第7話 筋肉ダルマ
これは不味い、瞬時に全力で魔力を纏い逃げる準備をする。
筋肉オヤジが片足を引いたので、蹴り出す瞬間に軽くステップして横に移動。
その間に残りの4人が俺を取り囲み、周囲から見えなくした。
そっちがその気なら、俺もそれなりの対応をさせて貰おう・・・後ろから蹴りにきてるのか尻がむず痒い。
前のオヤジに抱きついて位置を入れ替えると、脱兎の如く逃げる事にした。
〈ウォー〉
俺の代わりに蹴られたオヤジの声が聞こえるが、仲間だから許してやれよ♪
買い取りのおっちゃんに手を振って、ドアに向かう。
「待てー、糞ガキ!」
待てと言われて待つ馬鹿はいない、じゃーねー。
心の中で手を振り冒険者ギルドから飛び出す。
強い相手に逆らわず、弱そうな俺で憂さ晴らしをしようなんて、尻の穴が小さいね。
股間を生活魔法のフレイムで焼き、焼き金タマにしてやろうかと思ったぜ。
しゃーない、獲物は背負子ごと収納に仕舞い、食料確保の為に市場に向かう事にした。
食事代稼ぎの金を掠めていたのと合わせても、銀貨5枚に少々足りないが、これで食糧と獲物袋を買ってキャンプ地に戻る事にした。
街を出ると人気のない所でネコを取り出し、獲物袋に詰め込んで収納に仕舞う。
獲物袋に手足を折り曲げ尻尾を足の間に挟むと大分見かけが小さくなった。
もう一つの袋にホーンラビットとヘッジホッグを詰め込んで、これも収納に仕舞う。
空間収納の能力が小さいので、適当に放り込んでいては入らなくなると困る。
小さく纏める癖をつけておかなくっちゃ。
また暫くは、ハンモック暮らしの始まりだ。
とっとと帰って早めに寝て、目覚めたら転移魔法でどの程度の距離が跳べるのか、回数は何回くらいか調べるのが今日の日課だ。
近距離と目視距離なら10回や20回は楽に跳べるのだから、後は距離だけが問題だ。
目覚めれば・・・夕暮れ時、若いんだから寝なきゃ大きくなれないし、仕方ないよね。
陽が落ちるのをぼんやり眺めていると、ゴブリンの群れが何やらグギャグギャ言いながら近づいてくる。
担いでいるのはどうやら血塗れのボアの子らしく、少し離れた木の下でお食事を始めたがマナーがなってない。
鋭い石で叩いて小分けにして、噛みつくと首を振って食い千切っている。
ウゴウゴ、グギャギャと煩いし、胸の悪くなる様な食事風景。
見るのを止めて今夜の事を考えていて気づいた、此奴等も討伐対象で魔石1個で銅貨3枚の筈だ。
お食事風景に見とれて忘れてたが、ゴブリン討伐も冒険者のお仕事でした。
しかしゴブリン7頭は俺には無理で、大体魔石が何処に有るのかどうやって取り出すのかも知らない。
ゴブリンの事は忘れよう、なーんにも見てません。
然し、此奴等が此処に居座ると他の小動物が近よってこないので、移動して貰わねば俺の今夜の計画がだいなしだ。
距離的に俺の生活魔法は届かないので、空間収納に溜め込んでいる石を取り出してゴブリンの近くに放り投げる。
。
〈トン〉と石の落ちる音に、騒ぐゴブリンが静かになり音のした方をじっと見ている。
釣れそうなので、目線の先から斜めに少し離して石を落とす。
〈トン〉一斉に音の方を向くゴブリン達、掛かったね。
もう一度放り投げると〈トン〉今度は音の元を探りに近づいてきた、次は真下に落とすとぞろぞろやって来る。
今度は群れの中に落とすと、輪になって音の元を探している、馬鹿め。
音がした所を探しているゴブリンの中心で、秘技フレイム脅しを発現させる。
眼前に直径50cm程の火球が現れ、炎に炙られてゴブリン達がパニックを起こして散り散りに逃げていく。
大成功・・・食い散らかしてそのままに逃げやがった。
行儀が悪いなぁ、少しは片付けていけよ!
