第18話 アイアン二級
人の気配が引いて行くが、逃げ遅れたのかよたよたしている奴がいる。
其奴の後ろに回って蹴り飛ばすと〈キャァー〉て・・・んんん女? 腕を捻じあげ縛って連行する。
血飛沫を浴びたのと恐かったので、ちびったかも知れないのでクリーンで綺麗にしてから皆の所に戻る。
キャンプ地に戻ると護衛の冒険者達が物陰に隠れて様子を窺っている。
「何やってんの、賊は逃げたよ。此奴はお土産だ」
皆の前に蹴り出すと、頭から地面に突っ込んで呻いている。
「あんた何やってんだ。盗賊だ隠れろ!」
「だから賊は逃げたって言ってるだろう。間抜けな事を言ってないで、皆の安全を確認しなよ」
俺の声を聞いて物陰に隠れていた乗客や、馬車の下から御者のおっちゃんが這い出してきた。
「助かったの? 盗賊はどうしたの」
「逃げたよ、逃げ遅れた此奴と後は其処らに10人くらい転がっているはずだよ」
「本当かよ、10人以上居たよな。あんたそいつ等と遣り合っていたのか」
「嘘だろう。お前アイアンの二級って言ってたよな。アイアン程度で野盗と闘える訳がない。嘘もほどほどにしとけ」
「信用してないのに、何故のこのこ出てきてくっちゃべってるの」
「なああんた、此奴も野盗の一人なのか」
「ああ、逃げ遅れた奴だが此奴は女だ」
「女・・・女が盗賊の仲間ってことか」
「野郎、此奴のせいで仲間が死んだんだ」
女と聞いていきなり元気になり、倒れて呻いているのに蹴り出した。
「止めろ! お前にそんな権利は無い。物陰に隠れて震えていたんだろ、俺の獲物に手を出すな」
「ガキが偉そうに抜かすな。此奴は俺達が焼きを入れてやる!」
倒れて呻く女の襟を掴んで引き起こし殴りつける。
敵が居なくなったら強くなる奴に腹が立ち、俺も其奴の腹を思いっきり蹴りつけた。
「何をしやがる!」
「それは俺の台詞だ、俺の獲物だと言ったのが聞こえなかったのか。やる気なら相手をするが、命の保証はないぞ」
そう言って、もう一度其奴の腹を蹴り飛ばしてやった。
正面から蹴っているのに身構える事すらできずに蹴り飛ばされ、腹を抱えて呻いているが自分が勝てない相手と解ったようだ。
それ以後何も言わず横を向いて拗ねていた。
夜明けを待って倒した相手を探しだし、死んでいる奴等をマジックポーチに放り込んでいく。
瀕死の奴もいたが、どうせ直ぐに死ぬのだから止めを刺してマジックポーチ行きとなる。
俺の話を半信半疑で聞いていた者達がついてきていたが、其処此処に転がる死体を見て吐き出したりして大変だった。
捕らえた女は、グルサンの街からヘルトの町まで乗り込んで来た女で、俺の事をしきりに探っていた奴だった。
だから「余計な事に手を出すと大火傷を負う事になる」と忠告して遣ったのにな。
「あんた此の女を知っているのか」
「グルサンの街からヘルトまで同じ馬車に乗り合わせた中だよ。俺が身軽な格好なのでマジックポーチ持ちと睨んで、しきりに探りを入れてきていたよ」
「それじゃ俺達は、狙われたあんたの巻き添えを食らったのか。どうしてくれるんだよ」
「阿呆かよ。護衛なのに見張りも立てず、のんびり焚き火を囲んで馬鹿話していて死んだんだ。自分達の間抜けさを呪うんだな」
俺がそう言うとばつが悪そうに横を向くが、御者のおっちゃんが護衛達を睨み付けている。
もう気楽な護衛の仕事は首だな。
次の町ナミルの警備兵に、女と盗賊の死体9体を引き渡したり事情を説明したりして1日潰れた。
盗賊10人分金貨20枚を貰い、死んだ護衛を間抜けな冒険者達に引き渡して次の馬車を探す。
* * * * * * *
フルンの街に帰り着いたのは夏真っ盛り、糞熱い中入門待ちの列に並ぶ人達の話を聞いていると、エルドバー子爵失脚の話で盛り上がっていた。
まあ、ランセン神父の供述調書を見れば、処分しない訳にはいかないだろうから当然だな。
最低でも神父に供述書を書かせて取り上げた俺と、それ以外にどれ程の人の目に触れているのか判らない。
それを無視すれば、どんな噂が流れるのか火を見るよりも明らかだ。
供述書を渡した人物も、子爵の処分を望むから渡したと推測するのは容易い。
俺は冒険者ギルドに直行して、食堂でエールを飲みながら冒険者達の話に耳を傾ける。
フルンには王都から王国騎士団と代官がやって来て、エルドバー子爵の血縁者全てを王都に連行していった様だ。
しかし冒険者ギルド内に変化は無かった様で、がっかりした。
まあ、エルドバー子爵関係だけでも大捕物に為るはずなので、末端までは中々手が回らないって事だろう。
それならば、俺が陰ながらお手伝いさせていただこう。
