第10話 内緒の話
コーズ親方謹製のカプセルホテル、身長160数cmの俺には充分です。
土魔法使いのウダゲルさんに、毎日銀貨1枚を支払って10日間魔力を込めて貰ったので、多少の衝撃には耐えられる・・・と思う。
無数に開けた小さな穴が空気穴で両側に開けているので換気も大丈夫、監視用の覗き穴もバッチリ。
これで安心安全な冒険者生活が出来る予定だが、お陰で金貨が半減してしまったが初期投資と思い諦める。
寝る場所と食糧は確保しているので、当分は大丈夫な筈だ。
* * * * * * *
早朝の凍える様な森の中を薬草を探して歩くが、晩秋の森ではおいそれと薬草が見つかる事もない。
風神のシュリエさんに教えて貰えたのは季節的にも、最後だったのだと思う。
未だ木に残っている果実を探して歩くが、それも大した収穫にはならない。
冬は薬草採取には厳しい季節だと聞いていたので覚悟はしていたが、なるほどね。
通年採取出来る薬草も在ると聞いているので探せば有るのだろうが、この辺りは随分探したので諦めて場所を変えることにした。
改めて森を歩いていて思うが、俺って方向感覚抜群だわ。
帰巣本能が優れているのか街の方角が勘で判る。
と思っていたが、朝は西に夕暮れには東に向かい街道に出たら右か左の二択でした。
それに塒を持ち歩いているので、帰巣本能も必要なかった。
紫汁草の茎を発見、小振りな鍬を取り出し芋掘りに励む。
小さな芋は埋め戻し拳大以上の芋を採取10個程で掘るのを止める。
紫汁草の群落地を一度に掘ってしまうのは勿体ないし、後日の為にも乱獲は止めておく。
多年草の円葉草の葉を見付けてせっせと採取、薬草袋にポイポイ放り込んでいくが確か葉っぱ20枚で鉄貨7枚だったはずだ。
20枚摘んではご飯が一食、20枚摘んではお肉を挟んだパンが一つと考えながら無心に摘む。
陽も高くなりお食事タイム、近くの手頃な木の枝にジャンプして収納から取り出したポットから熱いお茶を一杯。
長閑な気分でパンを取り出して食べていると、遠くで煌めく物が見える。
この世界で陽の光を反射して煌めくのは水面か振り回される剣の反射光しかない。
方角的には街道よりとくれば、誰かが剣を振り回していることになる。
それも連続して反射光が見えるって事は複数の人間がいるはずなので、興味が湧きちょいと見物に向かう。
ジャンプ3回で約600m程度跳び、後は見つからない様に身を伏せて近づく。
若い冒険者4人がゴブリンとやり合っているが、10数匹のゴブリンに手子摺っている。
見捨てたら怪我人がでるし最悪死人も出そうな雰囲気なので、手助けをする事にした。
「手助けが必要ですか」
いきなり声を掛けので、びっくりして闘いの最中なのに俺を見ている。
その隙に、ゴブリンが木の棒を男に叩きつけ様としているので、其奴の頭に石を思いっきり投げつける。
〈ギャッ〉って喚いて頭を抱えるゴブリン。
「何やってんの、其奴をさっさと殺りな」
のんきな奴だね。
頭を抱えて蹲っているゴブリンに、手槍を突き入れて蹴り飛ばしている。
「済まない。手伝ってくれ!」
俺の声に振り向き、向かってきていた奴の顔に思いっきり石を投げつけ、背を向けている奴の背中や後頭部に次々と石を投げる。
魔力を纏って投げる石のスピードは、並の男が投げるより遙かに威力がある様で、頭や後頭部にくらった奴の動きが鈍くなる。
そこを透かさず斬り付け突き殺して、5分程でゴブリン13頭討伐完了。
「助かったよ。有り難う」
「いいさ、それより討伐するには数が多すぎるんでないの」
「いやー最初は5頭の群れだと思ったら、別の奴が合流してきて苦戦していたんだ、助かったよ。俺達はフルンの街の冒険者で〔フルンの誓い〕ってパーティーだ宜しく」
「俺もフルンだよ。冒険者になって間がない新参者さ」
「お前、教会の孤児院の奴だろう。石を投げただけだから、魔石の権利は無いぞ」
あらら、またいきなり喧嘩腰ってか、礼儀がなってないな。
「ウルグ止めろ。助けて貰ってなんて言い草だ」
「俺は、あの時見てたんだよ。其奴は授けの儀で空間収納と転移魔法を授かったけど、魔力高20って間抜けだぞ。さっきも石を投げるしか能が無いのを、証明しているじゃないか。礼なんか必要ないさ」
残り二人も興味深そうに俺を見ている。
俺に礼を言った奴が気まずそうにしているので、さっさと退散する事にした。
「助けは必要無かったみたいだから、俺は消えるよ」
助け甲斐の無い奴等だね、あの程度の腕でゴブリン討伐は早すぎでしょう。
奴等に背を向けて歩き出したが、暫くしたら後ろからドタバタ走ってくる奴がいる。
振り向けば、先ほどの無礼組の4人が真っ青な顔で駆けてくる。
