ゴブリン程度ならぶっ飛ばして一巻の終わりになる武器だからな。
取り敢えず黒狼の群れの武器を全て剥ぎ取り、荷物も一纏めにして無礼組の連中に見張らせる。
黒狼の群れの荷物から食料を取り出し、無礼組のヘルド達に与えて見張りだけはしっかりやれと命じる。
「さてと、新しい奴隷が手に入ったとお喜びの所を悪いが、質問に答えて貰うよ」
「誰だお前は? ガキのようだが俺達黒狼の群れに逆らって無事な奴はいないぞ」
「じゃー、俺が最初の奴になるな。お前達は此奴等を何処に連れて行くつもりだったんだ。以前には、孤児院を出て冒険者になった奴をこき使っていたよな」
フラッシュの効果が切れてきたのか、目を細め俺の顔を確かめる様に睨んでくる。
「聞こえてる? 俺が言った事が判らないのなら、判る様にするけど」
「お前、それを聞いてどうする気だ。余計な事を知ると長生き出来ないぞ」
「えー、俺ってエルフの血が入っているので、長生きだって言われてるんだけどねぇ。それより、孤児院を出て冒険者になった者をどうしたんだ。答えなきゃ痛い目に合った挙げ句に、冒険者が出来なくなってスラム落ちだよ」
誰も返事をせずに黙って睨んでくるだけなので、ちとお仕置きをする事にした。
鉄棒が良く見える様にして振り回し、折れてない方の鎖骨に振り下ろす。
〈ドスッ〉て音がすると〈ウグッ〉て言って脂汗を流している。
全員の鎖骨を折ったので剣を振り回す事は出来ないだろう。
尋問しても答えないなら、風神の皆さんがやった様に身ぐるみ剥いで森に放置するかな。
「質問に答えてくれなければ、裸にして森に放置するけどどうする」
誰も返事をせずに無言で睨み付けてくるだけなので、ヘルド達に命じて衣服を剥ぎ取らせた。
無事な足で蹴りつけてくる奴の足を思いっきり殴りつけてへし折ると、全然手加減せずにやるので残りの奴は大人しく服を剥ぎ取られる。
お財布ポーチ持ちが二人、使用者登録を外すようにお願いしたが軽く拒否された。
では炙り金タマといきますか、奴等に良く見える様にソフトボール大のフレイムを股間にプレゼントする。
〈ギャーァァァ、・・・めろ、・・めてくれ熱い〉
「えー、使用者登録を外してくれるなら止めるけど。どうする?」
「外します、外すから止めてくれ。お願いだ!」
いやー素直だねぇ、最初からそうだと熱い思いをしなくて済むのに。
もう一人の奴を見ると、股間の物が俺の物より小さくなっているではないか。
その巨体にしては貧しすぎるだろう、女にもてないぞ。
大丈夫かな、使い物にならなくなったら困るよな。
奴の物を見てにっこり笑ったら、即座に使用者登録を外しますと答えてくれた。
手間が省けてさくさく話が出来る様になり、孤児院を出て冒険者になった奴は、討伐中に野獣の反撃を受けて死んだって言いやがる。
筋肉ダルマの連中と、同じ様な事をしていたのは知っているんだよ。
後はヘルド達を何処に連れていく予定だったのか聞くと、後半日程歩いた所にアジトがあると教えてくれた。
そこは元々ゴブリンが住み着いていた所だが、長年放置されていたのをアジトに利用していると話した。
攫ってきた女子供や冒険者を一時閉じ込めておいたり、仲間達の塒に利用していると、筋肉ダルマ以外にも後二つ別のパーティーが利用しているって。
筋肉ダルマ達が姿を消したので注意していたが、変化がないので又利用しているとさ。
後二つのパーティー名は〔ゴブリンキラー〕6人組と〔無敵の仲間達〕7人組のふざけた名前だった。
此処に来るまでの話し振りからそんな事だろうと思ったので、後は夜明けをまって足が無事な奴に案内させる事にする。
振り返ると、ヘルド達は俺の遣る事を見ていて、飯を食べる途中でフリーズして腰が引け気味になっている。
お財布ポーチの中は筋肉ダルマと同様で、様々な剣や洋服に宝石が出てきたし金も結構持っていた。
お財布ポーチと金は無礼組の三人にやれば良いが、宝石や剣等を持たせて変な所で売り問題になると困る。
黒狼の群れは有罪だがフルンの街に連れて行っても後が面倒だし、金貨12枚にしかならない。
それなら金を取り上げ森で始末した方が簡単で楽だ、宝石や剣と服等は森の中に捨てる事にする。
色々考えていると腹がふくれて昼の疲れからか、三人とも船を漕いでいるのでそのまま寝かせた。
