第16話 王都騎士団
再び考え込んだヘラルドン国王は、もう一枚の紙を読み決断する。
証言者の氏名と供述書が欲しければ以下の指示に従え、と書かれた紙には供述調書の受け渡し方法が書かれている、此れは無視できない。
「カラカス、王都騎士団200名をを招集しろ、王都警備隊も200名だ。集まり次第近衛騎士団はエルドバー子爵邸に出向き、火事騒ぎの調査名目で邸内に押し入れ! 警備隊は万が一に備え周辺警護だ。子爵には火事騒ぎの説明をさせろ、その間に使用人から問題の地下室に案内させて捜索しろ。何も無ければよし・・・問題が有るなら屋敷の者全てを拘束して報告せよ」
カラカス宰相は一礼して下がり、王都騎士団と王都警備隊に国王陛下の命令を伝える。
* * * * * * *
火事騒ぎが漸く収まりエルドバー子爵が執務室に戻ると、護衛騎士の二人が倒れていてニラガの姿が無い。
火事騒ぎは、室内に大量の湿った草が山積みされていて、それに火を付けたものだった。
その間に護衛騎士二人が倒されていて、ニラガの姿が消えていた。
何者かが邸内に進入していると判断して、護衛騎士や警備の者を呼び寄せ邸内の捜索を命じた。
火事騒ぎの最中とはいえ、人一人連れて屋敷を出て行けば目立つしそんな騒ぎは起きていない。
なら邸内に潜んで入るはずだと判断して、ニラガを探して屋敷内を大々的に捜索している時に王都騎士団が邸内に押し入ってきた。
「エルドバー子爵殿は居られるか。国王陛下の命である、この火事騒ぎの説明を聞きたい」
そう言って王都騎士団の隊長が一枚の紙を提示する。
国王陛下とカラカス宰相の署名入り命令書だ。
此れに逆らう訳にはいかないので、渋々執務室に案内するが護衛騎士が倒れている。
王都騎士団隊長の目がきつくなる。
「これは又何事ですか? 火事騒ぎ以外にも何か在りましたか」
エルドバー子爵のしどろもどろの説明を聞きながら、王都騎士団の隊長は話を長引かせ徹底的に地下室と屋敷を捜索する必要があると考えていた。
一方部下の副隊長は指示に従い使用人を呼び出したが、ニラガを探して邸内に散らばる使用人を一纏めにすることから仕事が始まった。
「執事はいるか?」
呼び出された執事が前に出る。
「国王陛下の命により火事騒ぎの捜索にきた、一応屋敷全てを確認するので案内しろ」
そう告げられて、執事は玄関ホールに集められた使用人の一人に案内させようとしたが「お前が案内しろ!」と怒鳴られた。
怒鳴られて一瞬むっとしたが、次の言葉に凍り付いた。
「先ず地下室に案内してもらおうか、何処だ! ん、何処ださっさと案内しろ!」
真っ青になる執事を見て此れは指示通り何か在ると確信した副隊長は、10人で捜索する予定を変更し30人を連れて地下室へ向かう事にした。
執事の案内で地下室を捜索する手筈だが、先ず執事と二人で見て回る。
食料庫、酒蔵、頑丈な鉄格子の奥に扉があり此の鉄格子の奥は何だと問えば、金庫室で鍵は子爵様しか持っていないと答えが帰ってきた。
金庫室の隣は空き部屋で、通り過ぎて違和感に振り向くが何か判らない。
その奥は頑丈な扉で開けると地下牢が有ったが黴の饐えた匂いが堪らない。
10名に通路や壁を調べさせるが、執事の観察を命じていた者が空き部屋を気にしていると耳元で囁く。
空き部屋の前で止まりランプでなく生活魔法の上手い者を集めて、ライトで隅々まで照らせと命じ壁や床をじっくりと観察する。
「お前、此の部屋は何だ。知らないとは言わせないぞ」
「以前は使用していましたが、現在は空き部屋で御座います」
「ほう、そうか。では床を見ろ埃がけっこう積もっているが、斜めに壁際まで綺麗なのはなぜだ」
真っ青な顔で震える執事に、優しく囁く。
「この地下室の事は垂れ込みがあってな。だいたいの事は判っているのだ、隠すと同罪と見なすぞ」
「開けろ!」
一喝されて震える手で壁のレンガを一枚抜くと鍵穴が見える、執事が鍵を開けようとするが手が震えて鍵が差し込めない。
執事を押しのけて鍵を回すと、壁が僅かに後ろに動いた。
壁を押すと嫌な音を立てて壁が扉の様に開いたが、薄暗いランプが灯り多数の人の気配がする。
多数のライトに浮かび上がったのは成人前後の男女が10数人、中には縛られて傷だらけの者もいる。
副隊長は部下に執事を見張らせて即座に騎士団長の下に走る。
エルドバー子爵の執務室に駆け込み、騎士団長に声を掛けて頷く。
「構わん、何を見付けたか言え」
「地下室の隠し部屋から成人前後の男女10数名、中には縛られて傷だらけの者もいます」
副隊長の話を聞き部下に頷くと、騎士団長のお供の者達が一斉に抜刀し剣先機をエルドバー子爵に向ける。
「ナルソン・エルドバー子爵、国王陛下の命によりお前を逮捕する。地下室の男女について、じっくりと説明してもらうぞ」
