第4話 ビギナーズラック

 残りの3人が立ち上がり剣を抜きかけたが、のんびり待つ趣味はない。

 収納から取り出した石を正面の男の顔面にストレートで投げる。

 カーブやシンカーが投げられる訳ではないがここは気分だ。

 直ぐさま右横の男の鳩尾に肘を叩き込むと腕を掴んで位置を入れ替え、最後の1人の攻撃を躱す。

 うん、魔力を纏っての初めての戦闘だが何時もの2倍以上の早さで動けている。

 体制が入れ替わった為に俺を切り付けようとして仲間に斬りかかり、慌てている奴の脇腹に蹴りをいれる。


 蹴った足の感触が気持ち悪い、絶対肋骨を2,3本折った気がする。

 脇を押さえてしゃがみ込む男の剣を拾い上げ、男達の顔を剣の腹で殴りつける。

 全員戦意喪失したようで立ち上がらないが、此処で手抜きをしないのが俺の性格だ。

 止めは確実にしておかなければ、後で泣きを見るのは自分だから。

 収納から取り出した石に布を巻いた物を取り出し、再び攻撃を再開する。

 うん、剣よりこっちの方が遠慮会釈無く殴れて気持ちいい。


 〈参った、止めてくれ〉

 〈悪かった、勘弁してくれ〉

 〈俺達が悪かった許してくれ〉


 「あーん、止めてくれ、勘弁してくれ、許してくれ。何を偉そうにくれくれ抜かしとんじゃ! お前等俺を強制的に〔草原の嵐〕なんてダサい名前のパーティーに入会させてくれたよな。いったい何様のつもりだったんだ、此処までの荷物の運搬料を払え! 強制入会だから入会金を俺に寄越せ! 背負子とナイフを買ってやると言ったんだからそれもきっちり買ってもらうからな」


 全員の剣と荷物を尻の下に敷いてお説教タイム。

 返事をしないのでもう一度石ころ攻撃を始める。


 〈わっ判った、買う買うよナイフと背負子だよな〉

 〈俺達のパーティーに入らなくても良いです〉


 「ヘッ・・・何言ってるの、入会したら俺達の許可無く抜けられないって言ったじゃない」


 〈いやあれは冗談です〉


 「ふざけるな! そんなに簡単に入れたり出したりする気か。大体俺達って言ったら俺も強制入会といえ仲間の一人だろう。俺は認めんぞ、お前等がそう俺に教えたんだろうが」


 その間も石ころ攻撃は続けたので、顔の傷はともかく体中痣だらけになっている筈だ。


 「済みません勘弁して下さい。入会金も退会金も支払います」

 「お願いします抜けて下さい」

 「申し訳ありませんでした」


 「仕方がないなぁ、抜けてやるよ」


 ほっとした顔をしているが、俺を此処まで引き摺り出した料金は高いぞ。


 「じゃー入会金は一人銀貨一枚ね。退会金は一人銀貨五枚くらいかな。それと荷物の運搬料は、お一人様銀貨二枚にまけておきますよ。そうそう、ナイフと背負子の代金も頂かなくっちゃね。ナイフと背負子のお値段って幾らぐらいします」


 「それは酷いじゃないか」

 「俺達より悪辣だ」


 「えっ皆さんのパーティーに強制的に入れられたんですよ。なんで僕がお金を払って入らなきゃならないんです。嫌々入るんですからお金を貰わなくちゃ嫌ですよ。それに辞めたくないのに辞めるんですから」