静かになって暫くすると、又ハイエナの様な奴がやって来た。
家族連れの様でそこそこの大きさの奴に一回り小さい個体と、子供と思われる小さな個体5匹がゴブリンの食べ残しをたべている。
今日は外れの日のようで、食べ終わってお寛ぎのところを気の毒だが、余所で寛いで貰う為ウォーターで桶三杯程の水をぶっ掛ける。
が、全然届いてないし、ちっこいのが寄ってきて喉を潤している。
此処は良い場所だと思ったが外れの様で、ハンモックを別の場所に移す事も考えねば。
狩り場と塒(ねぐら)の職住近接、理想の生活が送れると思っていたが現実は甘くなさそうだ。
此れから冬になるので、寒さに耐えながらハンモックでの野営になるのは目に見えている。
となると地上で暖炉は無理でも、小さくてもストーブが使えるものを検討しなくちゃ、でなければ安宿とはいえ毎日余分に金が必要になる。
今夜は諦めて気配察知で警戒しながら朝を待つ事にした。
夜明けを待って一度フルンの街に戻る事にしたが、どの程度の距離を跳べるか試しながら街の出入り口に向かう。
見通しの良い場所で跳んでみたが、歩数で300歩ほどで歩幅50cmとして150mくらいかな。
疲れは無いので、街道に向かって2度ジャンプして後は歩く。
万が一の事を考えれば、疲れを感じた時点で魔力切れが近い筈だ。
前回は調子に乗り街道に出た時には少し疲れていた、あんな失敗は命取りになるので要注意だ。
俺を殺した憎い奴だが、中二病の台詞が思い出される。
今日は行商の一団の後ろになり聞くとはなしに話を聞いていると、ヘンザ王国内でもフルンの街は余り評判が良くない感じだ。
あのエルドバー子爵じゃ然もありなん。
みていろ糞野郎、エディの母親と妹の敵は必ずとってやるからな。
俺もあの痛みは忘れていないし、エディの悔しさも良く判るから。
行商の一団の後ろで収納から背負子を取り出して、素知らぬ顔で担ぎ冒険者ギルドに向かう。
今日はあの筋肉軍団はいないようなのでさっさと買い取りカウンターでホーンラビット3匹とヘッジホッグ1頭を出す。
びしょ濡れのホーンラビットとヘッジホッグに変な顔をされたが、何も聞かれないのでセーフ。
銀貨1枚と銅貨6枚を貰って依頼ボードへ移動し、塒を作る参考に為る様な仕事を探す。
家の片付けとドブ掃除にお使いや荷物運びと、食費稼ぎにはいいがホテル代までは稼げない。
ホテル代まで稼ごうとすれば朝星夜星、夜明け前から陽が落ちるまで働いて最低クラスの宿代が精々なのでパス。
やっぱり薬草採取でちまちま稼ぎ、ハンモックを冬にも耐えられる様に改良した方が良さそうなので、ギルドを後にして草原に向かうことにした。
出入りの順番待ちで前の方に風神の人達を見掛けたが、少し後ろに筋肉ダルマ達が風神の5人から見えない位置に立ち、ニヤニヤと笑っている。
何か企んでいるのは一目瞭然で、周囲の人達も関わり合いに為りたくないので横を向いている。
俺はどちらにも挨拶したいので、一口噛ませていただこう。
門を出ると即座に纏う魔力の量を上げて臨戦態勢になり、そのまま筋肉ダルマ達と距離をおく。
風神の5人と距離を取り、街道を逸れて急ぎ足になる筋肉ダルマ達を見て俺はちょっと後悔している。
未だ本格的な野獣との闘いを経験していないし、森の中も歩いた経験が無い。
少し考えて、後をつけるより先回りして風神の皆に知らせて俺は失礼させてもらう事にした。
そのまま街道を急ぎ風神の皆に追いつくと、ギルドで俺に嫌がらせをしたパーティーが後をつけている事を伝える。
多分森の中を先回りして、待ち伏せしている可能性が高いので注意する様に言ってさようなら。
するはずなのに、何で俺まで一緒に森に入ってるんですか?
多分敗因はお姉さんの『坊や教えてくれて有り難う』の声と共に、ほっぺにされたチュウが原因だ。
でもお姉さん、シュリエさんも他の人も顔色一つ変えずに森に向かっている。
俺はシュリエさんの後ろを怖々ついていってるが、少し先の茂みから嫌な気配がする。
リーダーのゴルドさんに、多分その先の茂みに隠れていると思うと知らせる。
ゴルドさんは面白そうに俺を見て、笑いながら頷いた。
ゴルドさんが仲間に頷くと、一人が足下の石を拾い思いっきり茂みに向かって投げた。
〈ウオーッ〉
〈野郎〉
出ましたよ、筋肉ダルマ5人組。
「てめえぇ、何をしやがる!」
「あー悪い悪い、てっきり猿の群れでも潜んでいるのかと思ってな」
丸っきりの棒読みで、揶揄っているのが丸わかり。
「おのれ等、随分舐めた真似をしてくれたよな。それとそこのガキ、そいつは俺達が奴隷に使ってやるつもりだ、寄越せ!」
「えっ・・・そんな予定は有りませんけど。ご予約をしてますか?」
〈プーッ〉てシュリエさん吹き出すと、腹を抱えて笑っている。
「このー糞ガキが、ちぃーっとばかり行儀を教えてやらんといかんな」
「あっ、お構いなく。礼儀作法を習っても、冒険者じゃ役に立ちませんので」
風神の皆さんが笑い転げてますがな。
「それと皆さん達は、風神の方達にご用が有ったのではないのですか」
「おいおい、折角忘れているのだから思い出させてやるなよ」
「そうよ、坊やと遊びたいみたいよ。折角だから遊んであげなさいよ」
「嫌ですよ、こんな毛むくじゃらの筋肉オークの相手なんて。俺は薬草採取で食べていくつもりです。オーク相手は風神の皆さんでどうぞ」
短気だねえ、いきなり抜刀して斬りかかってきたよ。
まっ、魔力を纏って身体能力がアップしている今の俺なら、楽に躱せるけどな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます