第6話 間抜けな俺

 寒さに震えながらも生活魔法の実験を続けて、ホーンラビット1羽とヘッジホッグ1匹が獲れた。

 捕獲方法は溺死、ウォーターの球体をイメージして体を包む様に出してみた。 中二病の言葉を試してみると、球体の水が出来たので応用してみた結果、良い狩りの道具になった。

 難点は飛ばない事と1m近い水球の中で水死するのを見る事に、生活魔法の発現が約20m圏内って事かな


 陽が昇ると直ぐに背負子を取り出し、ホーンラビットとヘッジホッグを括り付けて街に向かった。

 開門を待ってアイリの所に行くと、今日も草原の嵐の皆さんが治療に来ている。

 動きも滑らかになっているので、今日明日辺り稼ぎに出られそうだ。


 「お早う御座います。草原の嵐の皆さん」


 「おう、て何だそれは」

 「ホーンラビットとヘッジホッグじゃねえか」

 「昨日今日冒険者になって、あっさり獲ってくるか」


 「皆さんお体の具合は如何ですか」


 「かーっ、お陰さんで本調子になったよ。大散財だぜ」

 「俺なんて借金が出来ちまったぜ」


 「大変ですねぇ、頑張って稼いで下さいね」


 〈誰のせいで借金が出来たと思ってるんだ〉

 〈俺は彼奴には絶対絡まないわ〉

 〈俺も、しれーとしてお早う御座いますだってよ。ケッ〉


 何やら、ブツブツ文句を言いながら帰っていった。


 「アイリ稼げたか」


 「全部で銀貨20枚になったわ。二人はもう二回ほど来て貰うので4枚追加ね。しっかり稼げたわ、有り難うね」


 「暫く此処に居れば、彼奴らが怪我人を紹介してくれるさ。じゃ、又鴨がいたら連れて来るからよろしくな」


 「何処に行くの」


 「これをギルドに売りに行って、ロープと布団を買わなけりゃ寒くて死にそうなんだよ」


 訳を聞かれて話すと、呆れられた。


 朝の混雑時にギルドに行くと、ジロジロ見られたが取り合えず獲物の買い取りを依頼する。

 ヘッジホッグ銅貨7枚、ホーンラビット銅貨3枚になった。

 支払いカウンターで銅貨10枚を受け取ると昨日の店に行き、20mのロープ2本と寝るための寝袋の様な物が無いか尋ねてみた。

 出された物は厚手のローブの様な物でフード付きだ、聞けば半分を下にして横になり残りを被って寝るのだと。

 説明を聞くと、森で布団に入って寝ていたら非常時に起きられないよなと納得。

 冬にはどうするのと聞くと、内側に毛皮を貼るんだとさ、冒険者の知恵かな。


 ロープとローブで銀貨6枚・・・残金銀貨2枚と少々で懐も寒くなってしまった。

 街を出て昨日の場所に向かいながら考えて、昼に樹上で寝て夜に昨夜のように狩りしてみることにした。

 比較的安全な薬草採取の方が良いのだが懐が寂しすぎるので、誰にも見られず安全に生活魔法で獲物を獲るには、夜の方が都合が良い。


 12、3m離れて立つ立木の上部にジャンプして上がり、ロープの一方を固く結ぶ。

 向かいの木に、結んだロープの反対側に錘を付けて投げて枝に掛ける。

 そのまま向かいの木にジャンプして、投げたロープをギリギリに引き絞り固く縛る。

残りのロープを腰に巻き張り詰めたロープに通すと、自衛隊レンジャーの綱渡りの真似事だ。

 張り詰めたロープの途中に付けた結びを利用してハンモックをセットする。

 股間がヒュンヒュンするが、寝てる間の安全が最優先なので我慢する。

 なんとかハンモックに納まりタープを被せると良い塩梅で、串焼き肉を齧って腹を膨らませるとそのまま夢の中に沈没。


 目覚めた時は真っ暗闇、ちょっと深く寝過ぎたと反省する。

 寝ていても、気配察知や危険察知が出来るように練習しておくべきだったが、孤児院では無理だったしな。

 タープをめくると月が出ているが頭上の枝葉が邪魔で暗い、下からは見えないだろうから都合が良いので気配を探る。

 今晩も雑多な獣の気配を感じるが、頭上にも感じる?

 そっと感じる気配に上を見ると、何か居るのは間違いないがよく判らない。

 気配に向かってフラッシュを浴びせる。


 前夜のネコより一回り小さい奴だが、牙の大きさから危険と判断したが、目がくらんだのか枝の上で立ち竦んでいる。

 今度は顔の正面で二度目のフラッシュを浴びせると、驚いて木から落ちそうになっている。

 目が見えなくても本能で枝に爪を立て落下を防ぎ、ウガウガと喚いている。


 参ったね、二日続けてネコと遭遇するとは、しかし襲われなかったのはロープを伝って俺の所まで来られなかったからだろう。

 後は猿対策が出来れば、夜を安全に過せるだろう。


 人が真剣に夜の安全について考えているのに、ウガウガ煩い!