 「わっ判った支払うよ銀貨8枚支払います」


 「えー、ナイフと背負子の代金は呉れないんですか。やると言ったじゃないですか」


 「あんまりだ、足下見すぎぜ。畜生だれだ、鴨がいるって言った奴は」

 「俺はそんな金なんぞ持って無いぜ。好きにしろ」


 「あっそう。人を食い物にする気だったのに居直る気か」


 収納から又布に包んだ石を取り出し、思いっきり顔面に打ち付けた。

後ろに吹き飛ぶが遠慮などしない。

 3発殴ったら支払いますと土下座しやがった、この世界にも土下座ってあるのね


 金のない奴は仲間から借りて支払ってくれる太っ腹な態度です。

 何時もニコニコ現金払い、て言葉を思い出したよ。

 仲間に金を貸した男がマジックポーチらしき物を持っている。


 「なぁ兄さんそれってマジックポーチかい」


 「これは駄目だ。殺されてもお前には渡さないぞ」


 「俺は盗賊じゃないぞ、興味があるから聞いただけだ。それってどれ位入るんだ、それとお値段は幾らくらいするの」


 「本当だな、絶対に渡さないぞ」


 俺を強盗の様に思っていやがる。

 ランク2と呼ばれるお財布ポーチだってさ、2メートルの立方体程度の容量で、お値段金貨30枚だって。

 それなら俺の空間収納と同じレベルじゃないの、もう少し大きいのはどれ位のお値段か聞いたら知らねえと即座に言われた。


 お一人様銀貨10枚を頂戴し、目出度く草原の嵐から脱退出来ました。

 一日で銀貨50枚、金貨に換算して5枚、毎度ありーですよ。

 冒険者登録した初日の稼ぎにしては上々の出だしだね。

 これってビギナーズラックて言うのかな、ちょっと疑問。


 「じゃー俺は帰りますね」


 「えっ散々痛めつけて森に放置するのかよ」

 「鬼畜だ。ギルドに訴えてやる」


 「あーそれは通用しないと思うよ。ギルドのカウンターの前で俺を強制入会させ、荷物を持たせて連れ出したのを皆が見ていたからね。料金を決めずに俺に担がせるのが悪いのよ。言っておくがお前等の様な屑が、孤児院出身者や大人しい奴を奴隷あつかいし、殺しているのを知っているんだよ。直接殺してないと言いたいのだろうが、獲物の囮に使ったり怪我をしたら放置して殺しているのは有名な話だからな。自分が死ぬ番になったからって泣き言を言うな」


 「お願いです。街まで連れて行って下さい。お金は払います」

 「お願いします。二度としませんから許して下さい」

 「死にたく無い、捨てないで」


 なんか奇妙な言葉を聞いたけど、怪我人五人に荷物まで運ぶのは無理だよ。

 荷物をお財布ポーチに入れたら我が身だけだから歩けるだろうと言ったら、他人の荷物まで入れる余裕はないと胸を張って断っている。

 仲間思いだね。

 仕方がないので荷物を無料で持ってやるから歩けと命令して街に向かう。


 途中愚痴る愚痴る、こんな顔でギルドに顔を出したら馬鹿にされるとか、明日から稼ぎに出るのも身体か動かないとか、自業自得だろうが。

 そう思っていて閃いた、アイリのお客さんにしてしまえってね。


 「なぁ草原の嵐のおっさん達」


 「誰がおっさんだ、俺は未だ若いんだ」


 「おっさん歳幾つよ」


 「未だ39だ」


 俺は、お前等と漫才する気はないぞ。


 「39で若いって幾つまで生きる気なんだよ」


 「俺は狼人族だから170~180は生きるんだ。まだまだ若いんだおっさんではない」


 「はぁそうですか。ところでおっさん達安い治癒魔法使い紹介しようか、ちゃんと金さえ払えば治せるぜ。顔の怪我で銀貨1,2枚だろうと思うけどな。そこそこ腕は良いけど一度に全部治すのは無理だぜ」


 「払う払うから顔だけでも治してくれ、頼む」

 「俺も金は払う。この顔でギルドに出向いたら何を言われるか知れたものでない」


 金の無い者は仲間から金を借りて、怪我を治したいから紹介してくれと泣きついてきた。

 毎度ありがとう御座いますと言いそうになったが、稼ぐのはアイリだった。


 陽も落ちて閉門前になんとか街に辿り着いたが、衛兵にじろじろ見られて気まずそうだった。

 俺は4人の荷物を担ぎ知らぬ振りをつらぬく、こんな奴等とは仲間じゃない、ただの雇われ荷物持ちだ。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 教会の入り口で待たせ、裏の孤児院に回ってアイリに説明に行く。


 「アイリお客さんを連れて来たぞ」


 「エディ、あんた今日冒険者登録に行ったんじゃないの」


 「ああそうだよ、そこで知り合った奴等を連れて来たのさ。顔が変形しているから2,3回に分けて治してやってくれ。一回銀貨一枚は取れよ」


 「あんた何かやったの」


 「詳しい話は別の日にするから、取り敢えずお客さんの顔を治してやってよ」


 奴等を教会の片隅に連れて行き、前金で銀貨1枚づつ払わせる。

 アイリが奴等の顔をマジマジとみて溜め息をつき、真剣な顔で治療を始めた。

 おーデコボコの顔が人並みに戻っているが、手を抜くのを忘れるなよ。


 「これ以上は魔力が持たないわ。明日の朝もう一度来てくれたらなんとかなると思うわ」


 ナイス、アイリ商売上手だねー。


 「だそうだよ。何処か安宿に泊まって朝一番にくれば顔は何とかなりそうだよ」


 「姉さん、おれ脇腹の骨が折れてると思うんだが治るかな」

 「俺も絶対に骨が折れてるよな」

 「遠慮なく殴りやがって、クソッ」


 「はぁーん」


 「いっ、いやあんたの事じゃねぇ・・・です」


 「その姉さんに手をだすと、手痛い反撃を受けるから気をつけな。大事にしてると格安で怪我を治してくれるからな」


 「判ってるよ。こんなに安くて腕が良いとは大したもんだ、明日の朝も頼まぁ」


 アイリに明日の朝も来るからと伝え、宿を探しに冒険者ギルドの近くに向かう。

 草原の嵐のせいで飯を食ってないのに気がつき、通りの屋台に飛び込んだ。

 孤児院の食事と違ってスープに肉が入っているし野菜も筋がない柔らかさで満足して料金を払う。

 パンと肉の塊にスープと野菜の煮付けで、鉄貨8枚800ダーラ・・・日本円で800円くらいかな。

 パンに肉と野菜を挟んでソースを掛けた物が鉄貨5枚で売られていたので2個買い、人に見られない様に収納にしまう。

 屋台で聞いたホテルは銅貨3枚だが、清潔なシーツに綺麗な布団で転生以来初めて満足して眠った。

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