第3話 強制入会

 そんな事でと聞いてくるので、俺の生活魔法を見せてやる。

 井戸に行き木桶にウォーターで水を出すが、水が溢れ続けるのを見て呆れている。

 フレイムも直径1メートル位の火球になる、それを小さく小さくして濡れた木桶に押し付ける。

 1センチにも満たない小さな炎だが濡れた木桶から煙が上がる。

 

 「言われたとおりに出来るようになれば、これくらいの事が出来る。身を守るくらいは出来るな。さっきの小さな火が身体に当たれば、ファイアーボールを喰らったのとは違った痛さが在ると思う。まぁ飛ばせる訳じゃないけど、10メートル位の距離なら、好きな所に火を点けられる様になったぞ」

 

 「やるわ、治癒魔法が使える様になってやる」

 

 「俺が16才になる迄に後半年ちょいあるから、それまでは教えてやるよ。でも忘れるなよ、どうして使えるのか聞かれたときの答え方を」

 

 「エディあんたそれほど生活魔法が使えるなら、リフレッシュも使えるかも知れないわね」

 

 「リフレッシュ?」

 

 「あーなんて言えば良いのかな、クリーンのもっと強い生活魔法だって聞いたわ。ツヤツヤお肌とか髪の毛サラサラになるって。ねっ私で試してみてよ」

 

 「やめとく、アイリがツヤツヤお肌とサラサラ髪の毛になったら、デブの神父様が今夜部屋に呼んでくれるぞ」

 

 鳥肌たてて身震いしている。

 

 「生活魔法を俺の様に使えれば、デブの神父様も手出しが出来なくなるさ」


 アイリが魔力を感じられる様になったのは一月程してからだ。

 

 「ねぇエディ、お臍の奥少し上辺りに何かモヤモヤしたものがあるわ。此れが魔力なの」

 

 「それが分かったなら次は潰したり丸めたりするんだな。パンを作る時に、小麦粉を捏ねたり丸めたりするだろう。それと同じ事をやるんだ」

 

 「触れもしないのにどうやって捏ねるのよ」

 

 「魔力を感じたんだろ、その感じた感覚で捏ねたり丸めたりしていると毎日想像してみろよ。夜寝る前に必ずやれよ、それが出来る様になったら後一息だ」

 

 一週間もせずに出来ると言ってきたので次に進む。

 体内で魔力の渦巻きを教えず、両手を合わせ魔力を体内から腕に通し、反対の腕から体内に戻す方法を教えた。

 アイリも言われたことが出来るのが嬉しいのか、暇なときには両手を合わせて魔力を巡らせている。

 此処まで二月少々で出来たので、最後の魔力放出を教える事にした。

 

 「アイリ最後だ、毎日寝るときに魔力循環をしながら合わせている手を離せ。体から魔力が抜けていくのが解るから、魔力が抜けきったら、気絶したように寝てしまうから。俺は毎日此れをやったお陰で、魔法が使える様になったのさ。俺の居る間は俺が見張っていてやるから、安心して魔力切れを体験しろ」

 

 三ヶ月少々アイリは毎日魔力切れでパタンキューの日々を送った。

 生活魔法のウォーターで木桶1杯の水を出せるし、フレイムで直径50センチ近い火球も作れるが小さな炎、コップ一杯の水を思って使う練習もさせた。

 俺が見せた小さな炎も楽々作れるし、周囲5,6メートルの任意の所に自在に作れると喜んでいた。

 余り人には見せるなと釘を刺しておく。

 いざとなったときの切り札をホイホイ見せると、肝心なときに防がれるから。


 ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


 16才の誕生日を迎えて孤児院を出ていくとき、デブでケチな神父様が銅貨5枚を生活費としてくれた。

 流石はケチな神父様、銅貨5枚5,000ダーラじゃ2日と持たない金額だぜ。

 まぁ、食費稼ぎの仕事の報酬を、少しずつ掠めて空間収納に貯めているので、一週間くらいは生きていけるかな。

 

 「アイリ暫くは魔力放出は止めておけよ。最近デブの目付きが、大分悪くなって来たからな」


「判ってるわ舐め回すみたいな目付きよね、一度痛い目に合わせてやるわ。治癒魔法を使って治すこともしないから。エディあんたが冒険者になって稼ぎが良いなら、此処を出ていく手助けをしてね」

 

 「まあ、やってみなきゃ分からないけど、それなりには出来ると思うよ。時々来てみるよ」

 

 別れるときにアイリが、精一杯の治癒魔法を掛けてくれたので、子爵の御者に殴られた傷が綺麗に治った。

 

 「腕を上げたなアイリ。上手く隠せよ」

 

 「判ってる、精々一度では熱を下げるか血止め程度にしておくわ」


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


冒険者ギルドに登録に行くと、新人狙いのむさ苦しいのがいっぱいいる。

 規約の説明を受け、魔法の登録は何も書かない。

 名前と年齢を書き用紙を受付のお姉さんに渡す。

 おば、と言った瞬間ギロリと擬音が聞こえる様な目つきで睨まれ、慌ててお姉さんと言い直した。

 かの有名な水晶玉に手を乗せ、次に魔力測定盤に手を置く。

 

 「エディくん魔力高20ね。これで登録は終わりよ」

 

 そう言って、冒険者登録カードを渡された。

 アイアン1級、登録魔法無し、魔力高20、名前エディ、人族3・エルフ1って・・・エルフの血が入ってるって事は長生きだが成長が遅いって事だよな。

 奴の知識では。

 登録地はフルン冒険者ギルドになっている、この街ってフルンって言うんだ初めて知ったよ。

 

