第13話 襲撃

 旅が始まって8日目に、途中の街から乗ってきた2人は始めから気に食わなかった。

 乗り込んでくるなり人を頭の上から足下までジロジロと観察して、口を開けば横柄に人の詮索を始める。

 連れの女も親切そうにしながら、家族や家の事を聞き出そうとしつこく話を振ってくる。


 あまりのしつこさに切れ気味にお前に申告する必要は無い、何様のつもりで人の事に構うのかと歯に衣着せず聞き返した。

 それからは険悪ムードで一言も話しかけてこなかったが、その方がよっぽど気楽だし何時尻尾を出すのかが楽しみになっていた。

 どう見ても堅気に見えないのに、判らないのは本人のみってのも面白かった。

 御者や護衛の冒険者達が、どんな目でお前達を見ているのかと教えてやりたい程であった。


 10日目は野営になるからと早めに街を出発したが、夕暮れ前にきっちり出ましたよ。

 馬車が速度を落としてゆっくりと止まると、野盗が出たので馬車から出ない様にと御者が声を掛けてきた。

 窓から見ると前方に8騎後方に6騎、見るからに荒くれといった雰囲気の男達。


 乗客の二人も本性を現して俺達にショートソードを突きつけて能書きを垂れるが、直ぐに口を押さえて黙り込んだ。

 必死で口に手を入れているところを、腹を蹴り殴りつけて押さえ込む。

 女も大ぶりのナイフを取り出したが、直ぐに悲鳴を上げてナイフを取り落とし隣の客に取り押さえられた。


 アイリがにっこり笑ってナイフを拾い上げて女に突きつけるが、手が震えているので交代する。

 二人を縛り外を見ると護衛の冒険者達が馬車の前に立ち塞がり、剣を抜き構えている。


 「アイリ後ろの馬の尻を焼いてやれ。俺は前の奴等を馬から落とす」


 アイリの返事を待たずに護衛の冒険者達の後ろに回り、大人しく降伏しろとほざいている奴の、馬の鼻面にフレイムをお見舞いする。

 いきなり鼻に火をつけられた馬は、棹立ちになり騎手を振り落として走り去ってしまった。

 落ちた男に透かさず斬り掛かる護衛の冒険者と、慌てて馬から下りる野盗達だが、近づく賊にフラッシュを浴びせ目潰し攻撃。


 「其奴は目が見えてませんから、今のうちに斬り捨てて下さい」


 俺の声に半信半疑で斬り付けるフェイントを掛けるが、全然まともな反応が出来ないので本当だと判り楽に切り倒す。

 チラリと後ろを見ると三人が落馬してよろよろと立ち上がっているところだった。

 アイリにライトを使えと怒鳴ると、賊の顔面間近でフラッシュを浴びせている。

 俺も近くの賊に次々とフラッシュを浴びせて、動きの可笑しくなった奴を冒険者が斬り捨てている。


 不味いと思ったのか二人の賊は、馬に飛び乗り逃げだした。

 追い打ちのフレイムは、今一歩のところで届かなくなってしまった。

 アイリの方も二人逃げたが、馬の尻にソフトボール大のフレイムを乗せたそうで、馬が無茶苦茶な動きをしたため落馬したと教えてくれた。

 逃げられなかった4人は未だよく目が見えない様だったので、後ろに回り脹ら脛を斬り付けて逃げられない様にする。

 落馬した奴等二人のうち一人は失神しているし、残り一人は腰を押さえて動けない様子に笑ってしまった。


 「手助けして貰って助かったよ。変わった魔法を使うんだな」


 「なーに、ただの生活魔法だよ」


 へって顔をしているが説明する気はないので、後ろの奴等の捕獲を頼む。

 馬車に戻ると乗客に紛れていた二人は馬車から蹴り落とされ、呻いているところを御者に蹴られていた。


 「あんた達は大した魔法使いなんだね。若いし護衛でもないから冒険者になりたてだと思ったけど」


 乗客の一人の叔父さんが目を丸くして話しかけてきた。

 途中の街から乗ってきて余り話もしなかったが、王都の親戚の家に用事で行くところなのに、野盗なんかに身ぐるみ剥がれては堪らないとぼやく。

 お陰で助かったよと笑っていたが、馬車の中で賊を取り押さえた時の動きから相当の腕利きにみえる。


 斬られて死んだ者四名、捕らえた者10名そのうち8名が怪我をしているが、アイリが簡単な血止めをしたので死ぬ心配はない。

 取り敢えず野営地点まで行き此奴等をどうするか相談したが賊一人金貨2枚は捨てるには惜しいので次の街まで乗客は歩き賊を馬車に乗せて行く事に決定。

 死んだ奴は御者のマジックポーチに収めて運ぶ事になり、乗客には銀貨5枚を返却する事で話が決まった。

 逃げた奴の他に仲間がいるのか冒険者達が手荒く尋問して、いない様なので再度の襲撃は無いと判断した為だ。


 次の街ナリガルで街の衛兵に引き渡して金貨28枚を受け取り、約束通り乗客8名の内賊を除く6名がそれぞれ銀貨5枚を受け取った。