 煩い口を塞ぐ為に、強力なフレイムを口一杯に詰め込んでやった。

 静かになったが〈ドサッ〉っと物が落ちる音に下を見ると、未だ口の中にフレイムを咥えたネコが落ちて痙攣していた。

 ん、・・・ひょっとしてネコ一匹殺しちゃったかな、暫く見ていても動かないので放置するのは勿体ないので拾いにいく。


 ネコの居た場所にライトで目印を作りそこにジャンプ、ついで下のネコの所にも目印のライトで照らしてジャンプ。

 鼻先から尻まで1.6m前後ってところで、これなら空間収納に納まるので収納に入れると、直ぐに元の枝にジャンプして安全確保。

 ハンモックにジャンプで戻ったが、揺れて落ちそうになり冷や汗をたっぷり流した。


 勿体ないので拾ってきたけど、当分ギルドには出せないだろう。

 登録3日目の新人が、買い取りに出す代物でないのは俺でも判るので時期をみて売り払う事にした。

 然し、やっぱり街の外は危険だね。

 気配察知をより洗練させるのと、逃げの転移魔法を瞬時に使う練習も毎日欠かさずにしよう。


 夜明けまで気配察知と夜目を頼りに下を見続けたが、ホーンラビットが1匹獲れただけで現実は甘くないって事だ。

 生活魔法のウォーターが20m程の距離でしか作れないので、攻撃範囲が狭すぎるのが原因かな。

 早く薬草の知識を身につけて、魔法は身の安全の為だけに使えるようになりたいものだ。


 4日目の朝食糧不足の為一度街に戻る事にしたが、獲物はホーンラビット3匹とヘッジホッグ1頭のみ。

 転移魔法の練習の為に、街道まではジャンプで移動する。

 軽い疲れを感じたのでジャンプは中止して歩き、街の出入り口に行くと門前に一組の冒険者パーティーが待っていた。

 女性一人にむさいおっさん5人、ジロジロ見られたが素知らぬ顔で後ろに並ぶ。


 「あら、可愛い坊やだけど一人なの」


 「はい、一人です」


 「なかなか肝の据わった坊主だが、夜の街道を一人とは感心しねえな」


 「あっ街道じゃありません。森で木の上にハンモックを吊して寝ています」


 「余計悪い。余り長生きしそうにないな」


 「どこかのパーティーに入れて貰って、冒険者の事を一から覚えた方が良いわね」


 「有り難う御座います。どこか良さそうなところが有ったら入れて貰います」


 そんな話をしていると、衛兵が出てきて開門となった。


 「坊主はこの街の冒険者なんだろう。ギルドまで案内してくれや。フルンの街は初めてなんだ」


 そう言われてよく見ると旅をしている風で、流れの冒険者パーティーとか憧れるね。

 彼等は全員シルバーランクの冒険者で、旅の旅費稼ぎにフルンの街に来たらしい。

 気の良さそうな人達なのでこの街の注意点、子爵の馬車に気をつける様に教えておく。

 

 彼等は〔風神〕って、何処かで聞いた様な名前のパーティーだった。

 彼等をギルドまで案内すると、俺は買い取りカウンターに向かう。

 背負子を降ろしかけると後ろから引っ張られた。


 「おらっ、ガキは後だ、どけっ」


 偉そうに割り込んできたのは、筋骨隆々を具現化したようなおっさん5人。

 おっ冒険者ギルドのお約束が始まるのかとワクテカしたが、相手をするのは自分だと気づき、揉めるのは嫌なので後ろにさがる。

 見ればマジックポーチから漆黒の熊が出てきた。


 「おい、ブラックベアの大物だ。高く査定しろよ」


 ほえー、凄えなぁ、態度がでかいのも頷けるよ。


 「なんだ、偉く態度がでかいのでどんな大物を出してくるのかと思ったが、可愛い熊ちゃんとはね」


 かなり挑発的な声が掛かる。

 振り向けばさっきの風神の皆さん、女性の人が俺にウィンクしている。


 「どけよ、獲物で順番が決まるなら俺達が先だ」


 「なんだお前等は。大口叩くのならこれより大物を持っているんだろうな。ちんけな物を出したら、覚悟しておけよ」


 「能書きはいいからどけよ。俺達は小物だが、それよりも大きいゴールデンベアだ」


 そう言って出した獲物は、買い取りカウンターが完全に見えなくなるサイズのゴールデンベア・・・初めて見たよ。


 「お前等、張り合うのは余所でやれ! 獲物は解体場でだせ! 馬鹿が」


 凄い剣幕で、買い取りのおっちゃんが怒っている。

 カウンターの上のゴールデンベアを、マジックポーチに戻しながら舌を出している。


 「坊主は此処に出せば良いんだよ。邪魔したな」


 そう言って解体場に向かった風神様ご一行、格好いいねー憧れるよ。

 憧れの目で見送っているのに、無粋な奴が邪魔をする。

 何時もの癖で軽く魔力を纏っていたのが幸いして、その気配に気づいた。

 とっさに頭を抱えてしゃがみ込んだら、頭上を毛むくじゃらの腕が通過した。

 危っぶねぇーなぁと見上げると、割り込んできた筋肉オヤジが額に青筋を浮かべて俺を見下ろしていた。

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