今日から又素朴な新人冒険者として、フルンで薬草採取に励むとするか。
不味いエールのグラスを返しに行きかけた所、無礼組の三人が依頼掲示板の所に居るのが見えた。
鴨発見♪、急いで無礼組に近づくと既に先客がいる。
素知らぬ顔で無礼組から見えない位置に陣取り聞き耳を立てる。
〈何ー、俺達とは遣れないってか〉
〈お前等の貴族のお坊ちゃまは、王都に連行されて居ないんだろ〉
〈新人の癖に大きな顔をしていたが、後ろ盾が無くなったら危険だぞ〉
〈いえ、私達は大きな顔などした事は御座いません。此れからも三人で遣りますので結構です〉
〈ほーう、中々良い度胸だな。それ相応の覚悟は出来ているのか〉
〈潰しがいが在りそうだな〉
〈ちょっと表で話し合おうか〉
あららら、カウンターから見えない様にヘルドにナイフを突きつけてるよ。
五人の仲間は三人を取り囲んで逃げられない様にしているし、筋肉ダルマと似た様な性格らしい。
依頼票を一枚取り薬草買い取りカウンターに持って行く。
収納から紫汁草の根を20個と紫葉の花六個を出して買い取りを依頼する。
ヘルド達はギルドから外に連れ出されて行くが、俺は無関係を装い見て見ぬ振りをする。
紫汁草の根と紫葉の花で併せて銅貨17枚の買い取り、査定用紙を貰って精算して貰い冒険者ギルドを後にする。
ヘルド達三人が荷物を担がされて、街の出入り口に向かっているのが遠くに見える。
まあーなんて事でしょう、俺の時と手口がそっくりで笑いそうになってしまった。
おれも薬草採取しなきゃ飯が食えないので、街の出入口に向かう事にする。
新人冒険者は辛いねー♪
〈おらっ、よたよたするな! もっと腰を入れて持て〉
〈冒険者の事を一からきっちり仕込んで遣るから覚悟しろ〉
〈まあ三月持つかな〉
馬鹿笑いをしながら、衛兵にカードを示して街を出ていく。
俺は冒険者カードに銀貨を載せて衛兵に渡し、さっきの馬鹿笑いをしていた冒険者のパーティー名を尋ねた。
〔黒狼の群れ〕ってお似合いのパーティー名を嫌そうな顔で教えてくれたが、奴等には気をつけろと親切に言ってくれた。
遠くを歩く無礼組の三人と黒狼の群れ、時々蹴られてよろけているが冒険者って辛いお仕事だよね。
やっぱり俺はソロの方がいいや、でも冒険者のお仕事を一から仕込むって興味が有るので見学していこう。
ヘルド達三人が逃げられないように、常に二人が後ろに付き森の奥に向かっている。
俺は周囲に気を配りながら遠くの木の上から見物しているが、どうも目的地が有る様だ。
彼等の歩く所は、下草が踏み荒らされて獣道のようになっている。
街に近いのでそれは当然だろうけど、彼等から時々聞こえる話からどうも森の奥にアジトが有るようだ。
野獣や薬草を探すでもなく森の奥へ奥へと進み、陽が傾き始める前に野営地に着いたようだ。
だがアジトでは無いようで、焚き火を囲んで馬鹿話をしながら飯を食っている。
荷運びをさせられ腹が減っているのだろう、しきりに唾をのみ彼等が飯を食っているのを見ているヘルド達。
気に入らない、孤児院での貧しい食事や冒険者になり、奴隷のようにこき使われ殺された子達の事が思い浮かぶ。
陽が暮れたら、好き放題してきた事を後悔させてやる。
ヘルド達に見張りを命じて自分達は寝る準備を始めたが、二人は逃がさない為か寝る気配がない。
もっともヘルド達は荷物の全てを奪われ、ブーツも脱がされていて逃げるに逃げられない状態で中々用心深い。
四人が横になり寝ようとしているのを見計らいヘルド達の後ろにジャンプする。
「おいおっさん達、随分勝手気ままな事をしているな」
バッて音がする様に跳ね起きたのは、流石は腐っても冒険者だけの事はあると褒めてやりたいな。
「誰だ、てめえは」
「誰だと言われて名乗ると思う?」
「エディさん」
此の馬鹿! 俺が格好良く決めてるのに、空気を読め!!!
全員俺を注視しているので強烈なフラッシュを一発お見舞いして、黒狼の群れ六人の鎖骨に鉄棒の一撃を入れていく。
剣の束に手を掛けている奴には手首にも打ち込み、完璧に腕をへし折ってあげる。
序でに向う脛を折れない程度に一発ずつおまけして殴り、歩けなくしてから無礼組の奴等に向き直る。
フラッシュの目潰しが完璧に決まっているので、何も見えないのか目をゴシゴシこすっている。
俺の必殺技だが夜でないと決められないのが難点だな。
昼にも使えるが至近距離でないと無理なので、要改良と心に留めておこう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます