第35話 末永く

「……ん」


 目が覚めたら、紫月のベッドだった。

 ぼんやり、昨日のことが頭に浮かんでくる。


 恥じらいながらも俺を求めてくる紫月。

 かわいい声を出しながら俺を掴む紫月。

 はっきり脳裏に焼き付いた光景に、俺は少し体を熱くする。


「……やば」


 初めて経験した感覚に、思わず声が出る。

 すると横で、「んん」と声がする。


「……しゅうちゃん、やだ、えっち、むにゃむにゃ」


 隣で紫月が寝ていた。

 肩までしか見えないけど、多分何も着ていない。

 俺も、そのまま眠ったようで素っ裸だ。


「……起こしたら悪いか」


 紫月のあられもない姿を明るいところでみたら多分このまま襲ってしまいそうだから。

 俺はそっと布団を彼女にかけて、ベッドから降りる。


 着替えて、先にテレビでも見ていようとリモコンを探していると、足元に、昨日紫月が着ていた服が散らかっていた。


 それを見て、またドキッとして。

 なんか、今まで経験したことがないくらいに照れくさくなる。


「……しゅうちゃん?」

「あ、起きた? お、おはよう、紫月」

「……」


 寝起きだけど、今の状況で昨日何があったかをはっきり思い出したのだろう。

 紫月はすぐに布団へ顔を引っ込めて。

 なんかもごもごとつぶやいている。


「しちゃった……やだ、私えっちな女だっておもわれちゃう……み、みーっ!」


 悶えていた。

 まあ、顔を見るだけで照れるようなやつだから昨日のことが奇跡なレベルだけど。

 それに俺だって悶えたいくらいだ。


「……紫月。嫌じゃなかった?」

「……ううん、嬉しかった。しゅうちゃんが優しくて、ええと、その、きもちよかっ……やだー!」


 また、悶えていた。 

 でも、気持ちよかったんだ。

 なら……いっか。


「うん。俺、トイレ行ってくるから着替えろよ」

「あ、でも……まだ今の時間ならお母さんいるかも」

「そ、それはちょっと気まずいな」

「うん。だから……うう、うー」

「?」


 今度はうなりだした。

 そして、布団からひょこっと顔だけだして。


「……もっかい、しない?」


 そう言ってから、急に沸騰したみたいに顔をカッと真っ赤にする。

 俺も、一瞬で体が熱くなった。


「あ……ええと」

「ち、違うの……ち、ちう、ちゅーだけ、ええと……」

「……紫月、そっちいっていい?」

「……うん」


 朝から、昨晩の夢をもう一度。

 明るいからと、布団を被ったまま体を重ねて、小さく震える紫月を抱きしめた。


 なんか言葉では語れないほどの充実感と快感とで、やっぱり俺も頭は真っ白だったけど。


 今以上に紫月のことを愛おしく感じることなんてあるのかなって思ってた気持ちは、ちょっと変わった。


 幼馴染として、ではなく。

 一人の女の子として紫月のことを心底愛おしく思うと、そう実感した一日になった。



「……おは、よ」


 夕方。

 起きると当然のように紫月は照れていた。

 でも、前みたいに逃げたり喚いたりはしない。


「……しゅうちゃん、いっぱいした。えっち」

「紫月こそ……結構嬉しそうだったくせに」

「だ、だって……きもちよかったんだ、もん……」


 そのまま、俺に抱きついてきて「こういうの、ピロリロトークっていうんだよね」と、意味不明なことをいって笑わせてくれた。


「さて、さすがに一回帰らないと。母さんも帰ってくるし」

「あ、お母さん帰ってきてるかな……どうしよう」

「うーん、こっそり出ることできないかな? さすがにちょっと気まずいというか」

「じゃあ私、下の様子見てくる。しゅうちゃんは着替えてて」


 上着を着て、紫月はそろりと部屋の外へ。

 そして一度扉が閉まったあと、すぐに「みーっ!」と大きな声がした。


「ど、どうした?」


 慌てて外に出ると、腰を抜かした紫月が顔を真っ赤にしていて。

 視線の先を見ると、部屋の入り口の横に。

 貼り紙が。


『ちゃんと換気しなさいよ。あと、秀太君、末永くよろしく。母より』


「……」


 全部バレていたようで、一気に恥ずかしさが込み上げてきた。

 紫月は泣きそうな顔で「死にゅー!」と絶叫していたが、俺も死にそうなくらい恥ずかしくて。


 逃げるように俺は家を出て。

 紫月も穴に飛び込むように部屋に戻っていった。



「……おばさん、大丈夫だった?」

「うん。どうせなら晩御飯もしゅうちゃんとこで食べたらいいのにって揶揄われた」

「そっか。今度ちゃんと挨拶しにいくよ」

「うみゅ……」


 夜。

 ご飯を食べて風呂から出た後、紫月と電話中。

 紫月のお母さんはむしろ上機嫌だったようで、俺がくる時はなるべく家を空けるからとか言ってくれてたようだ。


 恥ずかしい……でも、まあ俺たちらしいのかな。


「しゅうちゃん……怒ってない?」

「なんでだよ。俺こそごめん。その……紫月の大切な初めてを、だな」

「しゅうちゃん……ううん、しゅうちゃん以外の人とは、そういうことするつもり、ないもん。だから……嬉しかったよ」

「そっか……うん、俺も」

「えへへ。でも、お母さんに末永くなんて言われたら、いよいよお嫁さんだね」

「言われなくてもそのつもりだよ。明日も、そっちいっていい?」

「待ってる。しゅうちゃん……大好きだよ」

「俺も。紫月、これからもよろしく」

「そこは好きって言ってくれないとー」

「ご、ごめん……大好きだよもちろん」

「えへへ、うそうそ。慌てるしゅうちゃんも大好き」

「……ったく」


 電話を切ったあと。

 すぐにラインで『おやすみしゅうちゃん』なんて来たのを見て、随分と恋人っぽくなったなあとしみじみ。


 あと少しの夏休みも、紫月と一緒に満喫しよう。


 それにもうすこしで二学期かあ。

 あんまりイチャイチャしすぎて、学校のみんなの顰蹙を買わないようにしないと、だな。


 

 

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