第11話 神父様の供述調書

 一筆書かせ此奴の手の届かない所に保管して、身の安全を確保しておく必要がある。

 貴族のボンボンならマジックポーチに筆記用具くらいは持っている筈だ、ネチネチと締め上げると半泣きでお財布ポーチから紙とペンを出したね。


 今日のゴブリン討伐の経緯から、オークと遭遇して全員で逃げたことや俺に助けられたが腰を抜かして小便漏らした事まで、事細かに記し全員の署名までさせた。

 勿論署名の筆頭はウルグ・エルドバー子爵3男様にお願いし、末尾に俺の署名も入れたよ。

 俺はこれを街中の知り合いに預け、俺に何かあれば公表するときっちり伝えてウルグちゃんを解放した。

 そして彼等より先に街に帰ったのは言うまでも無い。


 でかい獲物をマジックポーチに長く入れておくつもりは無い、長く入れておくと腐るとも聞いている。

 速攻でギルドに行き、買い取りのおっちゃんに査定を依頼する。

 おっちゃんお名前をサーランさん、顔に似合わず可愛いお名前です。

 オーク2頭と言ったら本気にしなかったので、オークを持って無かったら金貨1枚やる。

 オークを出したらお前が金貨1枚寄越せと詰め寄ると、初めて不味いって顔になり解体場に案内してくれた。


 解体責任者も本当かというような顔つきだったが、オーク二体並べたら黙り込んだ。

 一体は背中と首、もう一体は首と口の火傷だけなので唸っていたが、手の内は見せないよ。

 査定が終わるのを待っているところに、無礼組フルンの誓いの4人が疲れ切った顔で現れた。


 買い取りカウンターでゴブリンの魔石を提出しているところをみると、あれからゴブリンの所まで引き返した様だ。

 そんな彼等を見慣れているのかサーランさんが数を数え、紙に金額を書き渡している。

 そこへ解体責任者が紙を持って来てサーランさんに渡す。


 「おい、エディ査定が終わったぞ」


 呼ばれて行くと無礼組の面々がぎょっとした顔をしている。


 「魔石もひっくるめて1頭150,000ダーラ銀貨15枚、合計金貨3枚だがいいか」


 頷いて紙を貰いカウンターで精算してもらうが、ウルグちゃんに興味が湧いたので声を掛けることにした。


 「ようお疲れ、一杯奢るから付き合えよ」


 逃げ出しそうなウルグちゃんと飲みたそうな二人、俺に興味津々なのが丸分かりのヘルド。


 「ウルグ別に恩に着せるつもりは無いから安心しろ。そこのふたりも気にせず飲もうぜ」


 ヘルドを促してカウンターに行きエールを5杯注文する。

 空きっ腹にエールを2杯も飲むと口が軽くなる。

 飯を注文し食わせ飲ませて聞き出したところ、ウルグちゃん将来子爵家の護衛騎士になる訓練と小遣い稼ぎの為に、冒険者をやらされているって。

 ヘルドは使用人の息子でウルグちゃんのお守り役、後の二人も使用人の息子で2男3男坊だそうだ。

 酔って愚痴るウルグちゃんも結構厳しい人生そうだが、あんな子爵の伜に生まれたのを不運と思って諦めろと宥めておく。


 今回の収穫はナルソン・エルドバー子爵様、長男のニラガを連れて王都にお出掛け中。

 側室の子ながら性格は子爵様に檄似で、子爵様が常に連れ歩き跡取りとして鋭意教育中だそうだ。

 次男で正妻の子は王都暮らし、領地フルンの街には来たことも無いそうだ、子爵様の家族構成って面倒くさそう。

 エメリー(正妻)

 クラリサ(側室)

 ヒラザ(長女、正妻の子)

 ソラナ(次女、正妻の子)

 エンナ(三女、正妻の子)

 ニラガ(長男、側室の子)

 オルト(次男、正妻の子、王都暮らし)

 サラン(四女、側室の子)

 ウルグ(側室の子、三男)


 正妻の子は全て王都住まい、側室の子がフルンの街と綺麗に別れて暮らしてていて兄弟の感覚は無いそうだ。

 複雑な家庭環境は興味が無い、俺エディを死の寸前まで甚振ってくれた御者は、屋敷裏の厩の隣の小屋に住んでいると喋ってくれた。

 名前はオイゲン。一人暮らしで酒好き、残忍な性格から使用人からも嫌われ小屋暮らしになったらしい。


 これだけ判れば何時でも殺れる、後は万全の体制で臨むだけだ。

 ヘルド達と別れ教会に向かう、アイリとは久しく会ってないが上手くやっているか心配だ。


 ぼんやり座るアイリを見付けどうしたのかと問うと、稼ぎが全て食費に消えると愚痴られた。

 時々訪れる冒険者や街の人を治療しても、孤児院の子達が腹を空かせているのに一人美味しい物を食べる訳にもいかず、皆に食べさせると直ぐに金が無くなると。

 確かに20人以上居るから銀貨1枚の稼ぎでは2,3度に分けても長持ちはしないな。


 それと神父様のお誘いがだんだん酷くなっていて、我慢の限界だからぼちぼちフレイムでお仕置きして此処を出て行こうと思うが、稼ぎを考えると躊躇すると暗い顔で言われた。


 「あんたの言った通り、治癒魔法で食べていくのも大変なのが良く判ったわ。楽に食べていこうと思えばそれも考え物だしね。貴族や金持ちに雇われても神父様相手と変わらない様だし」


