第5話 手抜かり

 目覚めは最高だが直ぐさまアイリの所に行き、草原の嵐が大人しく治療を受けて料金を払うか監視する必要がある。

 孤児院に行くと丁度奴等がやって来るところだった。


 「お早う御座います。草原の嵐の皆さん」


 「あー朝っぱらからえらいのと出会っちまったぜ」


 「なんか酷い言われようだね。治療しないで帰る?」


 「ちゃんと金を払って治して貰うよ。姉ちゃん居るかい」


 アイリを呼びに行った序でに、怪我の酷い奴はもう一回来なきゃ治らないと言って手抜きして治せと助言しておく。


 「あんたって案外悪どいのね」


 「へぇー、アイリがそれで良いなら治してやりな。腕の良い治癒魔法使いは評判になるから、エルドバー子爵様が召し抱えて下さるぞ」


 「判ってるわよ、他人より少し腕が良くて安い治癒魔法使いを目指すわよ」


 「それが無難だよ。朝飯買って来たから治療が終わったら食おう」


 治療が終わって奴等が帰ると、昨日買っておいたパンを取り出し二つに分けて食べる。


 「昨日と今日で銀貨10枚かぁ、エディのお陰で楽に稼げるわ。で、あの五人と何処で知り合ったの」


 昨日の冒険者登録からの流れを話すとアイリが呆れていた。


 「でもこれなら案外早く此処から出て行けるわね」


 「それな、もう暫く此処に居た方が良いと思うな。昨日一日でホテル代と飯代だけで銅貨4枚だぜ一食鉄貨8枚にこのパン二つで銅貨1枚だ。名前が売れて最低毎日銀貨1枚は稼げる様になるのを待てよ。此処を出て行くのに銅貨5枚貰っても何の役にも立たないよ」


 「でも皆此処から出て行って頑張ってるよ」


 「それは神父様がそう言ってるだけで、誰か一人でも帰って来たか? 冒険者になった奴なんてほぼ全員死んでると思う。荷運び等しながら聞いた話と、昨日の出来事を考えればな。此処を出て行く前に何処か仕事を見付けられれば良いけど、仕事が見つかって出て行った奴がいたか。魔法が使えなければ、女は娼婦になるのが関の山だ。皆仕事が無いから危険な冒険者をやってるんだ」


 真剣に考え込むアイリに、又来ると言って孤児院を後にする。

 取り敢えず冒険者をするにも、服とブーツに武器が必要だ。

 冒険者御用達の店がギルドの近くに在ったはずなので取り敢えず一式手に入れる事にする。


 店は雑貨屋って雰囲気、先ず服だが新品は銀貨5枚以下の物は無かった。

全て手作りの世界で量産品など無いので仕方が無いが、銀貨50枚では無駄使いは出来ない。

 散々悩んで足下だけは良い物を買う事にし、靴下とブーツを買ったが銀貨12枚。

 靴下2足はまけて貰った。

 ズボンとフード付きのジャケットは古着で銀貨6枚

 小振りなナイフと剣鉈の様なナイフ2本で銀貨5枚

 テントは諦めてタープとハンモックで銀貨8枚

 背負子が銀貨3枚

 手槍銀貨6枚

 下着と薬草袋で銀貨3枚

 残金銀貨7枚だ、あっという間に昨日の稼ぎが消えたが安すぎる物は直ぐに使い物にならなくなるので仕方がない。。

 今日からはホテルは止めだ、食うだけなら一月はいけるので、この間に薬草などの知識を仕入れようと思う。


 冒険者ギルドに行き、薬草買い取りカウンターにいるおっちゃんに薬草の知識が無いので見本が在れば見せて欲しいとお願いしたが、現物が無いとあっさり断られた。

 ラノベの様に親切丁寧なギルド職員っていないのね。

 昨日も強引に草原の嵐パーティーに強制入会させられているのに、誰も何も言わなかったし。


 冒険者ギルドを出て薬師ギルドに行き薬草の見本を見せてと頼むと、常に必要な薬草の見本を見せてくれ、冒険者ギルドと同じ値段で買い取ってやると言った貰えた。


 ◎紫汁草、薬草は草丈40~50センチの薄紫の茎と葉で、先端と両横に2本づつ尖っているが痛くない。ポーションの基礎材料の一つで根を採取、量り買い(銅貨10枚分の重さで銅貨1枚)

 ◎円葉草。丸い肉厚の葉が交互に生えている。熱冷まし、10~15センチの葉だけ採取。20枚で鉄貨7枚

 ◎紫葉の花。毒消し(花)紫の花びらが葉の形をしている。花びら20枚で銅貨1枚

 ◎花蓮草。咳止め、朝顔に似たつる草の芋。鉄貨30枚分の重さで銅貨1枚。

 ◎酔い覚まし。吐き気け二日酔い。草丈は約1メートル百合の花に似た花が茎に添って5~6個上向きに咲く花の色は黄色、蕾だけを採取する事。蕾一つ鉄貨4枚


 紫汁草、根を採取、量り買い(銅貨10枚分の重さで銅貨1枚)