空が薄明るくなった頃全員に猿轡と目隠しをして、足の折れている奴を転移魔法を使って捨てに行く。
余り遠くには行けないが、獣道から外れれば冒険者に発見される事は先ず無いだろう。
俺は親切なので、放置する前に両足のアキレス腱をプッツンしておいた。
「今まで散々他人を食い物にしてきたんだ、最後は野獣の餌になって死ね!」
蒼白の顔で俺を睨むが何の感情も湧かない、俺も此の世界に転生して相当冷酷になったよ。
よく寝ているヘルド達を起こして朝食を済ませると、このまま三人でフルンの街まで帰れるかと尋ねたが、泣きそうな顔で無理だと言われた。
仕方が無いので黒狼の群れ達のアジトに行くが、お前達の面倒までみきれないので、それを承知なら付いてこいといっておく。
フルンまで三人で帰るか、此処に残って死ぬか俺に付いてくるかの三択だ。
目隠しをして転がしていた奴等の目隠しを外し、アジトまで案内しろと歩かせる。
パンツ一枚でブーツも取り上げているので歩き辛そうだが、逃がす気はないので都合が良い。
タマタマを火炙りした奴が途中で座り込み動こうとしないので、髪の毛掴んでジャンプして捨ててくる。
戻ると皆が目を丸くして俺を見ているが、ヘルド達にはペラペラ喋ると裸で森に放置するので、相応の覚悟をして喋れと脅しておいた。
三人とも、黙ってコクコク頷いている良い子達。
消えた仲間がどうなったのか理解した残りの4人は実に素直にアジト迄案内してくれた。
素直過ぎて見張りに見える位置に誘導してくれたので、お礼に足を切り付けて放置する。
何せ元はゴブリンの巣だった洞窟だ、狭い出入口から8人も出て来るんだもん。
三人には適当に隠れていろと言いおき、俺は転移とフラッシュを武器に死闘という運動会を始めた。
抜き身の剣を片手に走り寄る奴にフラッシュを浴びせると、目が見えなくて急停止。
其奴を避けようとする男の腹を、槍で突き倒す。
魔力を纏っての戦闘は、相手がちょいスローモーション気味に感じる程度なんだが、相手は俺の動きに相当戸惑っている様だ。
乱戦では常に相手と自分の間に障害物を置いて闘うんだとの、中二病の言葉を実践して為るほどなと感心する。
7人+見張りの8人で、生存者6人だがまともに喋れそうなのは2人だけ。
アジトからは誰も出てこないので、もういないと思うが尋問して確認する。
聞いた話と人数が合わないが、無敵の仲間達に最近加わったそうだ。
ゴブリンキラーはどうしたと聞くと、最近見ていないと嘯くが裏がありそうだ。
周囲の草や若葉を集めて縛り中心に火を点けて、洞窟内に放り込み暫く見物する。
音沙汰無しなので中に入って確認、表の9人の身ぐるみ剥いでおけと三人に言いつけ慎重に穴の中に入る。
元がゴブリンの巣にしては意外と天井が高く広いが上部に亀裂が有り灯りが差し込んでいる。
気配察知に何かが引っかかるが、ホーンラビットより小さい感じだ。
表の奴等が寝床にしていたと思われる所の近くで、毛皮の上に小さな毛玉を発見、首に革紐が括られている。
何処の世界にも毛玉好きはいるのかと少しほっこりしたが、ちょっと雰囲気が違うなと思う。
傍らに置かれた餌入れの中は空で、乾いた食べ滓がこびり付いている。
ネコもぐったりしていて俺の存在に気づいていない、違和感の正体に気づいたのは尻尾の先が白かったからだ。
身体に似合わぬ長く太い尻尾の先端が二つに分れている。
「猫又やん」
思わず日本の妖怪猫又を思い出して、言葉が漏れた。
《誰や・・・猫又って》
「はれっ、頭の中で声がするけど」
《俺を猫又って呼んだのはお前か》
毛玉が顔だけを俺に向けて見ているが、声が頭に響く。
「・・・魔法の世界にも驚いたが、猫又がいて挙げ句頭の中に日本語で話しかけてくるか」
《お前! 日本語って・・・お前も日本人か?》
ん、お前も日本人かて事は、この猫又は日本人の転生者? 転生猫か?
「日本語が通じる様だが、お前もって事はお前も日本人って事だよな」
《そうだ、何の因果か目覚めたら猫の身体になっていた》
がばっと起き上がり、頭の中に声を響かせてドサリと横になってしまった。
《腹減った。何か飯くれや兄ちゃん》
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