衝突コースなのにそれすら気づいていないのか、後ろを気にしながら必死に走っている。
不味いことが起きたのは間違いないが、巻き込まれるのは御免だ。
藪に潜り込んでやり過ごす事にしたが、迷惑な奴はとことん迷惑だ。
横を通り過ぎる寸前に、先頭の奴が見事に転び後続が巻き込まれて全員倒れて藻掻いている。
痛さに呻いている奴等の後ろから、ドスドスと重い足音が近づいてくるので覗くとオークが2頭。
此奴等死んだね、南無南無。
オークに見つかる前に退散すべく静かに後方に下がりかけたが、俺に礼を言った奴が倒れて呻く奴等を背に立ちあがり、皆を守る様にオークに剣を向けた。
〈たった、た助けて〉
助けてと言いながら、剣を構えている奴の足にしがみついている。
〈ヘルド何とかしろ〉
礼儀知らずが偉そうに命令しているが、良い槍を持っているのだから構えろよ。
もう一人はと見ると、小便をちびって震えている。
ヘルドも剣が振るえていて、とても敵いそうにない。
しゃーない、ヘルド君に免じて手助けするが、危なくなったら見捨てて逃げるからな。
手槍を取り出すとオークの後ろにジャンプして、間髪入れず思いっきり突き刺した。
16才の痩せっぽちが、魔力を纏っていて素早さはあれど実戦経験の無さがもろに出たね。
自分でも判る、致命傷にはほど遠いと。
〈ゴワーッ〉
一声吠えて振り向くオーク、正面から見るとちびりそうだ。
振り向いた奴の顔を目掛けて石を連発で投げつけ、石を防ぐ為に顔の前に腕を置いた時、喉を狙って突き込みそのまま槍を滑らせた。
首から血飛沫を上げて崩れるオークを見て一歩下がる。
もう1頭はヘルドを殴り飛ばし、倒れて震えている奴に掴み掛かろうとしている。
後ろ向きで前屈み、悪戯心が芽生えたのは勘弁して欲しい。
カンチョウー、見事お尻に命中したが、オークが凄まじい声で吠え振り向いた顔は憤怒に歪んでいる。
〈ゴワッー、グギャー〉
大口開けて吠えるその口いっぱいに、魔力を込めてフレイムをプレゼントだ、猫ちゃんで実証済みの必殺攻撃。
口を押さえてウゴウゴ言っている隙に、斜め横から首に倒れている奴の槍を拾って突き入れる。
口内火傷と頸動脈切断で、血飛沫を上げて崩れ落ちるオーク、無事に討ち取れた。
二匹目のオークが倒れた時には、膝に力が入らず思わず座り込んでしまった。
水をがぶ飲みして何とか落ち着き、腰抜け達を見れば目をまん丸にして俺を見ている。
ここは、嫌味の先制攻撃だ。
「よお、これは俺の獲物でいいよな。お前達は何もしていないのだから」
ヘルドが顔を引き攣らせて頷いている。
「ウルグお前も文句はねえよな。それとも魔力高20の奴に獲物を持って行く権利は無いとでも言うか」
2頭のオークの血飛沫を浴びて血塗れの俺が、ニンマリ笑いながら言ったので、後ずさりしながら首を振っていやがる。
此処でちょい悪戯心が又芽生えちゃったので、ウルグの股間にカップ2杯分のウォーターをプレゼント。
今日はプレゼント攻勢だなと思いながら、追撃の手を緩めない。
「ウルグ、お前恐くてちびったのか」
言われて初めて気づいたのか、股間を見て真っ赤な顔になっている。
此処で止めだ!
「まさか恐くて腰を抜かした挙げ句、小便をちびっているとはなぁ」
やれやれと言わんばかりのポーズを示してから、徐にオークをマジックポーチに仕舞う。
気に入らない奴だがもう関わり合いになるのも面倒なので、ヘルドに手を振ってフルンの街に向かう事にした。
「まっ待て、待てと言っているのが判らんのか!」
「何だよ腰抜けウルグちゃん。余り偉そうに言ってると、冒険者ギルドでお前が腰を抜かして小便ちびった事を触れ回ってやるぞ。だまってお家に帰りパンツを洗っていろ」
「俺はナルソン・エルドバー子爵の3男だぞ。変な噂を流したらどうなるか、覚悟しておけ!」
「ほう、ナルソン・エルドバー子爵様の3男ねぇー。変な噂じゃ無いぞ、事実だからな。息子がオークから逃げる途中で転び、腰を抜かして小便を漏らしたと聞いたら・・・さぞやお喜びだろうなぁ♪ あの子爵様の性格だと、良くて勘当と追放。下手すりゃ折檻のうえで地下室幽閉かな」
「まっ待て、待って下さい謝ります! 父には、父上には、何卒内密にお願いします」
いきなり下手に出たが、こういった奴は油断すると必ず仕返しを考えるので油断禁物だ。
「内密にしろって偉そうに言われてもなぁ。お前の言うことを聞いたら、街に戻ったとたんに無礼だと言われて斬り捨てられても困るしなぁ。一筆書いてくれるかな」
〈ウグッ〉って、本当にウグッって言ったよ。
街に戻ったら、無礼打ちにするつもりだったな。
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