 「よお兄ちゃん。登録が終わったなら、俺達が冒険者の事を1から教えてやるぜ」

 

 「結構です。当分街中で手伝いや溝掃除で食っていきますので」

 

 肩を組んでガッチリと掴まれる。

 

 「お前新人にしては度胸があるな。人の親切を断ればどうなるか解っていて断るのか」

 

 「はい、さっき規約を聞いて冒険者が、人を脅したり傷付けると犯罪奴隷になると教わりましたから」

 

 「いい度胸だ、街の中ではそれで通るが、外で合ったらどうなるか覚悟はしておけよ」

 

 耳元で低音の魅力たっぷりに囁いてくれる。

 冒険者の装備が何一つ無いので、このオッサンに多少融通して貰うことにした。

 

 「判りました1から教えて下さい。でも条件が在ります」

 

 「おう何だ言ってみろ」

 

 いきなり態度が変わり機嫌良さそうな返事だ。

 

 「見た通り孤児院育ちでナイフ一本持ってませんし、薬草袋や背負子も無いのでそれを貰えませんか。それらを用意してくれるなら教えを請いますが、嫌になったら何時抜けてもいいですよね」

 

 「お前物分りがいいじゃねぇか、良いぜナイフの一本や二本やるよ。んじゃ行くか」

 

 「えっ、ナイフ一本背負子も薬草袋も貰ってませんが」

 

 「小僧態度がでかいぞ、俺達〔草原の嵐〕に入ったなら黙って従え!」

 

 「約束も守ってくれないなら入会は止めますね」

 

 「舐めてんのかてめぇは。一度入ると言ったら、俺達の許可なく抜けられると思ってるのか」

 

 「判りましたどうすれば良いのですか」

 

 「荷物持ちからだよ馬鹿! 新人は荷物持ちと決まっているんだ。おらっ俺の荷物だ、持ってろ」

 「ほらよ、俺のも頼まぁ」

 「素直な良い子だねぇ」

 

 5人分の荷物を持たされ、街を出る羽目になった。

 冒険者家業初日からついてないなぁ。

 荷物運びは食事代稼ぎに、散々やったからいいけどさ。

 街を出ると草原を突き抜け森に向かう、人に荷物を持たせて馬鹿話をしながら前を歩く草原の馬鹿5人。

 森に入り周囲から見えなくなったのを確認して、休憩を要求する。

 

 「あのー、疲れたので休憩しますね」

 

 「あーん、何を舐めた事を抜かしとるんじゃ」

 「お前は、黙って付いてこい!」

 「冒険者になったら休憩なんぞは無い」

 「良い子は黙って荷物を担いでな」

 「少し鍛えてやるか」

 

 好き勝手言ってるよ。

 5人の荷物を投げつけてやった。

 受け止めそこねて吹っ飛ぶ者3人、逃げた腰抜け2人。

 顔色変えて腰の剣に手を掛けたね。

 

 「舐めてるのは己らじゃ、われ俺を誰じゃと思って意気がっとんじゃ」

 

 ちょっと似非河内弁で凄んでみたが、全然迫力が無いのは自分でも判る。

 空間収納からこの日の為に拾っておいた、石を取出し投げつける。

 

 1年半にも及ぶ魔力操作の成果を見せてやる!

 魔力操作と魔力を纏う練習をしていたといえ、16才になったばかり、しかも栄養不良でガリガリの身体だ。

 自身の3倍程度の筋力アップにはなっている筈だ、殺す気は無いので転んでいる奴のすぐそばの地面に石を投げつける。

 

 〈ドスッ〉て鈍い音がしたが投げた石が地面に跡をつけて転がっている。

 

 「野郎!」

 

 腰の剣を抜いた奴の腹を目がけ、再度石を投げる。


 全力で投げてもこの程度なら殺すこともあるまいと、思いっきり腹に投げつける。

 

 〈ウゲッ〉

 

 「お前新人相手だからと随分舐めた真似をしてくれたな。新人なら勝手気まま奴隷のように使えると思っていたのか。残念だな、約束は守って貰うぞ」


 転がっているボス格の男に話しかけるが、手には石にぼろ布を巻き紐を付けた物を持っている。

 序でにその石を包んだ物が何か理解出来るように振り回して見せる。

 鼻先をかすめて振り回される物が凶器だと理解して震えていやがる。


 ボス格の男と話していると誰か後ろに回り込んだのか、嫌な気配がする。

振り回している石をそのまま後ろの気配に叩きつける。


〈ゴン〉て嫌な音がして男が後ろ向きに倒れる。


「危ないよ。人が話し合ってる最中、後ろに立つもんじゃないよ」


 またボス格の男の気配が変わる。


 倒れた奴の方に前進して振り返ると、剣を抜き舌舐めずりする汚い顔が笑っている。

 馬鹿だ、俺の持つ武器が布に包んだ石だから舐めてるが、それを括った紐の長さを考えろと教えてやりたい。

 よく見える様に目の前に振ると、案の定紐を切りにきたのでそのまま切らせ、同時に踏み込んで股間を蹴り上げる。


 〈ウゴッ〉


 股間を押さえて悶絶している。

 痛いんだよねーそこは、俺もその痛さはよく理解出来る。

 でも容赦はしないのがエディ君の良い所、追撃に程よい高さにある顔面を蹴り飛ばす。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る