第8話 敵討ち

 横薙ぎに振られた剣を後ろに下がって躱すと、収納から取り出した石を顔面に投げつける。


 〈グボッ〉


 変な声を出して、顔を押さえてしゃがみ込む筋肉ダルマ。

 序でに股間にピンポン球ほどのフレイムをプレゼント。


 〈ウギャーァァァ〉


 もの凄い声で喚いているが、無力化したので捨て置く。

 他の追撃がないので不思議に思ってみると、風神の皆さんが叩きのめして終わっていた。


 「早いですね」


 「お前さんこそやるじゃねえか、冒険者になったばかりの腕じゃないな。ところで其奴はどうしたんだ、白目むいて伸びてるぞ」


 「私も見てたけど良く判らなかったわ。石を投げた後なにをしたの」


 「ちょっと言いにくいけど股間を焼いたんですよ」


 シュリエさんを除いた4人が微妙な顔で俺を見る。


 「あらエディって魔法使いだったの、それにしては詠唱をしていなかったでしょう」


 「使ったのは生活魔法のフレイムです。詠唱するほどの魔法じゃありません」


 興味津々のシュリエさんだが、ゴルドが、襲ってきた此奴等の始末が先だと言い出した。

 街の外で襲ってきたのだから殺して終わりだが、俺がいるので聞いてきた様だ。


 「少し聞きたい事があるんですけど良いですか」


 了解を得て全員の両手足を縛ってから尋問。

 一年以上前になるが、緑の髪に青い瞳の少年を荷物持ちに使っていた筈だが彼をどうしたのかと尋ねた。


 「知らねえよ。俺達がそんなガキを連れ歩く様に見えるか」


 「知らないとは言わせないよ。街の人達が見ているんだ、言いたくないのなら言いたくさせてやるよ」


 惚けた男の股間を、フレイムでこんがり焼いてあげた。


 〈ギャー、アッアチチチ、熱い止めてくれー〉


 俺のフレイムは魔力を込めれば5分くらいは楽に燃えている。ピンポン球サイズとはいえ股間に埋め込む様に火をつけたのだから、転げ回ってもおいそれと落ちない。

 途中で静かになり、涎をたらして悶絶している。

 次の筋肉ゴリラに質問しようとしてふと見ると、風神の皆さん少し腰が引けているよ。


 「どうする質問の内容は判っているんだろう。答えろよ」


 「おのれ糞ガキが、必ず殺すぞ」


 「立場判ってないよな」


 其奴の股間にもフレイムをプレゼント、股間を焼かれて初めて俺の本気を悟った様だが遅すぎ。


 〈ウゴゥ、止めて喋ります。御免なさい〉


 転げ回って謝罪してくるので、ウォーターを木桶一杯分くらいを掛けて冷やしてやる。


 「ヘルムを、何処で殺した?」


 「ヘルムって誰だ?」


 「緑の髪に青い瞳の少年だ、さっきの話をもう忘れたのか。もう一度続きをしようか」


 「思い出しました。奴はゴブリンに襲われて死にました。俺達は殺してません」


 やっぱりな、街の人達の話に間違いなかった。

 ゴブリンに襲われたのも、動けなくなったヘルムを放置して遠くから笑いながら見ていたからだ。

 此奴等が酒場で酔って笑いながら話していたと、多くの人が教えてくれたからな。

 街の手伝いで知り合った多くの人達から、冒険者になるのなら気をつけろと言われていたんだよ。


 「ゴルドさん、もう良いです。後は任せます」


 「良いのか、殺すつもりの様だったけど」


 「何れ森で出会ったら殺るつもりでしたけど、風神が襲われたのだから権利はそちらに有ります」


 「判った任せろ。満足のいく処理をしてやるよ」


 筋肉ダルマ5人の身ぐるみ剥ぎ取り、リーダー格の男が持っていたマジックポーチを俺にくれた。

 くれたって言うより、無理矢理使用者登録を解除させて中身を確認すると、うっすらと笑いながら投げて寄越した。

 他にもお財布ポーチが三つ有り、一つを貰った。

 曰く、お財布ポーチを普段使いにして、獲物等をランク5のマジックポーチに入れろって。

 お財布ポーチはアイリに持たせれば良かろうと思い、有りがたく貰っておく。


 金は等分に分けると言って金貨3枚に銀貨18枚と銅貨鉄貨適当に貰い、後の物は余所の街で売るからと取り上げたマジックポーチにしまって終わり。

 俺も異存はなかった。

 何せ奴等のマジックポーチからは、多数のサイズや種類の違う剣やナイフに装飾品が出てきたのだから。


 街に連れて行きギルドや街の衛兵に引き渡すと、取り調べだ何だと面倒でマジックポーチも金も貰えないって。

 貰えるのは報償の金貨2枚だけなので、余程金にならない奴でなければ、街にまで連れて行かないらしい。

 5人を森の奥に向かって歩かせるが、股間を焼かれた3人が歩き辛そうにしているが知った事でない。


 「お前達は約束通り此処で解放してやるよ。今度は襲う相手の力量を確かめてからにしろよ」


 ゴルドがそう言って、脹(ふく)ら脛(はぎ)を切り付けてから奴等を解放する。