 「んじゃー、一丁神父様から金を吐き出させますか」


 「止めてよね、犯罪奴隷なんてなりたくないから」


 「いやいや、安全確実に神父様が進んで俺達に金を呉れるさ。アイリは此れから神父様の部屋に行ってノックしてくれ。後は俺が全てやるから待っててくれればいいさ」


 「何をやる気」


 「話し合いだよ。神父様の秘密についてね」


 懐疑的なアイリの背中を押して神父様の部屋前に行く。

 ノックをして声を掛けさせる『アイリです』満面の笑みでドアを開けたら俺とこんにちは、とたんに不機嫌な顔になる神父様。


 「エディお前が何故此処にいる。もう此処にお前が居る場所は無いぞ、帰れ!」


 俺はアイリと入れ替わり、アイリを犬の子を追い払う様に手でシッシッと追い立てる。


 「今日は神父様の重大な秘密についてお話が有ります。アイリ用は済んだ消えな」


 アイリが無関係な様に装いながら、神父様の顔色を窺う。


 「エディ私を脅しに来たのか。聖職者である私を脅迫すれば即座に犯罪奴隷だぞ」


 「その時はランセス神父様も教会を追放されますね。それと秘密を漏らしたとして、エルドバー子爵様から厳しいお仕置きを受ける事になります。神父様も犯罪奴隷は確実、下手すりゃ口封じもあり得るかな。それとも話を聞きますか」


 顔色が信号機の様に赤青黄色と目まぐるしく変わり、その間も俺をチラチラと見る。


 「此処で大声で話せばアイリや他の子供達にも聞こえますし、教会を訪れた人々に聞かれたらどうします」


 「入れ!」


 低音の魅力たっぷりなお誘いに背筋がゾワゾワする。

 チラリと横を見ると少し離れてアイリが俺を見ている。

 神父様から見えない様、手でシッシッと追い払う。

 部屋に入ると鍵を掛け閂までする神父様、相当びびってますね。


 「話とは何だ」


 「そりゃー神父様とエルドバー子爵様の関係ですよ。心当たりは充分に有るはずですが」


 「何を知っている。話の内容に依ってはただでは済まんぞ」


 「恐いねー、何の安全策も講じずのこのこ一人で来る訳無いじゃないですか。それとエルドバー子爵様は只今王都ラクセンですが、此の話が王宮に漏れたらどうなると思います」


 おー、神父様信号機から燃え尽きたのか、顔色が真っ白になり座り込んでますがな。


 「誰が知っている。アイリも知っているのか」


 「アイリが知ってたら俺の隣に立ってますよ。誰と教える程間抜けに見えますか」


 「条件は何だ、何をすれば黙っていてくれる」


 「一つは神父様が隠している物の半分、それを貰ってから次の条件を言いますよ」


 「半分も寄越せと言うのか。私がどれ程苦労して蓄えたと思っている」


 「孤児院出身者の血と涙で稼いだ金じゃないですか。神父様は何の苦労も無く、のうのうとして旨い飯を食ってただけでしょ。小さいところでは孤児院の食費や生活費も懐に入れてますよね。でっぷり艶々の神父様は街では評判ですよ。俺達がガリガリの痩せっぽちだから、余計目立つんです。嫌なら別に良いです、脅して金を巻き上げる様な事はしません。金貨の袋を抱えて地下牢に行けば良いですよ。その前に全て取り上げられるでしょうけど」


 蒼白の顔で必死に考えを巡らせている様だが無駄な考えだよ。


 「お話は決裂って事で失礼します。ランセン神父様、逃げても無駄ですよ」


 俺が閂を外し鍵を開けると必死の声が掛かる。


 「わっ判った、やるやるから待ってくれエディ。半分だぞ、それで何もかも忘れてくれ頼む」


 「やだなぁ、自分の安全をドブに捨てる様な事はしません。半分貰らう前にやって貰うことが有ります。それさえ済めば半分貰って忘れますよ」


 神父様にナルソン・エルドバー子爵との付き合いの最初から、器量の良い孤児の斡旋と奴隷売買の一部始終に、エルドバー子爵の役割までを全てを書き出させた。

 勿論売り物にならない者を冒険者に与えて死に至らしめていた経緯もだ。

細かい事では孤児院に国から支給される経費の横領から、孤児院の少女を食い物にしていた事まで書かせた。

 俺が誤魔化しを次々と指摘し訂正させると、途中からは諦めて素直に書き連ねていった。

 最後に各書類の末尾に神父様の署名と血判を押させたのであんぐりと口を開けていたが、22才で死んだとはいえ平成生まれを舐めるな。

 書類を受け取りマジックポーチに入れる振りをして、空間収納に入れる。


 「ではお約束の半分貰えますか」

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