呆然と突きつけられた剣先を睨むが身動き出来ない。
直ぐに腰の剣とマジックポーチを取り上げられ、後ろ手に縛られた。
「どうして・・・」
「お前の息子ニラガが、怪我を負って衛兵の下に連れて来られたのさ。地下室の説明文付きでな。お前が領地でやっている事と、証人と証言者の供述調書も有るそうだ」
* * * * * * *
一方エディは衛兵が王城に走り、王都警備隊に駆け込むのを見て王城衛兵に姿を晒す事を控えた。
後は王都から姿を消す為に、街の屋根から屋根へとジャンプを繰り返して王都の外に出た。
夜の草原を彷徨く気はないので、野獣の気配を探りながら城壁から離れるとカプセルホテルを取り出して、さっさと寝る準備をして横になった。
目覚めるとエルドバー子爵がどうなったのか、供述書を王国が受け取るかどうかの確認の為に王都に戻った。
まず冒険者ギルドに寄り、薬草を売り払うと食堂で不味いエールをチビチビ飲みながら朝食を食べ、周囲の話に耳を傾ける。
貴族街の噂は無し、大通りを通って市場に行くが変わりなし。
失敗したかと思ったが三日間の猶予を与えているので待つ事にして、アイリの待つエルグの宿に戻った。
アイリはお出掛け中で、王都で冒険者の装備を改める為に商業ギルドに出向き、腕の良い鍛冶職人を紹介して貰う。
〔ドルセン鍛冶工房〕なかなか趣の在る工房で、ぶっちゃけ大丈夫かと思われる店構えだ。
薄暗い店内に店番の女性が一人居て奥から槌音が聞こえてくる。
「いらっしゃいって、坊や新人の冒険者用の物は置いてないわよ」
「剣を一振り注文したいんだが出来るかな」
「剣なら、一振り最低でも金貨10枚以上するけど大丈夫?」
革袋を取り出して中を見せると、頷いて奥に案内された。
筋骨隆々、手に持つハンマーが小さな金槌に見える体格の親爺にギロリと睨まれた。
女性が剣の注文に来たと伝えると、詰まらなさそうに立ち上がり手招をきする。
壁際に様々な剣が掛けられているが、全て両刃の剣で片刃の剣は無い。
何れでも良いから振ってみろと言われたが、持ち手が片手持ちの短い物しか無い、両手持ちの物も二握り少々の物が少数だが大剣の部類だ。
お財布ポーチから鉄棒を取り出して両手で持ち、振り回しから片手に持ち変えて地面に叩きつける。
魔力を纏って振り回しているので、見た目より力が在るので良い風切り音が出ていると思う。
「冒険者御用達の店で買ったショートソードを持っているが、基本的に鉄棒でぶん殴っている。この鉄棒の様に殴る事が主体になるので両刃の剣はいらない、片刃の剣が欲しいのだ。刃の無い方で殴り、突き刺し斬るのは最後だな」
そう言って紙に簡単な図を書き、欲しい剣の形を教える。
日本刀の直刀と同じだが、俺用に少しアレンジしている。
刀身は約60cm先端はほぼ45度の三角刃で峰の厚さは1cm程度、柄は30cm強で柄頭には片手で持った時にすっぽ抜けないように滑り止め付きだ。
柄頭には紐を通す穴を付け紐を輪にして手首に通す事が出来る様にする。
「変わった剣だが三日待ってくれ、ぶん殴るのに使うなら少し頑丈にする必要があるからな。注文なら金貨15枚になるがいいか」
了解して注文するが、序でに鉄棒も長さ約70cm太さ2cm、握りの先端に丸い輪が付いた物を注文して、剣の前金金貨5枚を渡して店を出る。
宿に戻る途中見かけた店でキャンプ中の食器や調理器具等を買い、俺の冒険者生活の快適化を図るが、つい日本の生活と比べ落ち込んでしまう。
料理は気まぐれにするだけだが、気分の問題だね。
宿に戻るとアイリも戻っていたが、綺麗になっている・・・てより綺麗な服を着ている。
「アイリ大丈夫か、服が欲しいのは判るが、今の稼ぎは何時までも続かないぞ」
「大丈夫よ。これ全部、奥様が買ってくれたの。私は1ダーラも使ってないわ。奥様が元気になり旦那様もお喜びで、今は話し相手をしたりリフレッシュで体調を整えるのがお仕事みたいなものよ。でね、出来れば専属の体調管理と話し相手として来てくれないかと誘われているの。お部屋も用意してくれるって」
「それは未だ早いと思うな。何れ何処かに落ち着く事になるが、慌てる事もないと思うぞ」
アイリが乗り気なのは判るが、この手の小娘を騙すのは簡単なんだよな。
感謝されて高額の謝礼を貰い大切にすればイチコロよって、コマシと呼ばれた男が嘯いていたのを思い出した。
一度信頼されたら少々の事では疑われないから、後は適当に料理するって笑っていたな。
考えすぎだろうがアイリが住み込みで雇われても、何時でも俺と会える様に保険を掛けておく必要があるな。
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