 〈ギャー〉

 〈止めろー、糞、約束が違うぞ〉

 〈もう止めてくれ。頼む〉


 馬鹿だ、約束は殺さず森の奥で解放するとだけで、五体満足な状態でとは言ってない。

 色々言ってるが何れ程の人を殺してきたんだか、此処で野獣の餌食になるのはその報いだ、死にたくなければ頑張れと言って引き返してきた。

 今日は験(げん)が悪いと風神パーティーと街に戻る事にして、森から引き上げる。

 途中シュリエさんの顔色が悪くなり脂汗を流しているので、休憩しようと提案したが、街まで歩けるからとそのまま歩く。


 下腹を押さえているから多分盲腸だと思うが、この世界の医療関係は全然知識がない。

 最もこの世界の事は何も知らないと言った方が正しいのだが、時々痛くなるならそのうち取り返しがつかなくなりそうだ。

 街に戻ったらアイリの所に連れて行った方が良さそうなので、提案してみる。


 「ゴルドさん、街に安くて腕の良い治癒魔法使いが居ますので、行ってみませんか。最も腕が良いと言っても他の治癒魔法使いは知りません。死にかけていた俺の命を救ってくれて、傷も綺麗に治してくれました。だからそこそこ腕は良いと思います」


 「坊主、傷なんて何処に有ったんだ」


 「額と頬と瞼に耳も半分取れかけてましたし、16才になって孤児院を出て行く時に治して貰ったんです」


 それを聞いて、ゴルドもシュリエも俺の顔をジロジロ見ていたが、頷いて案内してくれと言った。

 本当なら教えないのだが、数回の付き合いでも信頼出来ると思ったし、ヘルムの仇も討てたので良いだろうと思う。

 それに高価なマジックポーチをあっさりくれるところなど、余り金に執着が無い様なのも好感が持てる。

 万が一アイリや俺を食い物にする気なら、それなりに排除する方法はあるのでさして心配もしていない。


 街に入ると真っ直ぐに教会に向かうと、アイリは丁度教会の掃除をしていたので治療を頼む。

 アイリにはお財布ポーチを渡して、ヘルムの仇を取って貰ったと告げて出来るだけの治療を頼む。


 「あんたの言ってた通り、ヘルムは死んでたのね」


 「ああ、殺した奴に白状させたよ多分ヘルムだけで無くもっと大勢もな。そいつ等は今頃野獣の餌食になっている頃だ」


 「じゃーこれは」


 「死んで行く奴には不要な物なので貰った。後で使用者登録の方法を教えて貰うよ」


 黙って頷いてシュリエのところに行き、横になるシュリエの痛む所を聞いて治療を始めたが、直ぐにシュリエの顔色が良くなり呼吸も安定して不思議そうな顔でアイリを見ている。


 「終わったわ。未だ治癒魔法の事を良く知らないので、痛み出したら又来てね」


 ゴルドが金貨を渡そうとしたが、アイリはマジックポーチを貰ったからいらないと断った。

 

 「しかし姉さん、普通痛みを止めるだけでも銀貨の4、5枚は要求されるぞ、良いのか」


 料金の受け取りを拒否するアイリに、マジックポーチの使用者登録の方法を教てもらった。

 アイリに礼を言って、俺達は一度冒険者ギルドに向かった。

 ゴルドが俺の気配察知と生活魔法に興味を示して、話がしたいと食事に誘われたのだ。

 生活魔法の一つ、フレイムを見せたから興味が湧いた様だ。


 話は風神がこの街に居る間は一緒にやらないかというものだった。

 理由は俺の気配察知で、筋肉ゴリラ達が潜んでいるのを俺だけが気づいていたらしい。

 先回りして待ち伏せが在るとは教えられても、潜んでいる場所など判らなかったそうだ。


 気配察知に優れる俺がいれば、狩りが捗りそうだと言われた。

 取り敢えず10日程一緒に行動する事にしたが、交換条件は冒険者のいろはを教えて貰うことだ。


 この世界初のエールを飲んだが、雑味の多い小便みたいな(飲んだこと無いけど)エールだった。

 常温でコップの中に不純物が浮遊しているので、黄金色の泡が立ち上がる冷えたやつが恋しい。

 ブルンとオクランが生活魔法であんなことが出来るとは知らなかったと、興味津々で聞いてきたが正直に話すつもりはない。

 魔法は授かったが魔力高20しか無いこと、生活魔法を使える様になってから、今まで他人のを見たこと無いので良く判らないと話しておく。

 フレイムを見せる時も、他の冒険者には見えない様にして発現させた。


 皆さんフレイムを見て、足をもぞもぞさせているのが可笑しかった。

 翌日ギルドでの待ち合わせを約束して別れたが、別れ際にお財布ポーチを渡されシュリエの治療代金が、お前が渡したポーチなので代わりにこれを遣ると言われた。

 俺は空間収納が有るので別に要らないのだけれど、気持ちが有り難かったので素直に礼を言って貰っておく。

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