 円葉草、葉20枚、鉄貨7枚

 花蓮草、咳止め、芋鉄貨30枚分の重さで銅貨1枚。

 紫葉の花、毒消し、銅貨1枚

 酔い覚まし、蕾、蕾み一つ鉄貨4枚


 丁寧に説明してくれたが、覚えられない。

 取り敢えず見分け方と採取部位だけを覚えて数は有るだけ採って来る事にした。

 その内色々覚えるだろうと思うから。


 お礼を言って薬師ギルドを後に市場に向かい、串焼き肉6本とパンに肉や野菜を挟んだ物6個買い、銅貨5枚に鉄貨4枚払って街の外に向かう。

 街を出たのはお昼過ぎ、今日は昨日行った場所の近くで野営するつもりだから薬草探しはしない。

それよりも無事に一夜を過ごせるか、それが問題だ。


 その為に早めに野営地を決めて、安全確保を図らねば俺に明日は無い。

 ちょっとシリアスに決める。

 街道から草原に入る前に魔力を纏い気配察知で安全か確認しながら昨日の場所を目指す。

 なにせ一人だからゴブリン相手でも勝つ自信は無いが、先に見付けたら逃げる自信はある。


 空間収納から手槍を取り出し、気分を落ち着かせ慎重に歩む。

有った、目的の木はハンモックを吊るには良い枝振りだし高さも上々、木登りに自信は無いが俺には転移魔法って神様の祝福が在る。

 練習で屋根の上に度々ジャンプして、それなりに使える事も確認済み、エディくんに抜かりは無い。


 目的の枝をよく見てジャンプ、ウォーッととと、掴まるところが無いー。

 何とか枝にしがみつき、落ち着いて収納からハンモックを取り出し、枝に吊す為に・・・吊す為にはロープがいる。

 が、ロープを買ってない、なんて間抜けなんだ俺って。

 地上に降りてロープ替わりの蔓を探すが、漫画じゃ在るまいしそう都合良く見つからない。


 細い蔓を数本見つけただけ、細くてハンモックを吊しても耐えられないのは確実、細い木を切り野営のために座れる場所作りを始める。

 二股の枝に横木を括り付け座れるように細工し今日はタープに包まって寝る事にする。


 陽が暮れるまで木の枝に作った椅子に座って周囲を観察、遠くにゴブリンが5匹、ごそごそ草叢を揺らしながら近づいて来るのはホーンラビット。

 その先にいるのはヘッジホッグ、所謂ハリネズミだけどでかい。

 ホーンラビットより一回りは確実にでかい、日本で見た可愛いハリネズミの印象が消し飛ぶ。


 話に聞いていたけど居るんだね、狩猟するとしたらヘッジホッグやホーンラビット後は精々ゴブリン程度に願いたい。

 魔力を纏って闘うと言えども、無理をして怪我をしたら命に関わるからな。

 それに魔力を纏って筋力アップと謂えども、荷物持ちと戦闘では全然違うのは常識。

素早さアップも人相手ならそれなりだろうが、野獣相手に通用するかどうか試す気にもならない。

 ハイエナの様な少し斑な奴はなんて名前だっけ、あれも結構大きそうだし恐い世界だね。


 陽が暮れて少し風が出て枝が揺れる、月が昇るまでの闇の中で何かが近づいて来る。

 気配を殺し闇を透かして見ると大型のネコ科のようだ。

 マジかよ、こんなのと木の上でこんにちはなんて最悪だぜ、木の幹を見つめて軽くジャンプして幹に爪を立てたと思ったら、あっという間に俺の座る枝に到達。

 俺がいると思っていないのか下を見て獲物が通るのを待つ構えになったよ、こんな奴と同居はごめんだ、俺の生活魔法の威力を見せてやる。


 口の中でフレイムと呟き枝に伏せるデカネコの鼻面に拳大の火を出現させた。

 〈ギャーッ〉悲鳴を上げて飛び上がると枝から落ちそうになり必死に爪を立てて枝にぶら下がる。

 無理して粘らなくてもいいのに、仕方が無いのでもう一回鼻面にフレイムをプレゼントする。

 〈ギャーッ〉二度目の悲鳴が下に向かっていく、

 枝の途中でなく根元にいたら餌にるなところだったよ、やれやれです。

 今夜は安全に眠れそうもない。


 明日はロープを買ってこなきゃ安心出来ないね。

 魔力を纏っていると体力だけでなく視力や聴力も良くなるので、夜の草原では中々有能だ、中二病の彼奴が喜びそうだ。

 俺を殺した罪で死刑になれば笑ってやるのに見られないのが残念。


 寒い・・・少し風が出ているとはいえ寒い、ハンモックとタープを身体に巻き付け寒さに耐える。

ロープの他に寝袋かそれに代わる物を探して買っておかねば、低体温症で死ぬわ。


 寒さに震えながら地面を観察し時々うとうとと微睡むが、それにしても結構獣が多い。

 ゴブリンに名も知らぬ大型のネコ、ハイエナの様な奴、ウルフ2種類と猪2種類ごっつい角の牛に鹿等もいた。

 猿も居たな、結構でかい牙を持つ猿で木に近づいて来たので、実験にライトの強化版にと考えていたフラッシュを試した。

猿は目の前でストロボの様な閃光に目がくらみ、暫く目が見えなかった様でふらふらと彼方此方にぶつかりながら去っていった。

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