 残り25枚の金貨の内俺とアイリがそれぞれ5枚貰った、あんた達が居なきゃ俺達が死んでたから当然の取り分だと言われて、有り難くいただく。

 それからの旅はひたすら尻を攻撃してくる馬車の座席との闘い、という名の我慢を強いられたが何とか王都ラクセンに到着した。


 護衛の冒険者に言われて、盗賊討伐の実績報告にラクセンの冒険者ギルドに出向き、アイリと俺はアイアンの二級に進級した。

 何か棚ぼたでランクが上がったが序でに、空間収納の肥やしになっているネコを売ることにして、査定に出したら珍しいネコだと一騒ぎ。

 バンディットキャット、盗賊ネコとか山賊ネコって初めて聞いた。

 

 聞けば夜行性で滅多に人の目にふれる事が無く、毛皮や剥製は貴族や豪商の好き者が高く買ってくれると興奮気味に言われた。

 そんな奴等と関わり合いになる気は無いので、ギルドで買い上げて貰う事にした。

 傷も無いので金貨25枚と査定してくれたので、皆びっくりしていた。

 俺もそんなご大層な物を、フルンの街で出さなくて良かったと安堵した。

 此奴は剥製にしたら倍以上の値段になるのだ、安くて悪いなと逆に謝られたが、金貨25枚は1年は楽に暮らせる金額なので文句は無い。


 アイリには、あんたってどうなってんのと呆れられたが、此ればかりは運次第の事なので苦笑いで誤魔化すしか無かった。

 下手すりゃ、俺が此奴の餌になっていたかも知れないのだけどなぁ。

 冒険者ギルドの前で護衛の彼等と別れると、俺達は馬車で同席した叔父さんから聞いたホテルに向かう。


 〔エルグの宿〕馬車で同席した叔父さんラーセンさんのお勧めで、飯が旨くて綺麗でお手頃価格と三拍子揃っていると言っていた宿だ。


 「いらっしゃい。二人で相部屋なら一泊銅貨4枚、一人一部屋なら一人銅貨3枚で食事は別ね」


 「一部屋でいいわ。取り敢えず三日、長期滞在になるかも」


 「良いのかアイリ」


 「何が?」


 判ってるよ男として見られてないってのは、肩を竦めて話を打ち切る。

 カウンターの女性が笑っている。

 食事は下の食堂でするか外食か好きな方を選んでくれと言われて、鍵を渡される。

 部屋に入って先ずリフレッシュ、アイリも俺もリフレッシュが出来るので旅の間は座席の拷問が終われば直ぐに、リフレッシュで身体を癒やしていた。


 夕食の時間まで横になって休んでいると、先ほどの女性が来客だと告げに来た。

 王都に知り合いはいないので人違いだと言うと、来客はラーセンさんだ食堂で待っていると告げられた。

 アイリも俺も約束はしてないが、取り敢えず会うことにして食堂へ行く。

 旅の途中とは違い、パリッとした服装のラーセンさんが立ち上がり迎えてくれる。


 「お疲れのところを済まないね。実はアイリさんに頼みが有って来たのだ」


 頭の中で警戒信号が点滅し非常ベルが鳴り響く。


 「ああエディ君そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。取り敢えず話を聞いて嫌なら断ってくれてもよいよ」


 「お話を聞くだけは聞きましょう。エディ良いわね」


 アイリがそう言うのなら仕方ないので、渋々頷く。

 ラーセンさんのお話はありふれた病人の治療依頼だが、相手は死に瀕していると言うこと。

 アイリがそんな重篤な人を治療した事が無いと答えると、それでも一度で良いから治療して欲しいと懇願してきた。


 不思議に思い何故アイリなんだと尋ねてると、アイリが盗賊の切り傷を治療したのを見ていたが、血止めしたのに全力を使っている様に見えなかったこと。

 もう一つは連続して10人近い怪我人を治療したのに、魔力切れを起こす様子も無かったから腕が良いと見込んだのだと正直に話した。


 治療する相手は裕福な商人の連れ合いで、此れまでも多くの治癒魔法使いに治療を依頼してきた。

 然し小康状態を保つのすら難しく、治療の成果が出なくても良いのでお願いしたいと頭を下げられた。

 アイリが頷きあんたも付いてきてと言われて仕方なく付き合う事にしたが、一つだけ条件を付けた。

 如何なる結果になろうともアイリの事は一切口外禁止、破れば相応の報復はすると念押して、ラーセンさんの乗ってきた馬車に同乗した。


 地味だが金が掛かっているのが良く判る乗り心地の良い馬車に揺られる事数十分、周囲に劣らぬ大きな建物の前で止まる。

 向かえてくれたのはお仕着せを着た男だが、気配が風神のゴルドに似ている。

 ただの使用人ではなさそうなので、薄く纏っている魔力を臨戦態勢に切り替えて臨むことにした。

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